第429話 他班の動きと尊さ

 俺とアキ、シアは文化祭がもう少し近づいてから行う装飾作業までやることがなくなったので、次の日の放課後からは手伝えることがないか他の班を見て回る。


「俺は出会いと求めてちょっとでてくるわ!!」


 と思いきや、アキは一人でどこかに行ってしまった。


 まずは接客班。


「いらっしゃいませ!!お嬢様。はい!!」

『いらっしゃいませ!!お嬢様!!』

「よし、次!!いらっしゃいませ!!旦那様!!はい!!」

『いらっしゃいませ!!旦那様!!』

「声が小さい!!もう一度!!」

『いらっしゃいませ!!旦那様!!』

「ポーズが可愛くない!!もう一度!!」

『いらっしゃいませ!!旦那様!!』

「よし、次!!」


 どこにいるのかと思って他のクラスメイトに聞いたら、屋上にいる言っていたのでやってきてみれば、発声とポーズの練習していた。他のクラスの生徒は特におらず、ウチのクラスだけだ。


 それにしてもまるで軍隊かなにかの訓練のように厳しい。


 どうやら接客の研究にとても熱心のようなので、俺達は邪魔をしてはいけないと思い、そっと屋上の扉を閉めてその場を後にした。


 メニュー作成&調理班はすでにメニューの選定を終え、調理室で俺達がとってきた食材を使って調理を進めていた。


 そして、近くにはデザートを食べる少女たちの群れ。


「これうっまぁ……♪」

「やっばぁ♡」

「美味過ぎぃ……」


 俺達の班だけでなく、明らかに他のクラスの調理班の人員もいた。


「なにやってるの?」


 シアがクラスメイトに話しかける。


「あ、葛城さん。私達のスイーツを味見してもらっていたの」

「絶対食べた方がいいわよ!!」

「ホントホント!!」

「ダンジョン食材とか反則」


 どうやら自分たちの試作品を他のクラスの生徒にも食べてもらっていたようだ。クラスメイトが絶賛し、他のクラスの人も同意するように頷いた。


「これとってきたの仕入れ班なんだけど、この二人もそうなのよ」

「すっごーい!!」

「エモい!!」

「半端ないね!!」


 反応におかしなものが混ざっているような気がするけど、それは置いておいて俺達は何故か自慢げに紹介された。


 あれ?普段俺達いない者として扱われているのにどういうことなんだろうな?


 気にしたら駄目な気がしたので、それ以上は考えないことにした。


「葛城さんも食べてみてくれる?」

「ん。ふーくんのも」


 シアはすぐにクラスメイトの提案に乗り、空いてる場所に腰を下ろし、俺も引っ張られて隣に腰を下ろした。


「いや、俺は別に……」

「ふーくんのも」

「わ、分かったわ」


 俺は別にいらなかったんだが、一度座ったはずのシアがクラスメイトの顔にキスしそうなほどに無表情で近づいて俺の分も迫る。


 女子生徒は若干怯えながらも満更でもないように顔を赤らめ、顔を逸らして返事をした後で、皆に指示を出してスイーツを作り始め、あっという間に俺達の前に並べられた。


「ん。ありがと」

「ありがとう」


 俺とシアは早速食べ始める。


「ん。美味し」

「美味いな」

「そう、良かったわ」


 俺とシアが感想を述べると、作ってくれた調理班は満足そうに笑みを浮かべた。


「ん」


 シアが自分のをデザート乗せたスプーンを俺に向かって差し出してきた。つまりそういうことだ。


「いや、それはちょっと……」

「いや?」

「嫌なわけじゃないんだけど、恥ずかしいんだが」


 俺は流石に衆人環視の中でそれはとても恥ずかしいと思ったけど、シアのアホ毛萎れて、心なしか悲し気な表情を見たら流石に嫌だとは言えない。


「大丈夫」

「わ、わかった。あーん」


 何が大丈夫なのか分からないけど、グイっとスプーンを差し出されてしまえば、顔の何処かについてしまうので、食べざるを得ない。


 俺は仕方なくシアの差し出したスプーンを口に入れた。


「おいし?」

「あ、ああ。美味しいな」


 確かに美味いんだけど、恥ずかしさと緊張であまり味が分からないと言うのが事実だ。


「ふーくんのちょうだい。あーん」

「え、あ、分かった。あーん」


 今度は俺の方に出されたデザートを所望されたので、俺は慌てて親鳥から餌を与えられるひな鳥のように口を開けて待つシアにあーんしてやった。


「ん。美味し」

「そ、そうか。それは良かった」


 アホ毛がハートを形作っているし、多少口角が上がっているので本当に美味いようだ。


「キャー!!」

「見た?見た!?」

「美男美女がやるとなんというか尊すぎ!!」

「キュン死しちゃうわぁ!!」


 後ろで女子たちが何やら騒いでいるようだけど、緊張と心臓の鼓動で何も聞こえない。


「じー」


 それから二、三分で自分のデザートを食べ終えたシアが、俺が胸いっぱいで食べていなかったデザートに視線を見つめる。


「食べるか?」

「いいの?」


 俺がシアの前に皿を差し出すと、シアが俺の顔を見て首を傾げた。


「ああ。俺は色々一杯でな」

「ん。ありがと」


 俺が肩を竦めて返事をしたら、シアはすぐに幸せそうに食べ始める。また後ろできゃぴきゃぴとした女子たちの声が聞こえたけど、やはり何を言っているのかは頭に入ってこなかった。


 味見をしてシアがこだわりのある評価を調理班に伝えた後、調理室を後にした俺達。


 どこの班も順調そうなので、他のクラスの状況を見て回ってみることにした。


「……♪……♪……♪」


 すると、聞きなれた声の歌がどこからか聞こえてくる。それは音楽室の方から聞こえてくるようだった。

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