第402話 殲滅チャレンジ

「結局昨日も何もなかったな」

「そうね。モンスターはいつも通り、あの雲に戻ったっきり何事もなかったわ」


 俺と零がローテーションの最後だったので、夜明けとともに、モンスターが空に広がるのを眺めながら語り合う。


「このままじゃ色々ヤバいよな」

「そうね。完全に海外との物流が無くなってるから、色んな物資不足とそれによる物価の上昇なんかはすぐに頭に浮かぶわね」

「俺も政治や経済に詳しくはないけど、確かにそれくらいは思いつくな」


 物が入って来なくなって物資が不足すれば、需要に対して供給が追い付かず、どんどん値上がりするのは目に見えている。


 そうなれば普通の生活さえままならなくなる人が続出すると思う。


「もちろん影魔を使って護衛をやれば持ちこたえることは出来ると思うけどね」

「それは最終手段だろうな。出来ればあまり目立ちたくない。会社で動けば俺達だとすぐにばれるだろうしな」

「多分ね」


 ほんの一部の地域だけならまだしも、流石に日本全体、ひいては世界全体の物流を密かに俺達だけで支えようとするのは無理がある。勿論飛行機に影魔を付ければできなくはないだろうけど、その場合俺達がかなり目立ってしまう。


 それに、各国との交渉とかも大変そうだしな。それで、少しでも高いと思えば、人でなしとでも罵られそうだ。なんとかしたいとは思うけど、俺たち自身が潰れてしまうような選択肢はダメだと思う。


 そんなことをするよりも、根本的な原因を叩いてしまう方がよほど簡単な気がする。


「ひとまず、あのモンスター達と戦ってみるか?」


 俺達が出来ることと言えば、あのモンスター達と実際に戦ってみることが一番初めに思いつく。


 モンスターを倒すことで空のモンスターが減る可能性があるのならやる価値はある。


 モンスターが減れば、別に影魔が護衛しなくても、空のモンスターの強さに対抗できる探索者の護衛を幾人か飛行機の上にでも乗せれば対応できるかもしれない。


「それは試してみる価値はあるわね。それでだめならあの雲に突入してみればいいわ」

「そうだな。日本の近くで戦って万が一日本が襲われるようになったりしたら困るから、ちょっと人が居なさそうな場所に行って試してみよう」

「そうね」


 俺達は早速試してみることにした。


 その前に問題がある。


「誰が残るのかしら?」


 という問題だ。


『……』


 零の問いかけに誰も答えない。


「はぁ……分かったわ。今回は私とノエルちゃんがお留守番ね」

「え!?」


 呆れるように肩を竦める零に、突然参加資格を失って驚愕するノエル。


「当然でしょ。あなたは緊急と言うことで一緒に呼ばれたけど、頭数にははいってないんですからね。私の手伝いでもした貰おうかしら」

「ふぁーい」


 ただ、当たり前のことを言われてノエルは大人しく引き下がる。


『我ならなんとか三人までなら運ぶことも出来よう』


 しかし、ヒーコが突然そんなことを言った。


「え?本当か?」

『うむ。宿主からの魔力を受けて我も成長している故な』

「それは嬉しい誤算だ」


 つまり、残るのは一人と言うことになる。


「それじゃあ、お留守番お願いね」

「ふぁーいデスよぉ……」


 零が共に行き、ノエルが残る。それは当然の流れであった。


 俺達は早速人の居ない樹海の奥に転移した。


「ヒーちゃん、お願いね」

『任せよ』

「グリちゃんも頼むわよ」

『ピーッ!!』


 ヒーコとグリフォンを最大サイズに戻す。ヒーコは確かに三人乗れそうな大きさだった。グリフォンは馬より多少大きい程度の大きさなので二人乗りくらいが関の山だと思う。


 俺は七海とシアと共にヒーコの背に乗り、天音と零がグリに跨った。


「よし、出発だ!!」

『おー!!』


 俺の掛け声でヒーコとグリが地面を蹴って空へと浮かび上がり、あっという間に敵のテリトリーに侵入した。


「ギェエエエエエエエエエエッ」


 途端にモンスターが複数襲い掛かってくる。


「やぁ!!」

「せい!!」

「はぁ!!」

「ふっ!!」


 前衛組が攻撃を仕掛ける。


 皆の攻撃で複数のモンスターが切り刻まれるか、体に穴が開くか、はじけ飛んで消滅した。


「ゴッドブレス!!」


 数秒後、七海お得意の敵のみに作用する攻撃魔法が炸裂する。そしたらここら辺一体のモンスターが霞のように消えた。


「このまま減ってくれるなら問題ないんだが……」


 今のところ空のモンスターは数を減らしている。今のまま減っていけば、いつかは全てのモンスターを駆逐することが出来るはずだ。


「あぁ~!!雲から新しいモンスターが出てきた!!」


 しかし、案の定そのまま上手くいくことはなく、いなくなった分のモンスターが空間が開いたこの場所に向かって一斉に雲から姿を現して飛んでくる。


「とりあえず、一回じゃ分からないから何度全滅させてみるぞ!!」

『了解!!』


 俺達はそれから検証のために、幾度となく敵を全滅させ続けた。


 俺は海の時と同様に気を纏った一撃をお見舞いしたが、雲に当たるとそのまま吸い込まれてしまったし、モンスター供給が途絶えることもなかった。


 多分今日は海の時よりもモンスターを倒したと思う。


 それでもモンスターが絶えることはなかった。


 第一作戦である殲滅チャレンジは失敗に終わった。

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