第386話 インフレ乙女忍軍(第三者視点)
「あれが……東雲家の家。すんごいおっきいね……」
「新東でも古くからある名家の一つですからね。大地主でこの辺りを束ねているだけに、家も立派よね」
七海達は影からちょっぴり頭を出して、四大家の東雲家の屋敷の様子を窺っている。
東雲家は古くからある名家だけあり、広大な土地を持っていて、その一角に力のある武家屋敷もかくやと言った屋敷を持っていた。それは彼らの力の一端を物語っている。
「警備も厳重ね。全員元高ランク探索者じゃないかしら」
ただ、昔からの屋敷は当然セキュリティ上の問題点が多い。だから、それを補うため、元々息のかかっている身内や懇意にしていた人間を雇って屋敷の守りを固めていた。
「その通りよ。彼らは元探索者で全員Bランク以上の人間で構成されているわ。中には元SSランクだった人もいる」
「えぇ!?そんなところに行って大丈夫なの!?」
零が警備をしている人間に関する情報を述べると、七海は驚いて零に尋ねた。
「静かに……。そうね。あなたたちにあった頃の私だったらダメだったでしょうね」
七海の口を塞いで静かにさせると、零は過去を思い出しながら答える。
「ぷはぁ。それじゃあ……」
口を解放された七海は、零の様子を見て今はと暗に聞いた。
「そう。あなたたち、主に佐藤君と一緒に異常なレベル上げに付き合ったおかげで、今ではランクでさえ測れない所までたどり着いた。今なら問題ないわ」
勿論彼女は普人達とパーティを組み、ありえない数のモンスターとの戦いによって異常ともいえる成長を遂げ、今ではすっかりSランクを逸脱していた力を得ているため、その程度なんの問題もなかった。
「頼もしいね!!」
「何他人事みたいなこと言ってるの。私は当時からSランクの力を持っていたけど、あなたは私よりもっと前に覚醒して、数日とは言え、あの野良ダンジョンで佐藤君とアレクシアちゃんのレベル上げに付き合った。それだけで普通の探索者が手に入れる経験値の何万倍も得ているわ。今では私とそう変わらないはずよ」
「えぇ~!?そうだったの?」
我関せずと言った七海に、零が事実を告げると、七海は殊更に驚く。
ついこないだ覚醒したばかりであることと、普人とアレクシアのレベル上げが普通だと思っていたため、自分がそれほど強くなっているという自覚がなかったのである。
「何言ってるのよ。当たり前でしょ、この二人に付き合っていたら嫌でもそうなるわよ」
呆れるように答える天音。
彼女も普人とアレクシアの被害者だった
「ということはあーちゃんも?」
「そういうこと。私も七海たちに付き合った結果、今では立派な怪物よ」
天音の様子を見て七海が尋ねると、天音はため息を吐いて心外だけどねと、頷く。天音としては図らずして手に入れただけにあまり誇るように気分にはなれなかった。
「ふぇ~。やっぱりお兄ちゃんは凄いんだね!!」
「そう言えるあんたが凄いわ」
自分の兄に関わることによって零も天音も凄まじい力を得ることが出来た。
その事実が七海の兄に対する尊敬を強めることになったが、天音はその様子に唯々あきれるばかりだった。
「そう、ふーくんは凄い」
三人の様子を見ていたアレクシアが呟く。この中で誰よりも探索者としての普人と長く一緒にいる彼女は自慢げだった。
「そして何よりも一番の化物になっているのが何を隠そうアレクシアちゃんね」
アレクシアの言葉を聞いた零が
「そういえば、お兄ちゃんが入学して割とすぐに一緒にダンジョンに潜っていたって言ってたもんね。それだけの期間お兄ちゃんと潜っているのならかなりヤバそう」
「絶対やばいわよ。初めて会った時は、目が遭った瞬間死を覚悟するくらいにはヤバかったわ」
「そうね。その上、アレクシアちゃんは感知も鋭いから、私でも近づけないわ」
「ふぇ~、お姉ちゃんも凄い」
三人はアレクシアの強さを語る。
「ふーくんの嫁なら当然。んふー」
三人に強さを褒められていると感じたアレクシアは、さらに無表情のドヤ顔で胸を張った。
「私達だけでも相当ヤバいのに、ここにケイオス達が加わったら、どこの国だって落とせるわよ?」
「えぇ……そこまでなんだ……。っと、それよりケイオスって?」
さらに影魔の力を自分たちに加えた場合の恐ろしさを聞いた七海は呆然とするが、それよりも聞き覚えのない名称に首を傾げる。
「ああ、私にずっとついてる影魔に名前を付けたの。ちゃんと自我があるみたいだし、名前がないと不便ですからね」
零が自分が影魔に名前を付けたことを理由を合わせて伝えた。少し自慢げだ。
「えぇ~、ズルい!!私も付ける!!」
「それいいわね。私もつけるわ」
「ん」
三人はそのことを羨ましく思い、自分達も名前を付けることにした。
「宜しくね、ポチ」
「宜しく、陽炎丸」
「よろ、ふーきゅん」
こうして新たに三体のユニークな個体が生まれた。
人外をさらに超える力を手に入れた彼女たちを遮るものは何もない。
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