第348話 急変

 新藤さんにあった次の日。


「ふわぁ……」


 俺はいつも通り目を覚ます。


「スピー、スピー」


 ラックはまだ寝息を立てて腹を丸出しで眠っていた。


 どれだけ無防備なんだよ……。


 俺はラックの酷い寝相に呆れかえる。


「ん?」


 スマホを確認すると、ロック画面にLINNEの通知が来ていたので、俺はロックを解除してLINNEを確認する。


『新藤さんから詳細が送られてきたから内容を確認したんだけど、特に問題なさそうね。依頼は受理しておいたわ』


 送られてきていたのは零からのメッセージ。


 どうやらあの後、零に活動内容や達成条件などが記載されたデータか何かが送られたようだ。零が確認して問題ないのなら大丈夫だろう。


『簡単に依頼内容を説明すると、大雑把に言えば、行方不明者の捜査協力ね。捜査にかかった費用は経費として計上すれば、おかしいものじゃなければあっちがもってくれるわ。それから行方不明者全員の救出や確保という無理難題じゃないから心配しないで。有益な情報を提供したり、救出や確保に成功して連れ帰ったり、一定の成果ポイントが用意されていて、それをクリアすれば報酬はもらえるわ。特になんの情報を得ることが出来なかったからと言って不利益を被ったり、失敗扱いになったりしないから安心してね。詳しい内容はまた佐藤君の実家でお話しましょ。日程は普人君達に合わせるから都合の良い日を教えてね』


 その後で、ざっくりとした依頼内容を記載してくれていた。


 なるほどなぁ、流石零だ。


 俺だったら、仮に無理難題を吹っかけられたり、どう頑張っても失敗扱いで違約金などが発生してしまったりするような内容の依頼でも見抜けなかったかもしれない。


 零さまさまだ。


「ありがとう。分かりやすく纏めてくれて助かる。零がいなかったら騙されていたかもしれない。いつも頼りにしてる。日程は学校が終わった後か週末ならいつでもいいよ。と」


 俺は感謝を込めてメッセージを送った。


「ウォン?」


 俺がスマホをいじっていたら、ラックが目を覚まして俺の方を見て首を傾げる。


「ん?ああ、零からメッセージが来ていたから返事をしていたんだ」


 零から来たメッセージを見せながら、返事を返していたことを教えてやる。


「ウォンッ」

「そうだな。今回もラックの力に頼ることになると思うけど、任せてもいいか?」


 ラックは零と聞いて依頼のことだと連想したらしく「また人探し?」というニュアンスで鳴いたので、俺は首を縦に振って力を貸してくれるように頼んだ。


「ウォンッ」

「そうか。ラックもいつもありがとな」


「任せてよ!!」と鳴くラックに、俺は嬉しくなって抱き着いてワシャワシャと撫でまわす。


「ウォウォンッ」

「あはははっ。くすぐったいぞラック」


 そしたらラックは俺を押し倒して顔を舐めまわしてきた。俺はくすぐったくて思わず笑い声をあげたけど、ここが寮だということを思い出して、声のトーンを落とした。


 本当に零といい、ラックといい、感謝しかない。それに比べて俺は、周りのみんながいなければ何もできないな。


 俺は少し自嘲気味に心の中で呟くのであった。


「おはよう普人」

「ああ。おはよう」


 時間になると、アキと合流して食堂に朝ご飯を食べ、支度をして学校に向かう。途中でシアとノエルを拾って適当に雑談をしながら歩いていく。


「あ、あの佐藤普人さんですよね?」

「え、あ、そうだけど?」


 いつもなら誰も話しかけてくることなく教室までたどり着く俺達の日常は、今日に限って非日常となった。


 俺達の前に立ちはだかり、恥ずかし気に話しかけてきたのは同学年らしきカチューシャをした女の子。


「あ、あの、これ読んでください!!それじゃあ!!」


 彼女は俺に如何にも女の子らしい可愛い模様が描かれた封筒を手渡すなり、顔を赤くして走り去ってしまった。


「これってなんだ?」

「どう見てもラブレターに決まってんだろ!!」


 俺が封筒をいろんな角度や透かしたりしながら誰ともなく尋ねると、アキが不機嫌な声色で俺に向かって叫ぶ。


「ラ、ラブレター!?」


 俺は未だかつて一度も貰ったことがないので狼狽える。


「女の子がモジモジして顔を赤らめながら渡す。ラブレター以外にあんのかこの野郎!!」

「な、何で怒ってんだよ!?」


 俺は二度も怒鳴られて困惑しながらアキの方を向いた。


「そりゃあ怒りたくもなるだろ!?いっつもいっつもお前ばかり、青春イベント起こしやがって!!」

「い、いや、別にそんなことないだろ!?」


 アキはそんなことを言うけど、あまり心当りがない。


「そんなことあるから言ってるんだよ!!くぅ~!!羨ましい!!美少女とパーティ組んだり、年上の美少女に目を掛けられたり、美少女を実家に連れて行って親に紹介したり、美少女とラッキースケベな出来事に巻き込まれたり、転校してきた美少女といきなり仲良くなったり、留学生が顔見知りだったり、他にもいくらでもあるわ!!」


 そう思っていたはずなのに、いざアキに俺に起こった出来事を列挙されると確かに俺は美少女との接点が多いことに気付く。


 今まで俺は自分が青春を謳歌できていないと思っていたけど、案外満喫していたらしい。


「なんかすまん」


 急に自覚した俺は申し訳なくなってアキに頭を下げた。


「謝るんじゃねぇ!!同情するなら美女をくれ!!」


 なぜか怒られてしまった。


 なぜだ。

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