第384話 戦闘慣れ
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
俺の眼前では、東雲さんが大の字に寝転んで目を瞑り、苦しそうに息をしていた。恐怖によって限界突破して逃げ続けた結果、このような状態になっている。
今では早い段階で矢を打てるようになったのでかなり進歩したと言える。疲れすぎて無駄な力が抜けた上に、思考が鈍くなってモンスターに対する恐怖心が麻痺してきたのかもしれない。
「大分モンスターを倒すのに慣れてきたな。それじゃあ次のステップに進むぞ」
そんな疲れて動けない東雲さんに無慈悲な内容を告げる。
「あ、あの……もう少し……休ませてください……」
「じゃあ勝手にモンスター運んでくるから」
俺への怯えもなくなっているのか、自分の望みを伝えてくる東雲さんだけど、俺はここで間をあけると、また恐怖がよみがえってしまうと思い、にっこりと笑ってその要望を却下した。
「……」
東雲さんの表情が、絶望を目の当たりにしたかのように真っ青になる。
その顔を見て、これ以上無理をさせない方がいいか、という気持ちが湧いてくるけど、彼女から頼んできたことなので、俺は心を鬼にすることにした。
「自分で戦いに行くのと、俺に連れて来られるの、どっちがいい?」
俺は疲れ切っている東雲さんに容赦のない選択を叩きつける。
どっちにしろ戦わなければならない。俺としてはどちらを選んでも構わない。
「じ、自分で行きます……」
その結果、東雲さんは自分で戦うことを選び、なんとか立ち上がった。
「分かった。それじゃあ次のモンスターの所に行くぞ」
「は、はい」
俺達は一番近くにいたオニムカデの所にやってきた。あっちはこちらにまだ気づかない。こちらからは見えているけど、オニムカデの視界に入っていないのかもしれない。
「よし、それじゃあ、ここからは俺は基本的に見ているからモンスターに攻撃してくれ」
「はぁ……分かり……ました」
俺はこれ幸いとばかりに、東雲さんに指示を出し、彼女は未だ整わない呼吸を落ち着けようとしながら、俺の言葉に頷いた。
「やぁっ!!」
東雲さんはゆっくりとオニムカデに近づいていき、良さそうな岩場の影から魔力の矢をつがえて放つ。
「ギャピィッ!?」
放たれた矢は綺麗な弧を描いて吸い込まれるようにオニムカデの頭に突き刺さった。
オニムカデは突然の出来事に悲鳴をあげるが、矢が貫いた場所は明らかに致命傷だった。
「やぁ!!やぁ!!やぁ!!」
しかし、東雲さんはさらに追撃を掛けた。
「ビギィイイイイイイイイイイッ!!」
さらに三発の矢を放ち、その矢はオニムカデの体の至る所に刺さってさらに激しく体を揺らす。
「やぁ!!やぁ!!やぁ!!」
ダメ押しとでも言わんばかりにさらに矢を放つ東雲さん。それはオニムカデが絶命して姿を消すまで続いた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「お疲れ様。やり過ぎな気もするけど、ようやく自分だけで戦って勝てたんだ。よかったんだじゃないか?」
戦い終わった後、俺は矢を打ち込みまくって疲れ切っている東雲さんの許に近づいて声をかける。
「は、はい……ありがとうございます」
東雲さんは俺を見るなり、頭を下げて礼を言う。
自分でも予想外の結果だったのかもしれないな。
「気にするな。魔力は大丈夫そうか?」
俺は手をひらひらとさせて、話を終わらせると、東雲さんの魔力残量を尋ねる。
東雲さんは魔力を矢として打ち出すタイプだ。あれだけバンバン矢を放っていたら、レベルが低いうちは魔力が足らなくなるはずだ。
「こ、心許ないです……」
東雲さんは申し訳なさそうに返事をする。
「そうか、それじゃあこれを飲んでくれ」
「え、あ、はい」
東雲さんに瓶に入った薬を手渡すと、彼女は狼狽えながらも俺から薬を受け取り、特に悩むことなく、飲み干した。
「~~!?」
東雲さんは、飲み干した途端自分に体に起こった変化に驚いたのか、俺の方を見て驚愕の表情を浮かべる。
「回復したか?」
「は、はい……」
俺の質問に東雲さんは何か言いたげな表情をしながらも素直に答えてくれた。
「それじゃあ、次のモンスターに行こう」
「あ、あの!!」
問題ないようなので次のモンスターの所へ行こうとすると、珍しく東雲さんがいつもより大きな声で俺を呼び止める。
「どうかしたか?」
「え、えっと、さっきの薬って一体……」
俺が振り返ると、東雲さんは俺が手渡した薬の詳細を聞きたがった。
どうやら劇的な変化が気になってしょうがないらしい。
「ああ。あれな。エリクサーだ」
「は?」
俺は特に隠すことでもないので、東雲さんに飲ませた薬の正体を告げた。しかし、東雲さんは聞こえなかったらしい。
しょうがない。俺はもう一度伝えることにした。
「だから、あれはエリクサーだ」
「えぇええええええええええええええ!?」
俺が再び東雲さんに飲ませた薬の名称を伝えたら、彼女は普段では考えられない程の大きな声で叫び、信じられないという表情を作った。
俺は彼女が何に驚いたのは分からずに困惑するしかなかった。
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