第305話 捜索開始
俺達はラックの影転移で日本の空港にやってきた。
「ラックちゃんが便利になり過ぎて手離せないねぇ」
「ホントにな」
俺と七海はしみじみと呟く。
アメリカ大陸だけは直接転移するには遠すぎるけど、ユーラシア大陸のロシア経由で行けば転移で渡ることができるので、実質ラックに行けない所はなくなった。
一回の影転移に掛かる時間は数秒。それを十回繰り返しても数分。数千キロの移動としては誤差みたいなものだ。
これから転移距離が伸びれば直接転移することも可能になるだろうから、その時には世界中どこでも一発の転移で行けるようになると思う。その時が楽しみだな。
「それじゃあ、聖女の手荷物を見せてもらいに行こうか」
「ええ、そうね」
俺達は空港内に足を踏み入れた。
「すみません、責任者にお会いしたいんですが、可能でしょうか?」
「え、あ、すみません。少々お待ちください」
零が受付にギルドカードを提示しながら話しかけると、少し慌てて内線で連絡を入れた。
「お待たせしました。私が責任者の内藤と申します。私に話があるとか?」
数分後に現れたのは五十代くらいの男性。白髪交じりでガッシリとした体型をしている。
「こんにちは。ここで話すには少々込み入った内容なので、どこか人の居ない場所の方が望ましいのですが」
「分かりました。こちらへどうぞ」
流石に極秘依頼なのにこんな公の場で話すわけにもいかないので別室へ移動することになった。
「ここは盗聴対策もしておりますし、私以外が聞くこともありませんのでお話を伺えますか?」
「分かりました。聖女、と言えばお分かりになるでしょうか?」
「ええ、はい。そういうことでしたか。それでは彼女のお荷物をお持ちしますので少々お待ちいただけますか?」
「ありがとうございます」
応接室のような場所にあんないされた俺達は一度全員が腰を下ろしたけど、零の言葉を聞いた内藤さんが、すぐに俺達が聖女の行方を追っているという言葉の意味に気付いて一度部屋を出て、大きなキャリーケースをもって戻ってきた。
「こちらが聖女様のお荷物になります」
「ありがとうございます。拝見します」
零は立ち上がってキャリーケースを開ける。
「これは……日本のアニメグッズ?」
俺達も立ち上がってケースを囲んで中を覗くと、旅行に必要な荷物の他に大量の日本のアニメグッズが押し込められていた。
「聖女はジャパニメーションが大変お好きなようね」
「なかなか親近感を持てそうな感じがするな」
俺としては未だに聖女の性格とか全然知らないので、凄くお堅い感じの人なのかと思っていたけど、荷物の中身を見る限り、そうではないようなのでかなり親近感が湧いてくる。
「ああ、これなんて『モブリンスレイヤー』じゃないか!!俺もアレ好きなんだよなぁ」
零が荷物を漁っていると出てくるわ出てくるわ。しかも中々俺と趣味がかぶっていて、尚更俺は聖女とは仲良くやれそうな気がしてきた。
「どうだ?」
「ウォンッ」
手荷物を囲みながらひっそりとラックに匂いをかがせていた俺はラックに小さく確認を取ると、俺にだけ聞こえるような小さな鳴き声で覚えたと返事をする。
「零」
「分かったわ」
まだ荷物をあれこれ調べていた零だったけど、俺の呼びかけに視線を合わせ、その意図を理解した彼女は頷いた。
「ありがとうございました。参考になりました」
「こちらこそお役に立てれば幸いです。一日も早く聖女様を見つけてあげてください」
「分かりました」
荷物を元に戻して立ち上がり内藤さんに感謝の言葉を述べる零。内藤さんはにっこり笑って頭を深々と下げた。
彼としても色々思う所があるんだろうなぁ。
俺達は空港を後にして、再び独国へと舞い戻った。
「それじゃあ、ラック。この写真の人物をこの辺りの国を中心に探してみてくれ」
俺はラックに聖女の写真と世界地図を見せながら思念を併用して指示を出す。
「ウォンッ」
暫く写真と地図を眺めていたラックは、俺の顔を見て元気よく返事をして任せろと鳴いた。
「ヨシヨシ。頼んだぞ」
俺はラックの顔をワシャワシャと撫でた。
「これで何か手掛かりがつかめるといいんだけど」
「ラックの影魔がかなり沢山いるとはいえ、世界の総人口に比べれば微々たるものだからな。それを考えると、探すのにもうしばらくかかると思う」
ラックとのやり取りを見守っていた零が期待していそうな声色で呟いたので、立ち上がって一応念を押しておく。
数十億という数の人間が住んでいる大地を、数百万の影魔で探すのだから数が多く見えてもすぐに見つかるような数じゃない。
勿論随時影魔の数を増やしているからそのうち見つかるとは思うけどな。
「まぁ、ほとんど何もない状態で探すよりは圧倒的に速いはずだから無事であることを祈りましょう」
「そうだな」
零が俺の言葉に軽く空を見上げて遠い目をして呟くので俺は頷いた。
「これからどうする?零も情報集めに動くか?」
「いえ、おそらく何も情報がない状態で動くよりも、ラックに任せておいて、私たちは引き続きダンジョンの方を探っていた方が効率的だと思うわ」
「分かった」
零の言葉に従い、俺達は情報が集まるまではこれまで通りの調査旅行を行うことになった。
「ラックちゃん、モフモフ~」
「モフモフ」
俺達の傍らでは七海とシアがラックと戯れ始めていた。
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