第408話 帰宅

「さて、そろそろ帰るか……」


 俺はスマホを取り出して時間を確認する。


「げっ!?」


 スマホのスリープ状態を解除したら、そこには通知の山。それもそのはず。日付を見れば、二日ほど経っていたからだ。


 そりゃあ何の連絡もなしに二日も経てば心配もするはずだ。


 俺の中では一日の出来事だったんだけど、あまりに気の鍛錬に没頭しすぎて時間の感覚が狂ったらしい。


 俺は急いで佐藤家に帰宅した。


 でも影魔に聞けば俺の無事なんて分かると思うけど、そんなに心配することかな。


「ただいま~」


 兎に角心配していることは間違いないので、玄関前に転移してすぐに扉を開いて家の中に入った。


「お兄ちゃん!!」

「ぐふぅっ!?」


 凄まじい速度で気づけば俺の懐に潜り込んでいた七海。その激突は嘔吐ものだけど、なんとか鋼の精神でこらえきった。


 それにしても探索者の裏試験である熟練度によって上昇している防御力と、攻撃を反射する最強のジャージを無視してダメージを与えてくるとか、七海は一体どうなってるんだ?


 やはり愛があればジャージはその人の攻撃を攻撃として認識しないということなのかもしれない。


 もしくか七海の攻撃力が単純にジャージの反射能力を超えていたか。いや……それは流石にないか。それなら今頃俺の体は真っ二つにでもなっていると思う。


「全く……連絡を一度もよこさないなんてどういうつもり?」


 リビングから現れた天音が不機嫌そうに俺に話しかける。


「それは悪かったけど、影魔達から聞かなかったのか?」

「ん。連絡がないと不安になるのは当然」


 俺の胴体に顔を埋める七海の頭を撫でて宥めながら尋ねたら、シアが言うのは至極当たり前の話だった。報連相はとても大事だ。


「そっか、そうだな。次からは気を付ける」

「分かればいいんだよお兄ちゃん……このスメル……ぐへへっ」


 俺が反省したら、七海はいつの間にかその顔を緩めて俺の腹に頭をギューッと押し付けて匂いを嗅いでいる。


 俺はそっと見ないふりをした。


「それで?一体この二日か何をしていたのかしら?」


 さらに奥から現れた零が顔を出して俺に問いかける。


「ああ。ちょっと修行してた」

「その顔は何を得たようね?」


 俺の返事に何か確信ありげに問い返す零。


「そうだな。これを見てくれ」

 

 俺は七海を抱えたまま、その場に少しだけ浮遊する。


「あわわわわっ!?」

「七海安心しろ、大丈夫だからな」


 七海が突然足がつかなくなって焦りだしたが、俺の言葉に落ち着きを取り戻していく。


「まさか……空を飛べるようになったの?」

「ああ」


 呆然と尋ねる天音に、俺は不敵に笑って肯定した。


「これはまた斜め上の修行してきたものね……」


 天音を含め全員が苦笑いを浮かべているけど、どうしたんだろう?


「こ、これは私も参加できるデスよ?」

「そうだな。俺が自力で空を飛べるようになったからヒーコに乗れる枠が一人空いた。だから連れていくことは可能だよな?」


 俺の疑問に答える者はおらず、さらにひょっこりと姿を現したノエルの恐る恐るといった質問に、俺は肯定しつつ零に視線を向ける。


「そうね。一人でも戦闘員が増えるのは嬉しいわ。ただ、それでどうにか出来るとは思えないけど」

「まぁ、ものは試しだ。攻撃しても地上に降りてきて報復してくるわけでもない。やって損することはないんだから」


 零の言う通り、どうにかなる可能性は低い。しかし、それでもどうにかしなければいけないので、何度もトライ&エラーあるのみだ。


「それもそうね。ただし、今日はまだ朝早いから、一度休んで、モンスター達が巣に戻る頃に」

「了解」


 確かに今はすでに夜が明けてモンスターが空を覆っているので、できればモンスターがいなくなっている時に空に移動した方が、最初から襲われるよりも簡単だという判断。


 俺に否やはないので同意して首を縦に振った。


「それじゃあ、決まりね。普人君は少しでも寝ていた方がいいわ。修行していて碌に休んでもいないのでしょう?」

「ん?ああ、そうだな。二日間全く寝てなかった」

「それなら尚の事今はきっちり休んでおきなさい」

「分かった」


 零の言葉を受けて全く寝ていないことに気付いた俺。そうしたら不思議なもので突然睡魔が襲ってきたので、俺は自室に戻ってベッドに入った。


 何やら後頭部の下がとても幸せな感触ある気がしたけど、気のせいだよな。


 そんな夢なのか現実なのか分からないまま、眠りに落ちた。


「ん……んん……シア?」

「ん」


 俺が目を覚ますと、そこには俺の顔を覗きこんでいるシアの顔があった。


「なんで膝枕しているんだ?」

「呼んで来いって。気づかなかった?」


 何故かシアは俺に膝枕をしていた。なぜか頭も一定間隔で撫でられている。俺なんてそんな撫でるようなものじゃないのに。


 そして一体いつからしていたのだろうか。


「ああ。全くだ。眠すぎたせいかもしれない」

「そういうこともある」


 俺は深くは聞かずに、寝起きのほんの少しだけ感じる気怠さを理由にしばしの間大人しく撫でられることを堪能していた。


「遅いわよ?」

「すみませんでした」


 そしたら他のメンバーになぜか怒られることになった。


 少し説教された後、俺達は再び空に飛んだ。

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