第370話 エルフの適性と過去
「初期値が凄く高いわね……」
零がエルフ達のステータスを見ながら呟く。
「そんなにか?」
「ええ。人とは比べ物にならないくらい」
どうやらエルフ達は元々魔法が使えたり、戦闘力が高かったりするため、ステータスの値が普通の人間よりも高いらしい。
「どのくらいなんだ?」
「そうね。レベル三十くらいの探索者と同じくらいかしら」
「それは凄いな……」
俺はステータスに関してはあまり分からないけど、レベルが三十も上がったら、それはかなりの差が生まれることは想像できる。
同じレベルなのにレベルが三十も先行しているステータスを持っているなんてチートも良いところだ。勿論レベルごとに増えるステータスが人間と同じだったらという前提がつくわけだけど。
「ええ、これなら結構早く使い物になるかもしれないわ」
「そうか。それじゃあ早速覚醒しに行くか」
「そうね。早い方がいいわ」
適性が分かれば出来るだけ早く覚醒してもらい、早急に戦えるようになって貰った方が良いと思う。
元々戦いの心得がある種族の人達だし、覚醒してステータスを得てから慣れれば、すぐに戦えるようになるはずだ。
「どこのダンジョンがいい?」
「そうね、やっぱり彼らの存在が露見するリスクを考えると、野良のダンジョンがいいわ」
これだけの正体不明の人物たちを普通のダンジョンに連れて行くのは厳しいか。
勿論ラックの影を使えば誰にも見つかることなく、探索者組合やハンターズギルドの管理下にあるダンジョン内に連れて行くことは何も問題ないと思う。
でも、レベリングをするとなると、どうしても影から出ることになるし、辺りを気にしながらだと気が散って思わぬ危険を引き寄せる可能性もある。
それなら零の言う通り、野良に行った方が見つかる可能性も周りを気にする必要もないので、そっちの方がいい。
「それならラックに聞いてみるか。ラック、探索者組合の支所がないダンジョンで、弱いダンジョンはあるか?」
ラックの影魔が世界中に散らばっているので、人が入り込まないような奥地のそういうダンジョンも見つけていた。
だからその中でも彼らのレベリングにちょうどいいダンジョンがないか尋ねる。
「ウォンッ」
「そうか。それじゃあ、全員をそのダンジョンに連れてってくれるか?」
「ウォンッ」
ラックは分かったと鳴いた。
「この結界の中だと転移できないみたいなので森の外に移動しましょう」
『分かりました!!』
俺の指示に従ってエルフ達を含む俺達一行は、人がいないのを確認した上で森の外に出て、野良ダンジョンへと転移した。
「こ、これが転移……」
「まさかこんな能力があるとはな」
エルフの長とサリオンを筆頭にエルフ達が付近をキョロキョロと確認しながら口々に呟く。
確かに信じられないような能力だもんな。俺もそのおかげで凄く助かっている。
「そしてこれがダンジョンというものなのか?」
「はい、そうですね」
サリオンも長同様一通りの礼儀などは王様にやりそうなことをやるが、言葉遣いは前と変わらずに話してくれる。
「昔はよく見かけたホールの雰囲気に似ているのう」
「そうだな」
どうやら前に見たことがあるものと似ているらしい。
「昔もダンジョンがあったんですか?」
「いや、ダンジョンとは違うのう。なんというか、こことは別の場所とつながる穴があってな。そこからモンスターが湧き出てきたり、中には色々な世界が広がっておって、そこには様々なお宝が眠っておった」
「たしかにダンジョンと似ていますね」
「いつからか全く見なくなったんじゃが、再び似たようなものに出会えるとは……これもまた縁か」
なんと昔もダンジョンに似たものがあった時代があるらしい。エルフなんていうファンタジー種族や、クノッソスの迷宮、ミラのような吸血鬼なんてオカルトじみた存在もいた。それならもっと昔にダンジョンような可笑しな現象があったとしてもおかしくはないか。
俺はなんだか不思議な気持ちになった。
「とりあえず中に入りましょう」
「うむ」
暫くダンジョンの入り口を眺めていた俺達は中に足を踏み入れた。
「うぉおおおおお!!なんじゃこれは!?」
「凄い!!今までよりもさらに力が溢れてくる!!」
エルフ達はダンジョンに入ると覚醒し、ステータスに目覚める。
「そのホールというのがあった頃はステータスはなかったんですか?」
「いや、なかったのう。ホールの攻略は命懸けじゃった……」
へぇ、その頃はステータスも無しにダンジョンのような場所に潜り、探検していたんだなぁ。
そう考えると、ダンジョンってなんだかその別の世界とをつなぐホールを、より扱いやすいようにしたような印象を受けるな。
もしかしたら誰かが作ったものだったりしてな。……まぁそんなことはありえないか。
それにしても、元々魔法や戦闘能力があったのにさらにステータスが覚醒するとは……。
とんでもなくズルい種族だ。
俺はステータスが覚醒し、嬉しそうにはしゃぐエルフ達を眺めながらそう思うのであった。
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