第304話 聖女の探し方

「皆ちょっといいか?」

「うん?どうしたの?お兄ちゃん」


 ハンターズギルドから俺は皆を呼び止める。そんな俺を七海が不思議そうに首を傾げて見上げた。


「ちょっと皆に話したいことがあるんだ。ちょっと人目がなさそうなところに移動して転移してもいいか?」

「もっちろん!!」

「ん」

「オッケーよ」

「構わないわ」


 俺が考えていたことを話したいと思って提案すると、皆笑顔で答えてくれたので、俺達はひっそりと人気のない場所に移動し、誰も見ていないのを目と感覚で確認してから転移した。


 視界が切り替わった先は、深い森の中だった。全く手入れされておらず、人の手が及んでいない程に森の奥の方だということが分かる。


 ここなら邪魔も入らないし、聞き耳を立てられることもなさそうだからいいか。


「それで話って何かかしら?ハンターズギルドから出てすぐに移動してきたってことは聖女が関係しているの?」


 辺りを確認して人も敵の気配もないことを確認し終えたらしい零が先頭をきって俺に尋ねた。


「ああ、そうだ。俺なら聖女の行方を探せるんじゃないかと思ってな?」

「え!?ホント!?」


 俺の返事に天音が驚いて可笑しな声を上げる。


「正確にはラックが、だけどな」

「クゥン?」


 天音の声に答えるように俺は頷いてラックの方を見る。ラックは不思議そうに俺の顔を見て首を傾げた。


「ああ、そういうことか。さっすがお兄ちゃん!!こういう時のために今世界中にラックの影魔を散らばらせてたんだね?」

「ま、まぁな!!」


 七海の称賛とそのキラキラした目に違うとは言えなくなって思わず冷や汗をかきながらドヤ顔で胸を張った。


 妹の前ではカッコイイお兄ちゃんでありたいんだから仕方ないじゃない!!


「それで、影魔は今も数を増やしていて、世界中の影魔の数を合わせるととんでもない数になっていると思う」

「その影魔たちに聖女を探せれば見つかるんじゃないかってことね?」

「そういうことだな」


 俺が妹の前で良い格好をした後で話を進めると、零が俺に確認するように問いかけてきたので同意するように首を縦に振った。


「ああ。通りで聖女の顔写真とか身につけてる物とかを欲しがっていると思った。てっきり聖女の可愛らしさに一目惚れしてストーカーまがいの変態になったのかと思ったわよ」

「そんなわけあるか!!」


 天音が突然腑に落ちたと言った顔で何を言うかと思えば、さっきまで俺が変態だと思っていたとは、大変納得できない評価だ。


 普段は胸とかに目がいったりしないというのに。何て失礼な。


 思わずツッコミを入れてしまった。


「顔写真は後でラックに伝える時に曖昧な記憶よりも明確に記録された媒体があった方が良いと思ったからだし、聖女が身につけていた物に関しては臭いが付いてれば、そっちの方面からも探せるかと思ったからだ。変な勘違いはしないでくれ」

「普人君は奥手だもんね。ごめんごめん」


 俺が説明したら、なんだか釈然としない天音から釈然としない返事が返ってきた。


 別に奥手と言う訳じゃないと思うけどな。

 やはり付き合うとなったら、先の事まで考えないといけないからきちんと考えた上で答えを出したいというだけだ。


「それで、ラックに探してもらうのは良いとして、顔写真とは別に匂いが付いた品物が欲しいということね?」


 俺が別の事で思考をしていると、零が俺の考えを代弁してくれた。


「そうだな。調査はいったん中断して一度日本に戻って荷物から何か借りられればいいな。最悪俺だけで行ってくるし」

「バカね。女性の荷物を男に預けるわけないでしょ」


 皆について着てもらうのは悪いと思って俺だけで行こうと思ったけど、天音が当然のことを言ってくれた。おかげで変質者のレッテルを貼られるは免れたのであった。


 それはそうと、そもそも他人の俺達が預かることが可能なのだろうか。

 その辺りは零の権力とアグニスからの紹介状でどうにかなるか。


 さらなる疑問が思い浮かんだけど、零ならなんとかしてくれると考えるのを止めた。


「そりゃあそうか。ラック、ここからここまで転移は可能か?」

「ウォンッ」


 そこで話を変えてラックに韓国の端から、博多の辺りまで転移できるかと聞いたところ問題ないという返事が返ってきた。


 おお、これで問題なく日本に帰ることが出来ることが分かったな。


「そうか!!回数はどうだ?」

「ウォウォンッ」

「おお凄い!!すでに六十回いけるか。それなら今日中にここまで戻って来れそうだな。だったら一度皆で一緒に帰るか?」


 回数を尋ねると、いつの間にかもう一日六十回は行けるらしい。


 このくらい使えれば、ダンジョンの転移罠と併用して今いる場所まで問題なく戻って来れそうなことが分かったので、全員での一時帰国を提案する。


「時間かからずに戻って来れるならそうしようよ」

「そうね。それが出来るならそれが一番いいと思うわ」

「分かった。早速日本に戻ろう」

『了解』


 俺達はラックの影魔を経由して聖女の荷物があるであろう日本の空港を目指して転移で移動をした。

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