第385話 忍(第三者視点)

 普人が東雲凛のレベル上げをしている頃、佐藤家のリビングに数人の女性たちが集まっていた。


「それで今日集まってもらったのは他でもないわ」


 その中の一人である黒崎零が話し始める。


「うん、お兄ちゃんに近寄る新しい女の対策だよね!!」

「ん」


 その話に載って佐藤七海と葛城アレクシアが、新たな敵の出現に意気込む。


「うーん、ちょっと違うわ」

「あれ?違うの?」


 しかし、零は首を振って二人の考えを否定し、七海は不思議そうに首を傾げた。


「ええ。今回の東雲さんの件は裏があると思うわ」

「確かに。彼女の場合、急すぎる気もするよね」


 零が七海の疑問に答えると、天音も零の答えに同意する。


「ええ。皆知らないかもしれないけど、東雲凛さんは、四大家、東雲家の人間よ。今裏で佐藤君の争奪戦が始まっているから、確実にその関係でしょうね。しかもこう言うのもなんだけど、彼女は東雲の中でも落ちこぼれと言われていて、扱いが酷いらしいわ。多分上から何か言われているんでしょうね」

「えぇ~、可哀想!!」


 零が今回の東雲凛が普人に近づいてきた理由を説明すると、七海が眉をひそめて悲しみの声を上げた。


「四大家はそれぞれの役割に誇りを持ってるから、その役割を果たせない人間に対してはかなり厳しいのよね」

「へぇ~、古い家ってそういう所多いわよね~。誇りに持つのは分かるけど、自分の家と合わないからって酷い扱いをするってのはちょっとね」


 零が悲し気に憂いを含んだ表情をしながらありがちな話をすると、天音がうんざりするように言った。


「まぁね。でも、家の中の事ですからね。外からは何も言えないわ」

「ん~、でもなんとかできないのかなぁ」

「本人にその気がないとなんとも言えないわね」


 七海は凛の生活を思い浮かべて何とかできないかと願うが、家の中の事や育児に関することに外野が踏み込むのはかなり難しい。


 余程酷い外傷などの証拠がなければ、教育方針だと言われればそれ以上それまでだ。それ以上に、本人が苦しみを訴えなければ、何も言えないだろう。


「でも、そう促すことは出来るかもしれないわよ?」

「え!?どうするの!?」


 しかし、零が何食わぬ表情で七海に述べると、七海は信じられないと言った顔で零に尋ねた。


「簡単よ。そうしたくなるような弱みを握ることよ」

「あぁあああ!!れいちゃんったら悪い顔してるぅうううう!!」


 零がいかにも悪党がしそうな笑みをを浮かべて答えると、七海は面白がるようにはしゃいだ。


「ということで、佐藤君への干渉を止めさせるついでに、彼女への仕打ちが改善するように動いてみましょうか」

「さんせーい!!」

「ん」

「しょうがないわね」


 零が音頭を取り、普人のパーティメンバーである彼女たちは動き出した。


「で、なんでこの格好なの?」


 彼女たちは零に手渡された服に着替えたが、天音がさっそく不思議そうに零に問いただす。


「え?格好良くないかしら?」


 零は自分の服を見下ろして、あちこちつまんで見せながら逆に問い返す。


「うーん、私はピンクが良かったなぁ」

「水色が良かった」


 七海とシアは自分たちの格好を見下ろしながら色に文句をつけた。


「いや、かっこいいかどうかはともかくなんで忍びなのよ……」


 零は七海達の反応はさておき、彼女に今自分達がしている服を見下ろしつつ、呆れるような表情で返答する。


 そう、彼女たちが今身に纏っているのは、忍び装束。


 それも零が戦闘にきているような、丈が短かったり、袖がなかったりするような露出が多いものではなく、露出は目元くらいの本気のタイプであった。それも色は黒で、本当に闇夜に溶け込んだら分からなさそうだ。


「どこかに忍び込むならこういう格好の方が気分が上がるじゃない」

「はぁ……もういいわ」


 どこか熱に浮かされたように語る零に、天音はため息を吐いて首を振った。


 もう手遅れだと諦めたのだ。


「それじゃあ、私たちで東雲邸に忍び込もうと思うけど、準備はいいかしら?」


 改めて忍び装束に身を包む全員に問う零。


「うん!!全然大丈夫!!」

「オールグリーン」

「仕方ないから付き合うわ。それで、こんなことに七海達を連れてってもいいの?」


 全員問題ないと返事をするが、天音がまだ中学生の七海を連れていくのはどうなのかと尋ねる。


「大丈夫よ。ラックの影魔がいれば問題ないわ。それに最悪私がどうにかするわ」


 零としては影魔の強さも日本の探索者の最高峰であり、武術の頂点である東雲家についてもある程度知っていた。そして今の自分の実力がどの程度なのかも。


 それを考えれば、七海を連れて行ったとしてもなんら問題ないと考えた。


「それに、七海ちゃんも立派なパーティメンバーですからね。仲間外れは可哀想でしょ」


 それ以上に、七海を一人残していくのは嫌だった。七海も正式なパーティメンバーだ。彼女もいっしょに行く権利がある。


「それを言われたら何も言えないわね」


 天音もフッと笑って肩を竦めた。


「そうそう、大丈夫だって!!スパイみたいで楽しみ!!」

「ん。忍ぶ」


 七海は両手を腰に当てて覆面から覗く目を細めてワクワクしているのを隠しきれていない。シアも七海の合わせて手で印を結んで忍者になりきっている。


「瞳さんも納得してるんですよね?」


 天音は自分達を微笑ましそうに眺めるラスボス、もとい普人と七海の母である瞳に問いかける。


「無事に帰ってくるなら好きにしたらいいわ。私は帰ってくる家を守るだけよ」

「それなら私もこれ以上何も言うことはないわ」


 瞳は放任主義極まれりと言った返事をして、天音はそれ以上何も言わなくなった。


「天音ちゃんも納得したことだし、東雲邸に出発よ!!」

『おー!!』


 気を取り直して再び先導する零の掛け声に全員で返事をすると、遊園地にでも行くようなノリで彼女たちは出発した。

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