第380話 聖女の査定

 先輩の言によれば、出てくるモンスターの力が徐々に上がっているらしい。


「エリアハイヒーリング!!」


 徐々に押され始めた先輩が出始めた時、ノエルが魔法を発動させる。


 それは一人だけでなく、エリア内にいる味方全員を癒す魔法。先程大きなダメージを受けた先輩も、小さな傷を受け始めた先輩達もその傷がみるみるうちに消えていく。


「おお!!流石聖女様だ!!」

「マジだ!回復魔法が半端ないぞ!!」


 先輩たちが傷がすぐに治ったことで落ちてきた士気を取り戻し、再び拮抗状態へと戻った。


「エリアリジェネレート!!」


 そこにさらに追加で魔法を掛ける。この魔法は七海も使えるが、一定時間の間ずっと傷が回復し続けるようになる。


 つまり余程大きな怪我でなければすぐに治るので、多少の傷は無視できるようになるわけだ。


「よし!!押し返せ!!」

『おう!!』


 早乙女先輩が魔法に気付き、全員に発破をかけると、三年生たちが攻勢を強める。


 さて、今の所、戦力は膠着状態。


 先輩達でも押される相手にラックの戦闘力がどれ程役に立つかは分からないし、今の所、ギリギリでもないから影魔を壁に使うよう場面でもないと思う。


「エリアプロテクション!!」


 今度は一定のダメージが蓄積するまで半透明の障壁で身を守ってくれる付与魔法をノエルが放つ。


 ノエルがいれば俺がラックの影魔を壁に使わなくても大丈夫そうだ。影魔とは言え敵に殺されてしまうのは可哀想だしな。


「リフレクション!!サイレンス!!セイントフィールド!!」


 ノエルの防御魔法や状態異常魔法、弱体化魔法などが次々と展開される。その上、味方にさらに七海も使用した強化魔法まで使い、先輩達の力が何倍もの戦力となった。


 確かにこれだけ多彩な防御魔法や回復魔法が使えるならパーティに一人は欲しい所だよな。魔法がどんどん積み重なっていき、徐々に敵が押されていく。


 前にあったスタンピードもかなり長かったけど、今回のダンジョンの誕生の際に発生したスタンピードも随分と長い。しかし、ノエルの魔法によって完全に建て直された先輩達の相手ではないはずだ。


「やれぇえええええええええええ!!」

『うぉおおおおおおおおおおおお!!』


 案の定、俺の予想通り、それからほどなくして新ダンジョン誕生に付随するスタンピードは鎮圧された。


「いやぁ、今回は聖女様様だったな」

「そうだな」


 先輩達はノエルの魔法を口々に褒めたたえている。


「聖女様、ありがとう。助かったよ」

「聖女様のおかげで傷一つ残ってないわ」

「魔法本当に凄いわね!!羨ましいわ」

「敵が物凄く弱くなったように感じたわ」


 当の本人は他の先輩に囲まれていた。彼女は独断で加勢したんだが、今回のように魔法のみでの援護は良かったと思う。


「キャロ嬢、今回は助かった。俺の判断が甘かった」

「いえ、これも平和を守る聖女の務め。お安い御用デスよ!!」

「そうか、ありがとう」


 その輪が急に割れたかと思えば、早乙女先輩がやってきてノエルに礼を言うと、彼女は本当に聖女のような答えを返す。


「今回は大活躍だったじゃないか」

「あのくらいは普通デスよ」


 暫くして俺達の方に戻ってきたノエルに声をかけると、彼女は少し謙遜して答えた。


「謙遜するなって。皆が感謝している。それは事実だ」

「そうデスね。これでも国ではそれなりに有名デスから」


 今回の功労者は先輩達は勿論だけど、ノエルの功績が大きい。彼女は腰に手を当ててささやかな胸を張って、自慢げな顔をする。


 少しくらいドヤ顔してもいいだろう。


「聖女って呼ばれるくらいだからな。それに俺とシアはただ討ち漏らしをちょこちょこ倒していただけで今回はほとんど何もしていない。魔法を使えないと後ろからでは援護も難しいから羨ましいぞ」

「ん」


 俺とシアがノエルを褒める。


 魔法を使える探索者はそれなりに居るけど、あそこまで支援を万全にこなす人間を見たことがない。


「今日の事はななみんに報告しておく」


 シアは今日のノエルの活躍に思う所があったのか、そう呟く。


「本当デスよ!?」


 ノエルはシアのつぶやきに目を丸くして驚いた。


「ん」

「やったぁデスよ!!」


 シアの肯定で俄然喜びを爆発させるノエル。完全にさっき先輩達に認められていた時より嬉しそうだ。


 彼女たちの間ではどんな約束が交わされているのか……気になるところだ。なんというか、ギルドの貢献ポイントみたいなのがありそうだ。


「よーし、ダンジョン・バースは終息した。現状ダンジョンランクはC以上だ。これから本格的な調査を行う必要がある。一旦ここは閉鎖だ。探索者組合に連絡して今後の方針を決めることになるだろう。ひとまず今日の所はこれから対応を話し合ったりすることになるだろうから解散だ。明日以降もこの様子じゃ、暫く休みになるかもしれないな。その辺りは別途連絡がいくだろうから、それまでは待機していてくれ。以上だ。解散」


 ここで早乙女先輩が締めの言葉を述べて俺達は解散となった。

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