第401話 人類の守護者"犬"(第三者視点)

 空にモンスターが現れ始めた頃。


「あれはなんだ!?」

「バカなモンスターだと!?」


 飛行機の操縦室で機長と副機長が突然現れたモンスターに驚愕する。モンスターは明らかに自分たちの方に向かってきていた。


 機長は激突を避けるため、操縦桿を操り、機体を旋回させる。


―ドォオオオオンッ


 しかし、戦闘機以上に鈍重な旅客機では、空を縦横無尽に飛び回る飛行型モンスターの動きに対応しきれず、モンスターの攻撃を被弾して、エンジンの一つが落下してしまった。


『きゃあああああああああああっ』


 機体が衝撃でガタガタと激しく揺れ、乗客たちが悲鳴をあげる。


「エマージェンシー!!こちらスタージェイ八七六便!!突然多数のモンスターが現れ、攻撃を受けた。エンジンの一つが落ちてしまったらしい!!」

『スタージェイ八七六便、すまない!!すべての機体で同じような事態が起こっていて手が足りない!!なんとかどこかに軟着陸してくれ!!』


 機長が航空管制官に連絡をとるが、連絡してきていたのはこの飛行機だけではなかった。日本各地で同じような事態に陥っていた。


「そんな!?どうにかならないんですか!?」


 航空管制官からの残酷な返事に機長は必死に食い下がる。


『本当に……すまない……。私たちでもどうしようもできない……』


 しかし、航空管制官は悔しさが滲む声で返事をした。


『……』


 しばし、その場に沈黙の帳が降りる。


「わかり……ました……」


 口を開いた機長は、苦渋の表情でなんとか言葉を返し、通信をきった。


「機長……」

「仕方あるまい……。どうにかして着陸させるしかない」


 副機長が悲痛な顔で声をかけると、機長は苦笑いを浮かべて首を振る。


「グェエエエエエエエエエエエッ!!」


 しかし、そんな時、正面に巨大な鳥型のモンスターが姿を現した。


「くそっ!?」

「うわぁああああああ!?」


 機長はなんとか操縦桿を倒して回避しようとするが、確実に間に合いそうになく、副機長はもう終わりだとばかりに叫ぶ。


―ザシュッ


「ギュエエエエエエエエエエエエッ!?」


 しかし、飛行機がそのモンスターにぶつかることはなかった。


 なぜならモンスターは下に落ちてしまったからだ。


「はっ!?今の黒い影は一体……」


 顔を両手で覆い、ぶつかる衝撃から身を守ろうとした副機長とは違い、操縦桿を握っていた機長はその一瞬を見ていた。


 モンスターは何やら機体の方から伸びた黒い何かによって攻撃され、撃ち落とされてしまったという光景を。


 何を隠そうその影はラックの影魔であった。影魔は一機に一体影魔が潜んでいたのだ。これはラックの独断であり、影魔達の自主的な行動の結果である。


 彼らはモンスターに限らず、飛行機が落下した時に備え、人の死を好まない主のために待機していたのだ。


 影魔の戦闘能力はすでにSSSランク超。


 ほとんどのモンスターが相手にならない。


 最初の攻撃はまさかこんな事態になるとは思わず休眠状態だったため、受けてしまったが、それ以降は全ての攻撃を防ぎ、周りにいるモンスターのこと如くを撃ち落としていた。


「あぁ~!!ワンちゃん!!」

「すっごーい!!」


 不安に囚われていた乗客たちだが、モンスターが何故か撃ち落とされる光景を見て少し落ち着きを取り戻す。子供たちにだけサービスで姿を見せて影魔は安堵させるのに一役買っていた。


 機長はモンスターに関しては黒い影がどうにかしてくれると、希望の光を見出し、近くに着陸できそうな場所を探し始める。


「こちら機長。乗客の皆さま、当機は現在モンスターの襲撃を受けております。しかし、ご安心ください。この機体には強い味方が付いております。ただ、先程の攻撃でエンジンと翼に損傷を受けたので近くに着陸いたします。シートベルトを締めて衝撃に備えてください」


 機長は機内アナウンスで今後の方針を伝え、近くに見つけた埠頭になんとか着陸を試みることにした。


「機長大丈夫なんですか!?」

「仕方あるまい。近くに空港はないし、着陸に適した道もない。海か埠頭かと言われれば、埠頭だろう」


 副機長は機長の選択に不安になった尋ねるが、もう選択肢がないのだと機長は答える。


 それから機体は徐々に高度を下げ、埠頭へと向かってランディングの姿勢に入った。


 少しずつ陸地が近づいてきて、スピードもそれに合わせて落としていく。


「着陸十秒前。衝撃に備え、緊急姿勢で獲ってください。八、七、六、五、四、三、二、一、ランディング!?」


 飛行機は無事に埠頭に着陸を果たした。その衝撃が一切ないことに機長が驚きの声を上げるほどに。


『~!?』


 そして、埠頭の直線距離では着陸に足りないにもかかわらず、速度が急速に落ちていくことにも機長と副機長の二人が顔を見合わせて驚いていた。


 なぜそんなことが起こったのか。


 それはもちろん影魔達のおかげであった。影魔達が期待に下に潜り込んで衝撃を受け止めたのだ。そのおかげで飛行機は何の損傷を受けることもなく、不時着することができた。


 これは世界中の飛行機で同じ現象が確認されている。


 それらすべてが影魔達の仕業であった。彼らは数万という人間を救った。

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