第381話 慰労会

「よーしよし、よーしよし、お前は可愛いなぁ」

「ウォンッ」


 学校から寮に戻り、部屋でラックと戯れながらのんびりとする。


 たまにはいいよな。


 ラックをモフモフすると、ラックも顔を蕩けさせ、俺に身も任せてくるので思う存分堪能する。


―コンコンッ


 しかし、そんな安寧を乱す音がした。


「一体誰だろうな?」

「ウォンッ」


 俺は首を傾げながらドアに向かう。その間にラックは影に潜って姿を消した。


「はい」

「俺だ」


 ノックの主はアキだった。さっき別れたばかりだけどどうしたんだろう。


「おう、どうしたんだ?」

「なぁ、何もしないのも暇だし、寮生で慰労会でもしないか?」


 ドアを開けて立っているアキは、お菓子とジュースを入れた買い物袋を持ち、それを俺に掲げてそんな提案をしてきた。


 今日は寮生も含めてダンジョン探索部に所属しているメンバーはかなり頑張ったから、そういうことをしてもいいか。


 ただ、気になることもある。


「ん?別にいいと思うけど、人はどうやって集めるんだ?」


 そう。人が集まるかどうかだ。


「ふっ。俺を誰だと思ってるんだ?」

「アキだろ」


 俺の質問にニヒルに笑うアキだけど、アキだとしか言えない。


「ちっちっち。俺は神ノ宮学園の情報屋のアキだぜ?この学園で俺に知らないことはない!!」

「いつからそんなものになったんだよ……それで、だからどうだっていうんだよ?」


 ニヤリと口を歪めて俺の前で指を振ってからドヤ顔をするので、俺は若干呆れながらも情報屋であることと人集めの関係を問う。


 いつでも色んな情報を知っているから感心していたけど、いつからかそんなものになっていたらしい。


 ただ、それが一体人集めと何が関係があるんだろうか。


「つまり寮生の連絡先も全て知っている、という訳だ」


 アキがスマホをポケットから取り出して俺に見せつけるように顔の近くに掲げる。


「そういうことね。人を集められるならいいんじゃないか?皆頑張っただろうし、最近はあまり良い話題も聞かないしな。たまにはパァッと発散するのもいいと思う」


 開催までの道筋が通っているなら俺に否やはない。


「だろ?ということですでに皆に連絡済みだ」


 俺の答えを見越したようにすでに連絡済みらしい。


「相変わらずこういうことの動きは早いな」

「任せておけよな。時間は十六時から食堂の予定だ」

「了解」


 そして、気づけば時間になった。


「おいおい、滅茶苦茶大規模になってるじゃないか。本当に全員に連絡したんだな」

「まぁな」


 俺が食堂に顔を出したら、寮生のほとんどが集まっていて、ほとんど寮生の歓迎会レベルというか、行事の一つもみたいな様相を呈していた。


 そんな俺の所にアキがやってきて相槌をうつ。


「結局俺が生徒会長、時音先輩の方な。に連絡したら結局行事みたいになっちまってな。まぁ盛大にやった方が楽しいから別にいいかと思って今に至るという訳だ」

「それはなんというか、あの生徒会長らしい気もするな」

「そうだな。それよりもうすぐ始まるから席に着いてくれ。指定席にな!!」


 こうなった経緯を聞いた後、アキはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて席に座るように促す。


 そんな席決まっているようには思えないんだけど。


「どこだよ、それ」

「見りゃあわかんだろ、あそこだよ、あそこ」


 アキがそう言って指さしたのはシアが横になって二つの席を確保している姿だった。


「はぁ~……。そのようだ」

「まぁ頑張れ!!じゃあまた後でな」

「おう」


 俺はアキと別れてシアの所へと向かった。


「取っておいた」


 シアの所に近づくと机の方を向いていた体を器用に俺の方に寝返りを打って俺に向かって呟く彼女。


 その後でいそいそと体を起こし、椅子を空ける。


「そうか。ありがとな」

「ん」


 俺はシアに礼を言ってその責に座った。


 周りの先輩や同期生はじゃっかん引きつった笑みを浮かべているか、悔し気な笑みを浮かべているけど、それを俺に向けられても困る。


 だって俺も困惑しているんだから。


「ふふふっ。普人様のお隣をゲットデスよ」

「阻止できなかった」

「それは仕方ない」


 席は一つしか取れないからな。左隣を塞いだら右隣が無防備になるのは必然だ。しかし、一度ウチに連れてきて以降、シアのブロックを楽しんでいる節があるし、積極的すぎるスキンシップをしてくるわけでもなく、きちんと距離感を弁えているので、俺としては問題ない。


「それじゃあ、今日は佐倉君が主催ですので、彼に音頭を取ってもらいましょう」


 それから数分ほどして参加を表明した全員が揃うと、生徒会長がアキの方に顔を向けてニコリと笑った。


「わっかりました!!」


 指名を受けたアキは立ち上がって並んだテーブルの前に移動して、設置されたマイクの前に立つ。


「え~、本日は数十年ぶりのダンジョンバースの対応お疲れ様でした!!ささやかながら皆の労を労う会を準備させていただきました。飲んで食べて今日の疲れを癒してください!!乾杯!!」

『かんぱーい!!』


 こうしてアキの合図で慰労会が始まった。

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