第379話 緊急事態

「きゃぁあああああああああ!?」

「モンスターよ!!」

「助けてぇえええええええ!!」


 穴の中からモンスターが次々と姿を現す。見たこともあるモンスターもいれば、ない種類もいた。


「皆さん落ち着いて!!冷静に行動してください!!」


 西脇先輩が叫ぶ。しかし、その声はパニックを起こした一般人生徒の多いこの空間では届かない。


 俺は生徒会長を見る。彼女なら皆に声を届けることも出来るはずだ。


「……」


 しかし彼女は口を開かず、目を瞑って静観している。


 一体なぜだ。というか逃げなくてもいいのか?


「探索部の皆さん、早乙女先輩の指示の下、すぐに対応に当たってください!!早乙女先輩お願いします」

「お、おう!!」


 生徒会長が何も言わないと思っていたら、神崎先輩がキリッとした態度で、早乙女先輩に指示を出す。早乙女先輩は若干狼狽えた後、我に返って動き始める。


「ダンジョン探索部の部員はすぐに集まれ!!今すぐだ!!」


 早乙女先輩が大声で叫ぶ。


「行くぞ!!」

「おう!!」

「ん」

「行くデスよ」


 俺達はすぐに早乙女先輩の許に走る。


「シンパシー!!」


 その途中で神崎先輩の声が響き渡った。それと同時に先輩の体から青い波動が円形に広がるように放射された。


 講堂全体にその波動が広がる。


「皆さん!!落ち着いてください!!ウチの学校には探索者も警備員も多数在籍しています!!安全ですので、警備員の指示に従い、避難を開始して下さい!!」


 その波動に合わせて神崎先輩の声が轟いた。


「今のはなんだ?」

「分からない。だけど、なんだか思考がスッキリした気がする」


 俺が走りながら呟くと、アキがそんなことを言う。


「あ、あれ?私どうしてあんなに怖がったのかしら」

「そうね。兎に角私たちは戦えないから誘導に従って逃げましょう」

「だね」


 辺りを見回るとパニックに陥っていた生徒たちが突然冷静になって、誘導している人間の方に軽くかけて行って避難していった。


 一体どういうことだ。


「精神系スキル」


 俺の後ろからシアが端的に答える。


「なるほど、そういうことか。それにしても神崎先輩は土壇場に強いな。緊急事態にこんなに冷静に動けるなんて」

「本当だな。俺達探索者がいるからある程度安全かもしれないけど、一般人がモンスターを間近にすれば、探索者じゃない彼らにとっては恐怖でしかない。冷静じゃなくなってもおかしくはないし、さっき現にそうなっていた。先輩のお陰でパニックにならずに済んだ」


 どういう理屈か分からないけど、さっきの波動は受けたもの精神を落ち着ける作用があるらしいな。


 しかも、それは生徒達だけでなく、勢い勇んでダンジョンから出てきて興奮しているらしいモンスター達にも作用していた。


 モンスター達の動きが突然緩慢になり、先程までの勢いが嘘のようだ。なんだか興奮を吸い取られたみたいだ。


 おかげでモンスターが散る前に俺達全員が早乙女先輩の許に辿り着くことができた。


「全員揃ったみたいだな。それではDランク以上の資格を持っている人間はモンスターの討伐に当たる。一年生でそれ以下の資格の者達は、如月の指示に従って警備員と共に避難誘導、そしてもし討伐可能なモンスターが外に出てしまった場合、その対応を頼む。如月頼んだぞ」


 早乙女先輩が俺達を見回して全員自分の所に集まったのを確認して役割分担を伝える。


「はい、こちらは任せてください。皆さん行きましょう!!」

『了解!!』


 如月先輩が俺とシア以外の一年に声をかけ、一年生達は返事をして如月先輩の後に付いていく。


「じゃあな!!」

「おう」


 アキは俺たちと別れて如月先輩の後を追った。


「俺達は、いつものパーティで各自モンスターの討伐を行う。だが、基本的に俺達三年が先陣を切る。二年と一年の二人は討ち漏らしの対処を頼む」

『はい!!』

「行くぞ!!」

『おおぉおおおお!!』


 早乙女先輩は如月先輩達を見送った後で俺達の方を向いてそれぞれの役割を伝えて穴に向かって突撃していった。


 俺達は後詰めの為、モンスターが抜けてしまいそうな部分に何も言わずとも自然に散って待機する。


 先輩たちはすぐにモンスターと接敵して戦い始める。モンスター達は勢いを失っているせいもあってなす術なく、やられていく。


 どうやら先輩達で問題なく対処できるレベルのダンジョンが生まれたらしい。


 これなら時間を掛ければ、徐々に収束していくだろう。


「はぁ!!」

「やぁ!!」


 時々先輩たちの間を縫って包囲網から抜けてきたモンスターを二年の先輩達が危なげなく対処していって、ぶっちゃけ俺達は暇だ。


 おそらく一年である早乙女先輩の配慮なんだろうな。


「暇」

「何も来ないデスもんね」


 ただ、俺達がボーっと立ち尽くしていると、シアが我慢できずに呟き、ノエルが同調する。ノエルに至ってはBランク冒険者程度の戦闘力を持っている。シア以上に暇だと感じるかもしれないな。


「確かにその通りだけど、何事もないならそれに越したことはないだろ」

「我慢する」

「しょうがないですね」


 俺が二人を取りなすと、二人は不服そうな顔をしながらも押さえてくれた。しかし、待てど暮らせど全くモンスターが出てくる気配が止まない。


「ぐはぁ!?」


 その時、三年生の誰かが攻撃を受け、うめき声をあげた。


「どうした!?」

「モ、モンスターの強さが上がっています!!気を付けてください!!」


 どうやらまだまだ緊急事態は終わらないらしい。

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