第361話 俺達は一体何を見せられているんだ……?

 結局昨日は何事もなく、何かあれば起こすように言って、俺はそのまま寝ることにした。


「ウォンッ」


 特に何事もなかったらしく、ラックが目を覚ました俺に挨拶をする。


「おはようラック。いいか?あんまり俺を喜ばせるようなことを言うんじゃないぞ?さもないと俺が死んじゃうからな?」


 昨日はラックが俺の心がキュンキュンするようなことばかり言ってくれたので、これ以上は俺が持たないので、しっかり言い含めておく。


「ワフッ!?ウォウォンッ!!」

「うんうん、分かればいいんだ、分かれば」


 真に迫った俺の言葉に、ラックがまさかそんなことになるとは思わなかったと驚愕してから首をブンブンと縦に振った。


 少し可哀想だけど、ここは俺の精神安定のためだ。ごめんよ、ラック!!


 だって毎日あんなことを言われたらとても耐えきれそうにないじゃん?

 

 ホントに萌死してしまう可能性もあるからね。あながち嘘と言うこともないかもしれない。


「それじゃあ、俺は学校行ってくるから、ラックはゆっくりしてろよ?」

「ウォンッ」


 俺はラックにちゃんと言い含め、アキと合流してご飯を食べた後、学校に足を向けた。


「ふーくん。おは」

「普人さま、おはようございますデスよ」


 シアは無表情で俺に挨拶をして、シアにインターセプトされながらノエルも挨拶をする。


「シア、おはよう。ノエルもおはよう」


 俺も一旦立ち止まって返事を返して、二人と再び校舎の方向に歩き出した。


「いい加減にしたまえ!!」

「だから、たまたまここでやることになったって言ってるじゃん!!」


 建物に近づくと、言い争う声が聞こえてくる。その声は真面眼鏡先輩とギャル先輩の物だ。お互いににらみ合っている。


 大体事情は分かってるけど、野次馬している人に確認してみよう。


「どうしたんですか?」

「え?ああ、どうもあの女の子が彼の演説にずっと付きまとっていたみたいで我慢の限界が来たようだな」

「なるほど、ありがとうございます」

「いや、このくらい気にするな」


 どうやら俺の予想通りの状況のようだ。


「止める?」

「いや、まだ手を出すって感じじゃないからなぁ……」


 シアが俺に確認してきたけど、お互いにらみ合っているものの、手を出したりって雰囲気じゃないんだよなぁ。止めるかどうかは微妙なところだ。


「一体どうして私に付きまとってくるんだ!?いい加減説明してくれてもいいだろう?」

「本当に分からないの?ゆきっち……」


 ずっとにらみ合っていた二人だが、真面眼鏡先輩が尋ねると、ギャル先輩は今までの軽いノリの口調が嘘のように、真面目な様子で問い返す。


 その表情は悲痛に歪んでいた。


「そ、その呼び方をするやつなんて幼馴染のアイツしか……そんなまさか……」

「やっと思い出した?」


 自分の呼び名を聞いた瞬間顔色を変える真面眼鏡先輩。その様子を見て呆れた様子でギャル先輩が呟く。


「き、君が……なみちゃんだとでもいうのか……?」

「そうだよ。中学の時に引っ越したなみだよ」


 目の前のギャル先輩がまるで違う生き物にでも見えているかのように狼狽えながら尋ねると、ギャル先輩は頷いた。


「バ、バカな!?なみちゃんは黒髪で清楚な女の子だったはずだ!!君みたいに金髪にして日焼けして如何にも遊んでそうな女の子じゃない!!なんでなみちゃんを知っているのか知らないが、彼女を侮辱するなら私が許さないぞ!!」


 しかし、目の前のギャル先輩と自分の思い出の中の彼女が余りにもかけ離れていて認めることが出来ないのか、真面眼鏡先輩はギャル先輩に怒りながら否定する。


「何言ってるのよ!!私がそうだって言ってるでしょ!!」

「煩い煩い煩い!!証拠を見せてみろよ!!証拠を!!」


 ギャル先輩は胸に手を当てて自分こそが真面眼鏡先輩の幼馴染だと主張するけど、彼はメロンパンが好きな炎髪灼眼の持ち主のように喚いて証拠を要求した。


「分かったわよ!!生徒手帳でいいでしょ、ほら!!」

「そ、そんな!?」


 ギャル先輩は生徒手帳をポケットから取り出して見せつける。その瞬間、自分の知っている名字と名前だったことで真面眼鏡先輩は愕然とした表情になる。


「い、いや、まだだ。全く同じ名前の別人だということも考えられる」

「まだそんなことを言うつもりなの!?こうなったら言いたくなかったけど、ゆきっちの秘密をばらしちゃうからね?」


 往生際の悪い真面眼鏡先輩はまだギャル先輩を幼馴染だとは認めないが、業を煮やしたギャル先輩が最終兵器を繰り出すつもりだ。


「ふ、ふん。どうせ大したことじゃないだろう」

「本当に良いのね?」


 強がる真面眼鏡先輩に真剣な表情で聞き返すギャル先輩。


「あ、ああ、かかってこい!!」

「ゆきっちの本棚は実は前と後ろの二列並ぶようになっていて、その二列目には「あーっと、どうやら君はなみちゃんに違いないみたいだ、うん!!」」


 狼狽えながらギャル先輩に先を促す真面眼鏡先輩。ギャル先輩はその言葉を受けて話し始めるが、真面眼鏡先輩が突然顔を真っ青にして慌ててギャル先輩の口を塞いだ。


―トントンッ


「あ、すまない!!」

「ぷはぁ!!これで分かったでしょ?私がなみよ!!」


 苦しくて真面眼鏡先輩の腕をタップするギャル先輩は、解放されるなり、ドヤ顔になる。


「そうみたいだな。しかし……清楚だった君が一体どうしてそんなギャルみたいな姿に……?」

「……たんじゃない」


 ようやく認めた真面眼鏡先輩は、ギャル先輩がなんでギャルをしているかを尋ねると、小さな声で答えた。


 前半部分が小さくて全く聞き取れない。


「なんだって?」

「ゆきっちが言ったんじゃない!!俺は金髪で日焼けしたギャルが好きだって!!だから私必死に勉強してこの学校入って、ゆきっちの理想の格好になったのに思い出してもくれないなんてどういうことなの!!」


 真面眼鏡先輩が問い返すと、ギャル先輩が彼の好みを暴露した。


「あ、あれは、清楚な君が好きだったのが恥ずかしくて言えなかっただけだ!!」

「え!?」

 

 真面眼鏡先輩がやけくそ気味に叫ぶと、ギャル先輩が目を丸くして驚く。


 そりゃそうだ。それは唐突な告白だったんだから。


「あ……」


 真面眼鏡先輩は「しまった!!」という顔になる。


「ホント?」


 ギャル先輩がもじもじしながら真面眼鏡先輩に問いかけた。


「な、何がだ?」

「えっと……私が好きって……」


 慌てて知らないふりをする真面眼鏡先輩だが、ギャル先輩がしおらしい態度で再び尋ねる。


「………………………………………………………………本当だ」


 長い沈黙の後、降参したようにその事実を肯定する真面眼鏡先輩。


「それじゃあ、元に戻ったら私と付き合ってくれる?」

「べ、別に今のなみちゃんだって問題ない」

「ホント?嬉しい!!私も大好きよ、ゆきっち!!」


 こうして眼鏡先輩とギャル先輩は付き合うことになり、生徒会長選挙も辞退した。


 俺たちは一体何を見せられていたんだ!?

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