第336話 連行

「私が困っている所を旅行にきていた勇者様が助けてくれたんです」

「どうやらそうみたいでして……俺としてはそんなものになった覚えはないんですが、アニメが好きなこの子は俺を勇者様と呼ぶようになったみたいです。ははははっ」


 戻った俺とノエルは明らかに何かあっただろうというのが丸わかりな雰囲気を醸し出して、先程質問した先輩に二人で苦笑いを浮かべながら弁明する。


 場は静まり返っており、全員の視線が痛かった。当然そんな状況では他の質問が出てくるわけもなく、そのままノエルの質問タイムは終わり、食事をすることになった。


「全く何をしてるんですか!?」

「申し訳ございませんでした!!」


 その後、ノエルが各学年のテーブルを回りながら寮生の皆と交流を持ち、徐々に雰囲気がなごやかなものに戻っていった。


 しかし、当たり前だけど歓迎会が終わった後で生徒会長にこっぴどく怒られる羽目になった。


 そりゃそうだよなぁ、主役を連れてった訳だし。その上、主役がなんだか意気消沈しているし。

 

 完全に祝い事に水を差した感じになってしまった。


 止めなければマズい状況だったとは言え、他にやりようはあったかもしれない。


「ラック~、今日はなぁ……」

「ウォンッ」


 俺はそんな風に考えながら、ラックに今日の出来事を話して聞かせ、モフモフして癒されながら眠りに着いた。


 次の日の放課後。


「天音、知っているとは思うけど、彼女はノエル・キャノンだ。ノエル、彼女はパーティメンバーの霜月天音だ」


 早速俺のパーティメンバーに紹介することになったので、ノエルを連れてまず天音と合流した。天音は一方的にそのやつれた顔を見てはいるけど、ノエルの方は意識を失って面識がない状態だからお互いを紹介する。


「ノエル・キャノンデス。よろしくデスよ!!」

「霜月天音よ。ふーん。大分元に戻っているみたいね。ただ、パーティメンバーとして認められるかは七海次第だから、そっちは頑張る事ね。どうやら普人君に迷惑かけたみたいじゃない。迷惑を掛けたことに関しては、人の事は言えないけど、現実と空想の区別はつけることね」


 ノエルが元気に挨拶したけど、天音が腕を組んで冷たく言い放つ。


 すでに昨日の出来事を把握しているらしい。


「ん」


 一体どうやって……と思ったら、シアがサムズアップして無表情のまま目をキラーンと光らせていた。


 シアの手には何やらスマホが握られていて、そこには俺とノエルの屋上での様子を映した動画が流れていて、おそらくそれをパーティメンバー達で共有したようだ。


 昨日のノエルは確かに行き過ぎた行為があったのは否めないので、それも仕方ない部分はある。


 ただ、パーティメンバーも七海の管理下に置かれていることに関しては一言モノ申したい気分だ。しかし、ちょっとそういう雰囲気でもなさそうなので黙っておく。


 それに天音も大概だった気がするけどな。


 出会ってすぐにダンジョン内で俺に殴り掛かってきたからな。最強のジャージがなければ大惨事だった。


 ジャージよ……。宝箱から出てきた瞬間、ガックリしていてすまない……。俺は何度も君に救われている……。


「申し訳ないデスよ……」

「ま、まぁ、天音もその辺りでな……」


 シュンとして涙目になるノエルに、流石に俺もいたたまれない気持ちになったので、間に入ってその場を収める。


「はぁ……仕方ないわね。でも、私なんてパーティメンバーでも甘い方。私も色々あったしね。ただ、七海はこと普人君の事に関しては甘くないわ。覚悟しておくことね」

「はいデスよ……」


 天音はため息を吐いて呆れた表情になって矛を収めると、これから待ち受けるであろう辛い現実を告げた。


 ノエルは更に小さくなった。


 俺達は落ち込んだノエルをそのまま連れて佐藤家を目指して歩いた。


 現状は影を操る力を持っている程度の認識か、はたまたその辺りのことは覚えてないかは分からないけど、ラックのことは現状伏せておくべきだと思う。


「ただいま~」

「お兄ちゃんおかえりぃ~!!」


 家に帰るなり、ドスンとなかなかの衝撃が俺の腹に襲い掛かった。それは妹の七海だった。


「よく俺が帰ってくるのが分かったな」

「ふっふっふっ。お兄ちゃんの匂いがしたからね。す~、くんかくんか」


 俺が七海を撫でで感心したら、そんなことを言う七海。


 俺って臭いのか?


 俺は自分で嗅いでみたけど、やっぱり自分じゃ分からなかった。


「こらこらそんなに嗅ぐな。それよりも早く家に上がらせてくれ」

「ふぁーい」


 いつまでも俺の体に顔を押し付けて匂いを嗅いでいる七海の頭をポンポンと撫でると、名残押しそうに七海は離れた。


「そういえば、零は来てるのか?」

「うん。時間は融通が利くから大丈夫みたい」


 急に呼び出したにも関わらず、零もすでに来ているらしい。後で礼を言っておかないとな。


「そっか。それじゃあ、また後で紹介することになると思うけど、彼女がノエル・キャノンさんだ」

「ノエル・キャノンデスよ……よろしくデスよ……」


 二度手間になるかもだけど、ここで一応七海にも紹介しておく。ノエルはすっかり意気消沈しながら自己紹介をした。


 大分後悔してきてるのかもしれない。


「ふーん。見た目は合格。ただ、ちょっと性格に問題があるみたいじゃない。なので緊急女子会を開催します!!ついて来なさい!!」

「え?え?」


 七海はそんなノエルを顎に手を当てて品定めをするように見つめたと思ったら、ノエルの手を引いて、まるで囚人のように家の中に連行されていった。


 ノエルは困惑して俺の方が見つめてくる。


「七海、一体どういう「お兄ちゃんは黙ってて!!あーちゃん、お姉ちゃんも行くよ!!」」

「あ、はい」


 俺は意味が分からないので声を掛けたんだけど、七海が有無を言わさぬ威圧感で言い放ったので俺は何も言えなくなった。


 シアと天音も七海の後についていって、俺だけそこに取り残される。


 残暑厳しい九月頭にも関わらず、冷たい風が吹いてきて俺の心身を震わせた。

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