第337話 女子会裁判(第三者視点)

 ノエルが連れていかれたのは佐藤家の一室。


「これより、被告ノエル・キャノンのお兄ちゃんに多大な迷惑を掛けた容疑についての裁判を執り行う」


 しかし、その部屋はカーテンが閉め切られて薄暗く、至る所に火の灯った蝋燭が立てられていて、まるで黒魔術やサバトなどで行われる儀式を行いそうな雰囲気が醸し出されていた。


 先ほどまでは私服や制服だった七海たちが真っ黒なローブと、目の部分にだけ穴の開いたような気味の悪い仮面をつけていて、さらにその不気味さを強調している。


 その部屋の中心の座布団にノエルが座らされ、周りを仮面少女たちが取り囲み、ベッドの上に仮面をつけたツインテールの小柄な少女が威厳たっぷりにノエルを見下ろしていた。


「被告人は、氏名、生年月日、住所、職業を述べよ」


 ツインテール仮面少女がノエルに向かって指示を出す。


「ノエル・キャノン。二〇〇六年十一月八日生まれ。神ノ宮学園の寮住まい。職業は高校生兼探索者デスよ」


 ノエルは大人しくその指示に従って正直に答えた。その表情は暗い。


「ブラック、罪状を」


 ツインテール仮面少女は、黒髪ロングの仮面の女性に罪状を読み上げるように指示を出す。


「はい。被告人ノエル・キャノンは、救助の際、勇者様などとうわ言を言いながら佐藤君にディープキスをしたばかりか、それだけに飽き足らず、昨日ノエル・キャノンを歓迎する会において、機密と思われる情報を軽々しく口にしようとしました。さらに、それを未然に防いでくれた佐藤君を、自身が守らなければならない機密を盾にして脅迫し、自身が望む呼び名を呼ばせ、さらに自身をパーティに入れるように要求。その先は佐藤君によって止められましたが、脅迫によって結婚まで迫ろうとする始末。これは許されざる行為と言わざるを得ません」

「うむ。ありがとう。さてノエル・キャノン。今の陳情に何か申し開きはあるかね」


 黒髪ロングの仮面の女性が手元のプリントに記載されている内容を読み上げ、ツインテール仮面少女は満足げに頷いて、冷徹な目でノエルを見ろした。


「ありませんデスよ……本当に申し訳ありません」


 ノエルは完全に認める形で謝罪し、ガックリと項垂れる。


 改めて罪状を客観的に並びたてられたことで、自身がやったことの大きさを認識し、申し訳なさでいっぱいになったのである。


「素直でよろしい。しかし、今回の件は非常に大きな罪である。今のままではパーティへの加入は認められない」

「そんな……」


 ツインテール仮面少女によって無情な判決を言い渡され、ノエルは絶望の表情を浮かべた。


 それくらい仮面少女たちにとって今回の事件は許されざるものであった。


 自分勝手な思い込みで普人に迷惑をかけ、結果的に他の人にも迷惑をかけることになり、その尻拭いを普人がすることによって彼に悪感情を持つ人間を増やした罪は重い。


 ただ、七海達も鬼ではない。


 ノエルがすっかり意気消沈して反省している様子は見るだけで分かった。その表情は嘘ではありえない程に憔悴し、とても後悔していることが窺える。


「しかし、今回はあくまで初犯。悔い改める機会を設ける。その一つとしてまず罰を与える。お兄ちゃんとの私的な接触を明日から一週間禁止する。二つ目に以下の内容を守ってもらう。第一に我儘でお兄ちゃんに迷惑を掛けない。これは絶対条件だ。第二に必要以上にお兄ちゃんにベタベタしない。第三にお兄ちゃんは空想上の存在ではなく、現実に存在している人間だ。ノエル・キャノンは勇者と言う存在に特別な感情をもっているようだが、お兄ちゃんをそれと同一視することは許さない。つまりお兄ちゃんという一人間ときちんと向き合うこと。第四に機密を漏らすな。こんなことは私でも分かることだ。以上のことを守り、我々が反省したと判断したら、まずは仮メンバーとしての加入を認める」


 そのため、七海達はお互いに顔を見合わせて、彼女に一度限りの温情を与えることにした。


「いいのデスよ!?」


 ノエルはまさか許してもらえる機会を与えてもらえるとは思わず、驚愕を貼り付けた顔をバッと勢いよく上げた。


「今回だけだ。二度目はない。次に問題を起こしたらノエル・キャノンの母国を敵に回したとしても私の従魔と共にノエル・キャノンを葬り去る。たとえそれがお兄ちゃんが望まない事だとしても」

『主の主に仇名すとなれば、我が炎をもって滅ぼしてみせようぞ!!』


 ツインテール仮面少女の目に憤怒の炎が灯ると、肩に乗っていた珍しい色をした手乗りインコが飛び上がり、炎の取りへと姿を変え、ノエルを威圧した。


「ひっ」


 ノエルは目の前にいる人間が自分が全く歯が立たない程膨大な魔力を発していたことに今更ながらに気付いた。自分よりも幼いであろう少女が放つ、その人間とも思えない魔力の大きさに、ノエルは思わず短い悲鳴をあげて仰け反る。


 しかし、魔力は目の前だけでなかった。


「ひっ」


 全方位からとげとげしい魔力が放たれたのである。


 ノエルは目の前だけでなく、この部屋にいる全員が自分など足元に及ばない、それどころか一人一人がSSSランクに匹敵する、いやそれ以上の、一人一人が国を相手取れるだけの戦力を有しているのだと否応なしに理解した。


 そして、当初の目的である日本で発せられた謎の魔力も、この中に居る人間の誰が放ったものではないか、と恐れて怯えながらもふと思うのであった。


「ちなみに私たちにはノエル・キャノンが世界中のどこに居ても監視できる力がある。くれぐれも対応を間違えない事だ」

「わ、分かったデスよ」


 ツインテール仮面少女は最後に釘を刺すように話すと、ノエルは怯えながらも首を縦に振った。


「これにて緊急女子会を閉会する」

『はっ』


 ツインテール仮面少女が閉会を宣言し、緊急女子会は終わりを迎えた。

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