第307話 隠し部屋
ブラン城内に侵入した俺達。影から出た俺達は、警備員などがいるかもしれないので注意しながら中を見学していく。
「これが中世のお城なんだねぇ」
七海は中世の生活が再現された居室を見回しながらぽつりと呟いた。営業時間が終わっているせいか、電灯が消えていて薄暗かったけど、まだ日が沈んでいないので見れないこともない。
「この頃、この辺りではこんな装備が使われていたのね。ダンジョンで見つかる武器や防具類なんかとよく似ているわ」
それに武器・甲冑・拷問機具などの展示物があり、博物館のような機能もあって、天音はそれらを見ながら感嘆の声を上げている。
俺は城内や展示物にエルフ達や中世の街並みとはまた違ったファンタジーを感じて滅茶苦茶興奮していた。
俺の中で想像でしかなかったモノが今回の旅で実物やそれに近しいものを見ることで、より鮮明に補完されたと言っていいと思う。
今後ファンタジー作品を読んだ時は、今までよりも具体的に想像できるようになって、もっと作品にのめり込めるんじゃないかとワクワクしてきた。
「ウォンッ」
俺達が一通り散策し終えると、ラックが俺の裾を引きながら小さく鳴く。
警備員らしき人物は見つからなかったけど、気づかれたりしないように配慮してくれてるらしい。
「ん?ラックどうしたんだ?」
俺はラックに尋ねた。
「ウォンッ」
ラックはついてこいばかりに先頭を歩き出す。
何か見つけたのか?
「どうやらラックが付いて来てほしいらしいぞ」
「分かった!!」
俺が皆の方を振りかえって伝えると、七海が代表して返事をして皆で頷き合い、俺の後ろをついてきた。ラックはお尻をフリフリしながら俺達を先導するように進んでいく。
「ウォンッ」
そしてとある部屋の一角で振り向いてお座りを一度だけ鳴いた。
ここが目的の場所らしい。
一見何の変哲もない部屋だけどな。
俺はダンジョンや探索者と関わる以外では基本的に抑えている探索者としての力を解放してみる。
「なるほど、そういうことか」
すると、俺はラックが意図することが理解できた。
「どういうことなのかしら?」
俺のつぶやきを聞いた零が俺に尋ねる。
「ああ、どうやらこの部屋には隠された道があるみたいだ。ダンジョンじゃないから力を使っていなくて気付けなかったけど、意識すればよく分かるぞ」
「あ、ホントね!!ラックがお座りしている少し奥の床下に空洞があるみたい」
俺がラックが言いたいことを説明すると、すぐに研ぎ澄ました感覚で探った天音が驚嘆の声を上げた。
「ラックちゃん、隠し通路を見つけるなんて偉い!!」
「ウォンッ」
七海がすぐにラックに飛びついてワシャワシャと撫でまわすと、ラックは誇らしげに胸を張って鳴いた。
尻尾もブンブンと振っているので褒められて嬉しいらしい。
「それじゃあ、早速各通路に入ってみよう」
「そうだね!!」
俺は感覚をダンジョンモードに研ぎ澄ませたのでどこに隠し扉を開く仕掛けがあるのか丸わかりだ。
「あった」
俺はその感覚に従って室内の壁を調べると、一見して他の壁と見分けがつかないけど、一部開閉できるようになっていて、その中には魔法陣らしきものが描いてあった。
俺は魔力を流してみた。
―シーンッ
俺の魔力では何の反応もなかった。
「皆、それぞれ魔力を流してくれないか?」
『了解』
俺の願いに応じてそれぞれ魔力を送ってくれることなった。
―ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
ただ、全員意気込んでいたが、最初の一人目である七海が魔力を注いだ時点で床が自動的に動き、真っ暗な穴が姿を現す。いかにも奥には何かありますよと言わんばかりの光景だ。
「凄い」
「一体奥に何があるのかな」
「楽しみね」
出鼻を挫かれた三人だったけど、それ以上に目の前の隠し通路が現れたことに驚き、先が気になるらしい。
「それじゃあ、早速奥に進んでいこう。危ないかもしれないから俺から行こう」
今すぐに飛び出しそうな勢いなので、俺は牽制しながら隠し通路へと足を踏み入れた。入り口は非常に狭くて人一人が通るのがやっとだ。でも一、二分程歩くと道幅が広い場所に出る。
「なんていうか地下墓地みたいね」
確かに空気と言うか雰囲気と言うか、匂いも含めてなんだか墓地を思わせるような作りになっていた。天井にはなんらかの絵が描かれていて、そこにはいかにもこの城らしいモノが描かれている。
「ドラキュラ?」
誰かが呟いた通り、天井に描かれているのはドラキュラのような見た目の生き物と若々しい女性が向き合っている様子だった。
「もしかしたら、そのドラキュラがこの先にいるのかもしれないな」
「え!?ちょっとやめてよお兄ちゃん!!」
俺が冗談めかして言ったんだけど、七海が俺の言葉を真に受けて怖がってしまった。
いかんいかん。妹を怖がらせてどうするんだ。
七海は体を震わせながら俺の体にしがみついてきた。
「大丈夫だ七海。ドラキュラが出てきても俺が退治してやるからな」
「絶対だからね!!」
七海の頭をなでながら安心させるように述べると、七海は真剣な表情で懇願してくる。
「任せておけ」
俺はそう言ってニカッと笑った。
それからさらに坂道を下っていくと、そこに広がっていたのはドーム型の空間。その真ん中には絶対何かあるに違いないと言わんばかりに棺が一つぽつんと安置されていた。
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