第371話 慣らし
俺達はまず、エルフたちにステータスの説明と探索者という存在の説明を行った。
俺には熟練度しかないので当り障りのない部分だけ伝えて、それ以上はパーティメンバーに任せる。全くなんの実感も伴わない説明になってしまうからな。
ステータスの説明が終わった後は、まずはそのステータスに体を慣らすため、一人ずつモンスターとの戦闘をさせる。まずは慣れるためなのでパーティは組まない。
勿論最初なので、サポートとしてラックの影魔が近くに潜んでいるので、全く問題ない。
俺達はダンジョンの宝箱から拾った数々の武器防具の中から自分の好きな物を選んでもらい、それをエルフ達に貸し与えた。
「よーし、そろそろ一人ずつ戦ってみますよ」
『おー!!』
暫くして装備を整え終えたエルフたちに声を掛けると、俺達はダンジョンの奥に居るモンスターの許を目指して歩き出した。
「お、あれは懐かしのコボリンだ」
最初に出てきたのは黒いコボリン。俺が入学してから初めて潜った朱島ダンジョンで、落とし穴に落ちた後に戦った思い出深いモンスターだ。
武装をしっかりしていて、見た目も黒くて強そうだったんだけど、予想に反してただ色が違うだけのコボリンだったんだよな。
俺はモンスターを見て思わず懐かしさに浸る。
「王よ、ちと、あのモンスターは強すぎるように見えるのじゃが……」
考え事に没頭している俺に長が引きつった笑みを浮かべて話しかけてきた。
「いや、あのモンスターは弱い部類のモンスターですよ?」
「そ、そうなのか?」
俺が長に答えると、サリオンが苦笑いを浮かべて俺に再度尋ねる。
どうやら初めてのダンジョンでビビっているらしい。何百年も森に篭っていたみたいだし、本格的な戦闘は久しぶりだから仕方ないか。
それに、七海も最初はモンスターの魔力に当てられてビビっていたしな。エルフ達も同じようなものだろう。
思い返せば怯える七海も可愛かったな。
俺は当時の七海の姿を思い出して思わず口を綻ばせる。
「はい。だから安心して戦って下さい。七海が支援魔法をかけますし、危なくなったら影魔が助けるから大丈夫ですよ」
「王がそう言うのなら大丈夫かのう」
俺はニッコリと笑いながら返事をすると、長は少しだけ安堵の表情を見せてくれた。
絶対に死なせはしないから大丈夫だ。
最悪即死にさえならなければエリクサーで全回復出来るからな。余程のことがなければ大丈夫だと思う。
「はい、誰も死なせたりしないので気楽にいきましょう。それじゃあ誰から行きますか?」
俺は安心させるように呟いた後で、誰からコボリンと戦うかを尋ねた。
「それはやはり私からだろうな」
その声にすぐに反応したのはサリオン。流石警備隊の隊長だ。エルフの中の戦闘力という点では隊長に抜擢されるくらいだからかなり強いはずだ。
「そうですね。確かにサリオンさんから行くのが良いですね」
それを考えるとサリオンがトップバッターで皆に見本を見せるのは当然と言える。
「うむ。それじゃあ、行ってくる」
「ちょっと待ってください。七海」
「任せて!!」
すぐにモンスターの所に行こうするサリオンさんを引き留め、七海に付与魔法を掛けさせる。身体の動きに慣れたばかりなので、防御力アップや攻撃力アップなど、動きに関係のないバフのみを使用する。
七海はすぐに魔法を掛け終える。
「これで大丈夫でしょう」
「分かった。今度こそ行ってくる」
過保護と言われるくらいに守りを固めているので問題ないはずだ。
「分かりました。ラック」
「ウォンッ」
サリオンさんがコボリンの許に向かってゆっくりと身を隠しながら進み始めたので俺はラックに影魔の一匹を付けさせて、万が一の備えとした。
俺達はラックの影に入って中からサリオンさんの活躍を見る。
サリオンさんの武器はエルフの代名詞とも言える弓、ではなく、ナイフだった。普段採集や狩猟は前衛としてナイフで立ち回ることが多いらしい。
サリオンさんは気配を消しながらゆっくりとコボリンに近づいていく。
流石元々戦闘経験と狩猟経験があるおかげか、その隠形はとても様になっていてコボリンも十メートルほど先まで近づかれても気づいていない。
「グギャギャッ」
コボリンも獲物を探して徘徊しているようだ。ゆっくりとサリオンさんが隠れている方に近づいてくる。
九メートル、八メートル、七メートル、六メートル、五メートル。
コボリンとサリオンさんの距離が四メートルを切った所で、サリオンさんが岩陰から躍り出してコボリンに襲い掛かった。
―キンッ
さしものコボリンもギリギリではあったけど、なんとかサリオンさんの攻撃を防ぐ。
しかし、サリオンさんの動きは軽やかで軽業師のようにコボリンの背後に回り込もうとする。
しかし、コボリンはそれに対応してバックステップで後ろに飛び、一歩も譲らない。
―キンッ
―キンッ
―キンッ
それから何度も打ち合い、膠着状態になる。
流石に最初からEランクモンスターはやり過ぎだったかなぁ。
―バキッ
「グギャーッ!!」
しかし、そんなことを考えていたら、コボリンの武器が壊れてサリオンさんのナイフがコボリンに直撃した。
「はぁっ!!」
その隙を逃すことなく畳みかけるようにナイフを薙いだサリオンさん。
「グゲッ」
コボリンは抵抗できずにその攻撃を受け絶命した。
「はぁ……はぁ……」
ちょっと初戦の相手としては少し強かったかもしれないな。
でも結果的に勝てたから良しとしよう。
これでレベルも上がっただろうし、これからは問題ないだろう。
「サリオンさん、お疲れ様でした」
「あ、ああ」
「それじゃあ、他の人達もやりますか」
「そ、そうだな」
戦い終わって息を上げているサリオンさんに声をかけると、エルフ達が何やら青い顔をしているような気がするけど、多分気のせいだろう。
その後、一人ずつ一通りモンスターと戦ってもらった。怪しい人達もいたけど、影魔のサポートでひとまず全員無事に初戦闘を終えた。
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