第306話 城
聖女の行方はラックの影魔に任せるとして、俺達は俺達でダンジョンの調査と旅行を続けた。独国に戻ってきた俺達は一通りの観光地を巡り、大満足だ。
「これこそ中世ヨーロッパ風ファンタジーって感じの街並みだよな!!」
特にローテンブルクの街並みを見た時、これこそが俺のイメージするファンタジー世界の街並みそのものが存在していて心が震えた。
ノイシュヴァンシュタイン城は超有名な作品とあるホムンクルス的なキャラクターの実家の城みたいだったし、ケルン大聖堂とかファンタジーの教会の本部みたいな感じで感動で言葉を失った。
その日は、独国のソーセージ料理を楽しんで、零が良く泊まっているホテルの部屋を取った。七海は悲しそうにこっちを見ていたけど、男女別室でとることになって、今日は一人だった。
「たまにはラックと二人だけってのもいいよな」
「ウォンッ」
思う存分ラックをモフモフしてからゆっくりと体を休めた。
あくる日。
俺達は次のダンジョンへと転移し、外に出る。その国はルーマニアだった。
「やっぱりルーマニアと言えばドラキュラよね」
天音がそんなことを言う。
「確かにとても有名な話ね。ブラン城には私も行ってみたいな」
「私もいってみたーい!!」
「ん」
他の三人もどうやらとても興味があるらしく、俺をじっと見つめてきた。
「それじゃあ、ブラン城は最後に取っておくとして、とりあえず他の所を回るか」
「やったぁ!!」
俺がブラン城も行く場所として決めると、七海が飛び跳ねて喜んだ。
それから俺たちは、観光地を回り、夕暮れが綺麗な頃にブラン城にやっていた。
「え?今なんて?」
「だから、もう営業時間は終わりましたよ」
『えぇええええええええええええええ!?』
俺達は入場券の購入場所で衝撃の事実を突きつけられた俺達はあまりの驚きで大声で叫んでしまった。
通りで周りに人が居ないわけだ。
もう見学できる時間がおわってたんじゃあなぁ。
『……』
彼女たちを見るととても楽しみにしていただけに意気消沈している。明日には次の国に行かないとい時間的にもマズい。
もうこうなったら本当はやっちゃダメなんだけど。
「わかりました。それじゃあ俺達は帰りますね」
「明日は九時から営業してるからね」
「ありがとうございます。ほら、皆行くぞ」
俺は受付の人に印象付けるために挨拶をしてその場を後にして皆にも声をかけた。すると、彼女たちはとぼとぼと俺の後をついてくる。
「あれ?ここは?」
暫く歩いているとようやく可笑しなことに気付いた零が声をあげて辺りを見回し、他のメンバーも辺りを見回した。
「暗くて人気のない場所……まさか!?」
「エッチなことする?」
天音が自分の体を抱くようにして俺から背けるようなポーズをとる。そのポーズをみたシアが手をポンと叩き、アホ毛をビックリマークに変えて首を傾げた。
「しないからな!!全く二人は一体俺をどういうふうに見てるんだよ……。俺の方からそんなことをしようとしたことはないだろうに……」
俺は突っ込んだ後、一人でブツブツと呟きながら肩をがっくりと落とした。
「それで、冗談はさておきここに皆を連れてきてどうするつもりなの?まさか本当に?」
ニヤニヤしながら俺をからかうように尋ねる天音。
全く……こいつは……。
「それはさっき否定したばかりだろ。そんなことより、ブラン城の中を見たいか?」
「そりゃあ見たいけど、営業時間が終わっちゃったんだったらしょうがないじゃない」
「だから、本当は駄目なんだけど、ひっそりと侵入しないかって話だ」
俺の質問に残念そうに答える天音に、俺は肩を竦めて片手を軽く上げて提案する。
「あぁ~そういうことか。たしかにそれは駄目なことね。零はどう?」
「うーん、高ランク探索者として、大人としてそういうことは絶対にやめさせるべきなんだけど、この機会を逃すと次いつになるかと思うと、決意が揺らぐわ……」
天音はルール破り上等と言った様子だが、零は導く側としての良心の呵責と戦っているようだ。
「ふふふふっ。零、いいことを教えてあげる」
「何かしら?」
そんな零に天音がニヤニヤと笑いながら会話に割り込むと、零が不思議そうに首を傾げた。
「バレなければ、それが真実なのよ!!」
ババーンッという効果音がふさわしい程のドヤ顔で天音は言い放つ。
「~~!?……分かったわ。今回だけ、今回だけは見なかったことにしましょう。どのみち朱島ダンジョンを無断で探索している時点でダメなんだけどね」
その言葉に衝撃を受けた零は少しよろめいた後、顔を上げて天音の言葉を受け入れてしまった。
それでいいのか零……。
俺としては願ったり叶ったりだけど。良い子の皆は絶対に真似しちゃ駄目だぞ?
「零が融通が利かない堅物人間じゃなくて良かったわ」
「私はそれ程堅物でもないと思うんだけど」
天音が笑って言うと、零は不服そうに呟いた。
「まぁ話が付いたところで、早速侵入しよう」
「わぁーい!!」
「ん」
零が渋々了承してくれたので、俺達はラックの影に潜って監視をかいくぐってブラン城の中に侵入を果たした。
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