第374話 断れない誘い(第三者視点)

「頼みなんだけど、これから私が言う人達の所に連れて行ってくれる?」

「ウォン?」


 零に頼み事をされたケイオスは、不思議そうに首を傾げる。


 普人達じゃダメなのか?


 そういうことである。


「ちょっと私の仕事を手伝ってもらいたくてね。でも普人君達にはちょっと言いづらいのよ」


 ケイオスの名づけをした零の頼み事はこれから事業を展開していくうえで、もっと人手を確保したかったからだ。


 それも表向きの仕事ではなく、裏の仕事を任せる人間達の手が欲しかった。ただ、それを普人に言うのは憚られた。


 彼らは自分のように汚れて欲しくはないからだ。


 しかし、彼らを守るためにはそういう力も必要だ。


「ウォンッ」

「ありがとね。あなたなら分かってくれると思ったわ」


 元々ラックの一部であり、影に生きる存在であるケイオスは、零になんとなくシンパシーのような物を感じ、協力することにした。


 ケイオスとしては名付け親でもあるので、普人、ラックの次に重要視する相手にもなっているせいもある。


「それじゃあ、まずはアメリカからね」

「ウォンッ」


 零はまずアメリカへと飛んだ。


「あ、いたいた」

「ん?あ!!姉御じゃないですかい!!」


 零が探していたのはジャックとジョージを含む、普人達に絡んだ探索者パーティだった。


 零が呟くと、それに気づいたジャックが振り返り、零を認識する。


「その呼び方は止めて」


 零も普人同様に姐さんという呼ばれ方には抵抗があった。


「は、はぁ、すみません。えっと、それで今日はお一人ですか?兄貴はいないんです?」

「ええ。ちょっとあなたたちに頼みがあってね?」


 ペコペコと頭を下げるジャックに、にこやかな笑みを浮かべて話を進める零。


「いやぁ、あははははっ。自分たちはこれから用事がありまして、失礼します!!ほら、お前らもいくぞ!!」

「ふふふふっ。逃がすわけないじゃない」

「ひぃ!?いったいどこから?」


 何かを感じ取ったジャックが頭を下げ、仲間達を連れて零の前から逃げ出そうとするが、すぐに零に巻き込まれてしまった。


 その動きにジャック達は怯える。


「私ってこれでもSランク探索者なの。言っている意味が分かるわよね?」

「うひっ。そ、それで俺達に用事ってなんでしょうか?」


 零が凄みを出して威圧すると、ジャック達は大人しくなって零の用を尋ねる。


「そうね。私たちは普人君を代表として会社を作ったんだけど、そこでちょっと働いてもらえないかと思って」

「え?それなら全然かまわないですけど……」


 突然の働き口の紹介に、願ってもないと飛びつくジャックだが……。


「ただ、ちょっと後ろ暗いお仕事の方なのよ」

「い、一体零さんは何者なんですかね?」


 そんな仕事をさせようとする零の素性が気になってしまった。


「だから言っているでしょ?しがないSランク探索者よ」

「そ、そうですね。そうでした」


 しかし、零の有無を言わさぬ笑顔に何も言えなくなる。


「それで?受けてくれるかしら?」

「はぁ……どうせ断れないんでしょ?」


 零が改めて返答を求めると、ジャックは諦めたような表情で答える。


「分かってるじゃない。話が早い人は好きよ」

「それじゃあ、俺と結婚してくれますか?」


 零がニヤリと口端を吊り上げて答えたら、ジャックはその言葉を素直に取って軽い冗談のつもりで返事をした。


「次そんなことを言ったら殺すわよ?」


 しかし、その瞬間首元にナイフが突きつけられる。


「ひ、ひぃ!?ただの冗談じゃないですか!?」


 ちょっとだけ脅かされた仕返しのつもりだったが、零が思いのほか気が短かったため、ジャックは泣く羽目になった。


「全く……今回だけ大目に見てあげる。それで?引き受けてくれるってことでいいのかしら?」

「分かりましたよ。分かりました。俺達ブラッディデストロイヤーズは零さんの下で働かせてもらいますよ」


 呆れながら再度問うと、ジャックは降参するかのように両手を上げて了承した。


「オッケー。悪いようにはしないわ。給料はそれに見合うだけの額を支払うし、護衛に一人一人にラックの影魔を付ける。あなたたちに命の危険はないから安心しなさい。それにあなたたちは最近評判がいいみたいじゃない。どんどんその評価を高めて、こんなことをしているとは思われないようにしなさい。そのために影魔の協力が必要なら私から指示を出しておくわ」


 ラックには、普人のためだからと言うと結構簡単に影魔を出してくれるので、零はそれを利用してジャック達にも影魔を護衛に着ける予定だ。


 しかし、それは役割の一つで、もう一つは彼らが裏切らないように監視するための措置だ。


 影魔がいれば情報を漏えいをさせられる前に押さえることが出来る。


「そりゃあすげぇ。あの狼の力が使えるのなんでもできますぜ」

「勿論分かってると思うけど」

「分かってますって。おかしなことに力を使おうなんて思いませんよ、そうした瞬間どうなるかくらい理解してます」


 何の裏も探ることなくはしゃぐジャックに零が釘を刺すと、彼は苦笑いを浮かべて首を振った。


 ジャックは監視という事実には気づいていないが、ラックが誰の命令に従うのかは重々理解していて、自分がおかしなことを使用とした時まで力を貸してもらえるとは思っていないし、そういうことをすれば当然切り捨てられるということも理解していた。


「ならよし。それじゃあ、今後は影魔経由で連絡するから宜しくね」

「分かりました」


 零はジャック達が問題ないと判断して握手を交わした。


 ジャックたちを組織に引き入れた後、零は世界各地を巡り、自分たちに突っかかってきた人間達で後に下った連中を有無を言わさずに組織のメンバーにしていくのであった。


「全く姐さんときたら、兄貴たちの事になると結構な無茶やらかすんだな……。まぁ悪くない待遇みたいだし、いっちょやりますか!!」

「まぁそうだな。頑張ろうぜ」

『おお!!』


 零と対峙したジャックは、空を見上げて今はどこかにいる零の姿を思い浮かべながら、仲間たちと一致団結してやる気を出すのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る