第375話 激化

 週明け。


 もうすぐ決戦答弁が近いのもあって、学校での選挙活動が激化していた。


「最近のわが校では……」

「わ、私たちはより大きな……」


 服生徒会長である西脇先輩と神崎先輩が毎朝登校前に演説しているのを見かける。


「あの、佐藤普人君でしょうか?」

「え、あ、はい」

「これ、受け取ってください!!」

『受け取ってください!!』


 それと同時に俺の謎のモテ期も激化していた。


「放課後にお茶でもどうですか?」

「あ、私が誘おうと思っていたのに!!」

「そうよそうよ!!私といいところに行きましょう?」

「いやいや私と!!」


 加速度的に高まるあまりに唐突過ぎるモテ期に困惑しかない。


「いや、そういうのは間に合ってるから。悪いな」


 俺はあまりに強引な彼女たちの誘いを断って教室に向かう。


「はぁ~あ、おまえばっかり本当にズルいよな」

「いや、お前も経験してみろよ。あれ、結構きついぞ。しかも皆全く知らない人だし。知らない人からぐいぐい来られても怖いだけだろ」


 アキが俺にぼやくが、俺は反論する。


 確かに俺は高校デビューして女の子にモテたいとか思っていた時期があったけど、パーティメンバーが美少女だらけだし、これ以上沢山の人間に言い寄られても辟易とするだけということを思い知った。


「お前それを俺の前で言うか!!それはな!!強者だからこそってやつなんだよ!!」


 アキはムキ―ッとハンカチを噛んで悔しそうに俺に文句をたれる。


 それにしても一体どうしてこんな事態になっているんだろうな。


 あまりに突然すぎて一体なんでよく分からないモテ期がやってきたのか理由が分からない。


「シア、なんでこんなことになっているか分かるか?」


 俺はダメ元でシアに聞いてみる。


「ふーくんがカッコイイから。でも私が正妻」

「いや、そんなことないと思うんだけどなぁ。それとまだ返事さえしてないんだけど……」


 シアは俺がモテて当然かのように言うけど、最近までそんなことは一切なかったのでそれはないと思う。

 

 それと未だにシアに返事をしていない。流石にこのまま有耶無耶するのはよくないな。そろそろ結論を出す必要がある。


「でも、ウチの両親とふーくんママとの間で話が進んでいる」

「一体いつの間に!?」


 そう思っていたら、もう勝手に親同士も絡んで勝手に話が進んでいた。


 俺はあまりの驚愕に顎が外れそうになった。


「両親が帰ってきた時から」

「それって最初からじゃねぇか!!」


 思わぬ外堀に俺は思わずシアにツッコミを入れてしまった。


 このままではなし崩し的に結婚させられてしまいそうだ。


 それも悪くはないのかもしれないけど、男としてのけじめは必要だと思う。


「そうデスよ。普人様は勇者に匹敵するほどに愛と正義に溢れた方。世の中の女性が放っておくわけないデスよ」


 シアにいつも通り他の女の子と同様にブロックされながら聞いてもいないのに答えるノエル。


 その争いも激しさを増していた。


 しかし、最近はブロックを無理矢理超えるつもりはなく、それを楽しんでいるような側面を感じさせる。


 ノエルもシアと仲良くしたいのかもしれない。


「うーん、分からん」


 兎に角二人に聞いても納得できる情報を得ることは出来なかった。


「俺はそんなにモテモテになっているのに何に悩んでいるのか分からん!!皆と仲良く遊べばいいだろ!!」

「俺はそんなに器用じゃないし、実際陽キャじゃないから沢山の人と話すのは疲れる」

「全く贅沢な悩みを持つ奴め!!」


 アキは俺が悩んでいることを見て、グヌヌと忌々し気に俺を睨んだ。


「ん?」


 俺はふと視線を感じてそちらの方を見る。


 しかし、その先には何も見えない。確かに感じたはずだが、視線を感じ唯期には何もなかった。


「どうかしたのか?」


 俺の様子を見たアキが、今までの表情とは違い、真剣な表情で尋ねてきた。


「いや、なんだか殺気みたいなものを感じた」


 遠くから狙われているような感覚を覚えたが、俺が普通に見える範囲にはさっきまでそのような相手は見当たらなかった。


「またか。最近お前モテまくりだからな。学校中の男たちの反感を買っているんだろ」

「そういうんじゃない気がするんだけどな」


 確かに曖昧な物であったけど、一般人が持つようなプレッシャーではなかったように思う。


「それなら気のせいだ。気のせい」


 アキも真面目に構えていた面をフッと緩ませて首を横に振る。


 しかし、明らかに視線を感じる回数も以前に比べて増えていた。これは一体何を意味しているのだろうか。


 あ、でもやっぱり俺に言い寄ってくる彼女たちに好意を持っている男たちからは恨まれていることはアキの言う通り間違いないか。


「どうかしたのか?」


 ふと見ると、シアが高速でスマホでメッセージを送っていた。


「んーん。女のことをななみんに報告していただけ」

「完全に初耳だが、七海とも仲良くしてくれて助かる」


 どうやら俺が女の子に囲まれているのを七海に報告しているらしい。


「ちなみにななみんとも話は付いてる」

「だから返事もしてないだろうがぁあああああああああああ!!」

 

 そして最後にもたらされる爆弾。


 俺とシアとの攻防も激化しているようだ。

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