第399話 うっかり忘れていました

 俺達は、担当の見張りの時間が終わり、再び避難場所の外の一角に休息をとっていた。


 今の所モンスターは大体同じ位置で旋回したり、小競り合いのようなものをしてる様子で、地上に降りてくる様子はない。


「ん?あれは……?」


 近くで見張りをしていた一人の先輩が目を細めて空を睨む。


「どうした?」


 その様子にもう一人の先輩が声を掛けた。


「見ろ!!モンスターが一斉に動き始めたぞ!!」

「何!?」 


 先輩の言葉に近くに居た人間は一斉に空を見上げる。俺も同じように空に目を向けると、ずっと空に滞空していたモンスター達が、全て同時にどこかに向かって移動を始めていた。


「皆警戒しろ!!」


 空を沢山のモンスターが埋め尽くすこと自体異例で、さらに突然のそのモンスター達がどこかに移動を始める。


 そうなれば、警戒は必須だろう。


 現在の見張りグループのリーダーの声に、休んでいた俺達も立ち上がり、全員が武装して空に向かって構える。


「あれはなんだ……?」


 誰ともなく呟いた言葉。


 モンスターが飛んでいく先に視線を彷徨わせると、そこにはいつの間にか巨大な積乱雲が浮かんでいた。積乱雲の周りには小さな雲が衛星のように旋回している。


 丁度夕暮れ時ということもあり、その積乱雲は逆光になって不気味さが漂っていた。


 雲は富士山の上あたりで滞空していてモンスター達はその雲の中にこぞって突っ込んでいく。


 俺達そのまま警戒を続けていたが、結局モンスターが地上に降りてくることはなかった。


「あの中にモンスターが向かう何かがあるってことか……」

「そうでしょうね」


 俺の呟きに隣で同じように空を見上げていた天音が同意する。


 モンスターが向かう場所として一番可能性があるものといえば、やはりダンジョンか。


「ダンジョン」


 俺が思い浮かんだと同時にシアが呟く。


 海底にもダンジョンがあるらしいというのはずっと言われてきていたことだ。実際に俺達はとんでもない量のサハギンみたいなモンスターと対峙した。


 調べてはいないので実際のところは分からないが、十中八九海の中にはダンジョンがある。


 ということは空にダンジョンがあっても何もおかしなことはないだろう。


「そうだな。可能性は高い」

「そういうことね。確かに海にもあるっぽいし、空にあってもおかしくないわ」


 シアの呟きに俺が答え、天音も俺の思考と同じような考えに至ったようだ。


 ちょっと海でのことを思い出しているのか苦い顔をしてるけど。


―ピロリロリンッ


『お兄ちゃん!!そっちもこれと同じことが起こってる?』


 そんな時、スマホがなって七海から動画が送られてきた。そこには今俺達が見ている光景と同じものが映っていた。


『どうやら世界中で同じことが起こっているみたいよ』


 その後で、七海のメッセージを見た零が軽くネットで調べて出てきた記事をいくつかピックアップして送ってくれる。


 そこには世界各地で撮影された同じような現象が映し出されていた。


『うぇ~、一体どうなっちゃうのかな、これから……』


 七海が心配顔のスタンプと一緒にメッセージを送ってくる。俺には七海がどんな表情をしているか手に取るように分かった。


 全く……七海にそんな顔をさせるあのモンスター共は野放しにはできないようだな。


 しかし、今の所、あのモンスター達に対する攻撃手段がない。魔法も高度数千メートルとあっては届くわけがない。


 ラックは流石に空は飛べないしなぁ。


 ラックが空を飛べれば闇夜に紛れてあの積乱雲に突込んで、奇襲でモンスターを殲滅するとかできる気がするけど、できないものはしょうがない。


 しかし、いつまでも七海の顔を曇らせておくつもりはない。いざとなれば俺が飛行機の上に乗ってでも、あのモンスター共を駆逐してやる。


「あ、そういえば忘れてた!!」


 空の事を考えていて、ふと思い出したことがある。


 俺達には空を飛べる従魔がいるじゃないか!!


「ヒーコとグリなら戦えるんじゃないか?」


 そう、クレタ島で仲間にしたフェニックスとグリフォンだ。


「確かに大きさもある程度変えられるみたいだから、一人なら問題ないと思うわ。頑張れば二人いけると思うけど」

「それでも最大四人か。一人分足りないな」


 俺達は現在五人のパーティだ。


 四人なら飛べるとして、一人どうしても余ってしまう。


 困った……。


「それはやっぱり近接攻撃しかできない私が残れば済む話じゃない?」

「それもそうなんだけど、一人残ってるのも嫌だろ?」


 天音が当然のような顔で俺に問いかけるけど、一人だけ仲間外れというのも嫌だと思う。


 中学時代どれほどそれで辛い思いをしてきたか。班決めでは必ずあぶれ、行事ではいつも置いてきぼり。


 俺には痛いほど分かるのだ。


 あんな経験はもう二度とごめんだ。


「ま、まぁそうね……」

「だからなんとかしたいところなんだけど、すまん、今は何も思い浮かばない」


 言いづらそうな天音に、解決策が全く思いつかない俺は申し訳なくて頭を下げる。


「別にいいわよ、無理しなくても」


 天音は俺の様子に苦笑いを浮かべて肩を竦める。


 俺はどうにかしてパーティ全員で空の調査へ行けるようにするための方策を探すため、少しでも手掛かりがあればと思い、ネットの世界に潜り込むのであった。

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