第九章 文化祭
第421話 文化祭
文化祭。
高校生においてかなり大きなイベントと言わざるを得ない行事だ。クラスが各々の考えるお店を開いたり、劇を披露したり、部活動における一つの集大成を見せる場でもある。
宿泊研修から平和な日々が続いていた。
学校が休校になることもなく、ダンジョンが世界中でスタンピードを起こるようなこともなく、おかしな失踪事件が起こることもない。それに、海から大量のモンスターが現れたり、空をモンスターが覆うこともない。
地上にいるモンスターは日中のパトロールをしている影魔に、空に残っているはぐれモンスターは夜にパトロールしている影魔に瞬殺されて、世界中でモンスターによる被害は激減していた。
おかしなことが起こらなくなった―スタンピードやリバースはたまに起こる―けど、それは元々起こること。それにより、ダンジョン探索部も本格的に再開を始めた。
ただ、いつ何が起こるか分からないことを背景にして、ランクの高い探索者は実地講習やテストを免除できるようなシステムに変わっていくようだ。
元々は西脇先輩の公約みたいなものだったけど、結局神崎先輩がそれを取り入れたのと、学校側の意向で変更に着手したらしい。
それに謎の集団による探索者の救助も行われるようになり、探索者自体の被害も減っている。
ニュースで取り上げられるようになってきたけど、証拠画像や動画がSNSに流れることもなく、彼らがどこにいてどこから現れるかもわからないため、物議をかもしれている。
謎の集団とはアビス・ガーディアンのことだ。
さっきも言った通り、証拠を残していないはずなので、正体はバレていない。
俺たちは相も変わらずダンジョン探索したり、スパエモに行ったり、営業をきちんと再開しているESJに行ったり、ディスティニーランドに行ったり、実家の様子を見に行ったりして楽しく過ごしていた。
エルフや各国の元不良探索者たちは零の言うことをきちんと聞いて、任務に当たっているようだ。
俺たちは仕事をしなくていいのか、ということを思わなくもないけど、俺たちのダンジョン探索における収入が彼らの報酬となっているので、一応仕事はしていると言える。ほとんど趣味みたいなものだけど。
新生徒会も動き出し、特に不都合なこともなく、スムーズに移行されたと言っていいと思う。
「生徒会に入りませんか?」
ただ、何度も生徒会に誘われるのは勘弁してほしい。
それで最初の話に戻るわけだけど、日程が調整されて十一月の後半に文化祭が開催されることが決定した。
そして今俺たちは、催しものを何にするか話し合っている。ただ、空気と化した俺たちは基本的には黙って流れを見守っている、基本的には。
「はい!!メイド喫茶がいいと思います!!」
「OH!!ジャパニーズ、メ・イ・ドォ!!賛成デスよ!!出来れば執事もお願いしますデスよ!!」
例外なのは、アキとノエルが張り切って催し物を推しているところだ。
高校生のメイド喫茶なんて若干いかがわしさを感じさせる気がするけど、それは俺の心がいかがしいのだろうか。
「私は劇がいいと思います」
「私は普通の喫茶店がいいと思います」
「俺はお化け屋敷がいいと思う」
などのいくつかの定番の候補があげられていざ、投票ということになった。
「はいはーい!!メイド喫茶にしてくれたら、私とアレクシアちゃんのメイド姿を見ることができるデスよ?」
そして、卑怯にもノエルがシアの所にいって二人でポーズを決めてあざといかわいらしさを振りまいたことでその趨勢は決定したといってもいい。
―ゴクリッ
空気と化した俺達とはいえ、ノエルとシアが美少女であることは疑いがない。男たちは彼女たちのメイド姿を想像して喉を鳴らした。
結果として、男全員の票とシアとノエルの票が追加され、俺たちはメイド&執事喫茶をやることになった。
「へへへーん。やったぁデスよ!!」
「ふっふっふ。やったぜ!!」
『いぇーい!!』
ノエルとアキは仲良くテンションを上げてハイタッチをしている。
アキは女の子のメイド姿を拝みたいがために、ノエルは日本のアニメによく出てくるメイドになり切りたくて利害が一致した結果だと思う。
「むぅ。利用された」
結果的にノエルによって票集めに利用されたシアは少し不満げである。無表情のまま頬を少し膨らませている。
可愛い。
「クレープおごるから許して欲しいデスよ」
「すき焼きならいい」
ノエルがシアに纏わりついて機嫌を取ろうとするけど、シアは普通の高校生にはなかなかハードルの高そうなものを要求する。
まぁ、ノエルは聖女だからそのくらい楽勝なのかもしれないけど。
「ク、クレープなら……」
いや、そうでもないようだ。ひっそりと「お小遣いは少ないですよ……」などと言っている。
成人するまでは親が探索者の報酬などを管理しているのかもしれない。
「すき焼き」
「ク――」
「高級すき焼き」
「値段が上がった!?デスよ!!」
「超高級すき焼き」
「また!?普通のすき焼きで許して欲しいデスよ!!」
「仕方ない」
結果的にノエルはシアにすき焼きをおごることで許してもらったようだ。
俺たちの文化祭が幕を開けた。
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