第314話 状況の把握

「ラック、聖女はどのあたりに居るか分かるか?」

「ウォンッ」


 俺はラックに地図を見せながら尋ねると、ラックは器用に少し北の地点に前足をタップする。思念も同時に送られてきたのではっきりと場所が分かった。


 どうやら北にある荒野のど真ん中にいるらしい。

 滅茶苦茶怪しいな。酷いことをされてないと良いんだけど……。


 可愛らしい女の子だったから、おかしなことをされていないか心配だ。


「皆、聖女の居る位置が分かった。これから俺達はラックの影に入って侵入し、彼女の状況を確認する」


 俺達はラックからの情報を受け取り、聖女の身柄が心配なのですぐに行動に移す。


「ミラは蝙蝠と共に空から偵察できるか?」

「うむ、任せるのじゃ!!」


―キーンッ


 ミラには話していたように上空から辺りを探ってもらう。ミラは頷いた後、耳鳴りのような音を奏でた。


 その直後、どこからともなく、蝙蝠の大群集まってきて、彼女自身もポンっと蝙蝠に変化して飛び去って行く。


 え?蝙蝠に変化できるの?

 ラックの影能力に対抗せずに、そっちを見せてくれたら普通に称賛したんだけど?


 俺は何とも言えない気持ちになった。


 とりあえず闇に紛れて一般人は気づかないだろうし、仮に探索者が気づいても見た目はただの蝙蝠だから何かされることはないはずだ。


「俺達も行こう」

『了解』


 ミラを見送ると、俺達もラックの影に沈み、荒野のど真ん中を目指して歩き出した。


「さて、どうやらあそこに聖女が捕らわれているらしいな」


 俺達が辿り着いたのは、簡易的なよくある金網の柵に覆われた場所だ。金網は見渡す限り、ずっと続いている。


 相当広い場所を囲っているんだな。


 もうすっかり日も落ちて暗いけど、探索者になったら夜目が効くようになったので結構見える。柵の中には小屋が一つあって、その先に広大な畑が広がっていた。


 他の皆も顔を出して柵の向こうを眺める。


「なにあれ?あの畑可笑しくない?」


 天音が柵の中を見るなり小さく呟く。


「何がおかしいの?」

「何がって、なんでこんな荒野にあんなに育った畑あるのよ。可笑しいでしょ」

「あぁ~、確かに言われてみればその通りかも」


 天音の呟きに七海が首を傾げると、天音が感じた違和感を述べ、七海は手をポンと叩いて返事をした。


 天音の言う通り、柵の中にある畑はどれも青々と育っていて、適度に熟した実を付けている。これは周りに畑以外の植物が見当たらないことからも異常であることが分かった。


 勿論一概には言えないけど、単純に考えれば、あの畑に聖女が関わっているという可能性が高い。


 おそらく聖女は、畑の作物を元気に育てられるレアな魔法を持っていていたり、それに準じるスキルを持っていたりするのだろう。下手したら畑自体の耕すことにも何か関わっているかもしれない。


「シア、ミラの状況はどんな感じだ?」

「ん。頭の中に連絡が来た。周りに特に不審な人間や装置などは見当たらない」 


 俺の質問にシアが答える。


 ミラと契約したことによって俺とラックのような繋がりが出来て脳内にテレパシーのようなもので会話できるようになったみたいだ。どうやら付近にはここを監視している人間はいないらしい。


「そうか。それは中々厄介そうだな」


 そうなると別な疑問が生まれてくる。


 通常、自身が攫った相手には監視をつけて逃げられないようにするはずだ。それをしていないということは、絶対脱走されない自信があるということ。


 攫ってきた連中が聖女の拘束できる何らかの道具を持っているか、何らかの弱みを握っているのかもしれないな。


 俺も探知能力を広げて確認する。


 柵の中には気配は一つ。ということは、おそらく聖女しかいない。


「ラック、人の気配はないな」

「ウォンッ」


 ラックの影魔によるチェックも通して問題ないという返事が返ってきた。


「空、探知、ラックのチェックで周りに人は居なさそうだということが分かった。実際に侵入するぞ!!」

『了解』


 俺達は影に潜り、柵を超えて小屋の中へと侵入を果たした。


 影の中から見える屋内はとても簡素な作りで物も何もほとんどない。必要最低限という感じだ。


 俺達は気配のする方に向かって進むとベッドの上に横たわる人物が見えた。俺達はその人物の様子を確認するため、近寄って壁に影を移動させて上からその人物を確認する。


「ひどい……」


 七海がその姿を見て言葉を漏らした通り、その人物は遠目で見ても写真とは似つかぬほどにやつれて憔悴しているようだ。頬がこけていて、目の下に隈を作り、浅い呼吸を繰り返している。


 一体どれだけ過酷なことをさせられているのか想像できない。


「あまり状況は良くないらしい。出来ればすぐに助けたいけど、監視がいないという状況は、勝手に連れて行くと良くない可能性がある。接触して情報を聞き出そう」

「そうね。この子には悪いけど起こして話を聞きましょう」


 俺達はベッドに横たわる少女が聖女であることを確認し、実際に話を聞くことにした。


「誰が話しかける?こういうのは同性の方がいいじゃないか?」

「うーん、そうねぇ。いや、ここは佐藤君にお願いするわ」

「え!?男じゃない方がいいでしょ」

「大丈夫よ。お願いね」

「お、おう」


 誰が話しかけるか相談したら、なぜか俺が話しかけることになった。あまり時間をかけるのは良くないので俺が話しかける。


「おい、起きてくれ!!」


 俺は少女を揺らす。


「ごめん……なさいです……」


 少女は嗚咽を漏らすように涙を一筋流して謝る少女。

 いったい何があったのか……。


「起きろ!!」


 俺はさらに強めに揺らした。


「ん……んん……」


 すると、少女が目を開く。


「ふぇ?勇者様?」


 少女は俺の顔を見るなりそんなことを呟いた。

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