第338話 執行猶予
「七海のやつ無茶やってなければいいけど。ズズズッ」
「まぁ大丈夫でしょ。それにそのノエルちゃんだっけ?ちょっとおいた過ぎるみたいだし、七海達任せておけばいいようにしてくれるわよ。ズズズッ」
「そんなもんかね。ズズズッ」
放置された俺はリビングに行って母さんとお茶を飲みながら雑談していた。
―トントントントンッ
母さんと三十分程雑談をしてお茶を飲んでいると、階段を降りてくる足音が耳に届く。どうやら話し合いは終わったらしい。
「七海、終わったのか?」
「うん、バッチリだよ!!これでお兄ちゃんに迷惑がかかることは今後ないはずだから安心してよね」
リビングに顔を出した七海に話しかけると、七海はピースをしてドヤ顔で答えた。
「何を言ったのか凄く気になるところだけど、七海がそういうなら信じるよ」
「さっすがお兄ちゃん。私のことよく分かってるじゃない」
七海を微笑ましく見つめて頭を撫でると、七海は腰に手を当てて自慢げに軽く仰け反る。
「そりゃそうだろ。可愛い妹のことなんだからな」
七海とは三つ離れている。物心がついた時からずっと見てきた。
この程度のこと分からないはずがないし、可愛い妹の言うことは正義だ。無条件で信用するに値する。
「全く褒めたって何も出ないんだからね!!」
七海は俺の言葉にクネクネと体を揺らして頬を赤らめる。褒められて嬉しいそうだ。その顔を見ていると俺まで嬉しくなってくるから不思議だ。
七海の後に続いてシア、天音、零が入ってきてテーブルの席に着いた。誕生日席まで使えば、一応八人までは座れるテーブルに六人が腰を下ろし、二つの誕生日席が空いた状態になる。
「ノエルはそこに座ったらどうだ?」
「は、はいデスよ」
一人所在なさげに佇むノエルに席を勧めると、彼女は恐る恐る席に腰を下ろした。
ここまで怯えるなんて一体何をやったんだか。
さっき皆の魔力がちょびっと立ち昇っていたような気がするけど、それが関係しているのかな。
まぁ俺が聞き出すのは野暮だろうから踏み込むのは止めておこう。
「それにしてもまさか本当に普人以外全員女の子パーティになるなんてね」
そう話を切り出したのは母さんだ。以前も家に初めて集まった際にこんな話をした覚えがある。
「俺はホントに何もしてないからな」
同じパーティになる時に俺から誘った人間って誰一人としていないだろ。
シアは俺が朱島ダンジョンで探索しているのを盾に俺とパーティを組むことを強要してきたのが始まりだし、天音はあっちから入りたいって言ってきたんだし、七海は妹だし、零はこっちも望んでいたこととはいえ、結果的に知り合いの俺達が良いからと声をかけてきたのは零だ。
そしてノエルに至っても、依頼で助けて矢面に立っていたのが俺で、その俺を勇者か何かと勝手に認識してあっちが押しかけてきたんだ。
本当に俺は何もしていない。
「そういう所があの人に似てるっていうのよ。勝手に女の子が集まってくるのよね。小さい頃はそんなことなかったはずなのに、一体いつからあんな風になったのかしら……」
「そんなこと言われても父さんの女性事情なんてしらないし。聞きたくもないよ」
「はぁ……それもそうね……」
父さんが生きていた頃のことを思い出しているのか、呆れたように言う母さんに、俺は何とも言えない表情を浮かべるしかなかった。母さんもそれが分かったのか、肩を竦めて軽くため息をはいた。
「あ、パーティメンバーの話だけど、キャノンさんは現状保留だから。これからの態度と行動次第で決定するから宜しくね!!」
七海が母さんの話を聞いて思い出したかのようにノエルの処遇を俺に伝える。
「本人も納得してるのか?」
「はいデスよ。今回は私が舞い上がり過ぎて本当に申し訳ありませんデスよ。ふ、普人さんには本当にご迷惑をかけたデスよ」
俺がノエルに視線を向けると、ノエルは申し訳なさそうに頭を下げて謝罪した。
「俺としては反省してくれたならいいけどな。それに無理をして呼び方を変えなくてもいい。呼びやすいように呼んでくれ」
呼び方を変えるように七海達が言ったのか、俺の名前を呼ぶのが物凄く言いづらそうだ。
見かねた俺は反省しているようだし、俺が一度了承したことでもあるので、今まで通り呼ぶように伝えた。
「え、えっと……」
ノエルは恐る恐る七海の方を見て反応を窺う。
「はぁ……全くお兄ちゃんは甘いんだから。お兄ちゃんがいいならそれでいいよ」
「分かったデスよ。ありがとデスよ」
七海はしょうがないなと言う表情をした後でノエルに許可を出し、ノエルは少し嬉しそうに力のない笑みを浮かべて頭を深く下げた。
どうやら完全に上下関係が出来てしまったようだ。
「はいはい、話はその辺にしてご飯にしましょ。皆も食べていきなさいね」
見るにみかねたらしい母さんが手を叩いて話を中断させた。
すでに準備の終えた料理を手早く盛り付け、それを素早く七海達が手伝ってテーブルに並べ、俺達は母さんの美味い料理を堪能することとなった。
「また明日な」
「ん」
「これまで本当に申し訳ありませんでしたデスよ」
他の連中を家まで送り届け、男子寮の前で二人に別れを告げると、ノエルは本当に反省した様子で俺に深々と亜頭を下げてきた。
「気にするな。とは言わないけど、これから気を付けてくれ。それで判断しよう」
「はい!!これからは迷惑にならないように気を付けるデスよ。それじゃあ、また明日」
俺は手のかかる妹をみるような眼でノエルを見つめて言うと、ノエルは敬礼のようなポーズをとって返事をしてからシアの後を追って女子寮の方に歩いていった。
「さて、どうなることやら……」
俺は二人の背中を見送った後、空を見上げた。そこには俺達を見守るように静かに月が輝いていた。
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