第303話 手掛かり

「それで?聖女がどこに攫われたかの手掛かりは分かっているのかしら?」


 零がアグネスに尋ねる。


 仕事を引き受けることになった俺達だけど、なんの手掛かりもなし、と言われたら探すのはお手上げだ。


「そうね。今分かっているのは、どこで攫われたかと、攫われた理由の推測。そして、攫われたおおよその方角だけだ」


 質問に対するアグネスの返事は、ほとんど手掛かりはないと言っているような気がしないでもない。


「具体的には?」

「エジプトから英国への飛行機が飛行場についてからハイジャックされて、聖女の身柄を要求され、彼女は大人しく従ったらしい。そのおかげでそれ以外の乗客に被害はなし。それで彼女が攫われた理由だが、彼女エジプトで派手に魔法を使ったらしい。おそらくそれに目を付けられたのだと考えられる。そして最後に、彼女を乗せた飛行機が向かった方角は、航路的に中東方面ではないかということだ」


 つまり、聖女は何らかの組織にその魔法を目を付けられ、英国から中東方面に攫われたということしか手掛かりがないということか。


 中東方面というだけで中東だという確かな証拠もない当たり、探すのは難航しそうだ。


「なるほどね。それはなかなか難しいわね。せめてどこの国かっていうのが分かれば探しようもあるのだけど、それだと虱潰ししかないわ」

「そうなんだ。他にも信頼できて高ランクな奴には声を掛けているが、未だに有益な情報は得られていない」


 二人ともどうやらお手上げといった様子だ。


 でも虱潰しか……。

 あ、待てよ?意外とどうにかなるかもしれない。

 でも、零はともかくアグネスにラックの力を明かすのはためらわれるので、ここから出たら提案してみるか。

 そのためにも色々情報が必要だ。


 まずは……。


「あの~、ちょっと質問してもいいですか?」

「ああ、聞いてくれ」

「それでその、聖女?って誰なんですか?」


 俺は聖女という人物を知らなかったので挙手をして尋ねた。


 ファンタジー作品において、教会的な組織の中で超重要なポストであることが高い聖女ではあるけど、こっちの世界の聖女は一体どこの誰なんだろうか。


『はっ?』


 しかし、俺が質問をした途端、部屋の空気が凍り付いた。


 え、一体どうしたんだ?


「はぁ~、お兄ちゃん……」

「ふーくん……」

「普人君、それはちょっと……」

「常識がないとは思っていたけど、それはないわ佐藤君……」


 何故か四人からとんでもなく呆れて冷ややかな視線を送ってくる。


 え!?マジで聖女ってまさかそんなに有名人なの?


「ほう。まさか探索者になって、聖女を知らない者がいるとはな。私は逆に興味深い」


 アグネスは皆とは別の意味で俺を見つめる。


 滅茶苦茶恥ずかしいので勘弁してください!!


「そ、それで?結局聖女ってどんな人なんですか?」

「はぁ~、まぁいいわ。聖女っていうのはレトキア公国の探索者で、回復魔法において他に類を見ない程の才能を持っている人物よ。ほとんど死んでいるような状態からでも蘇生できたり、今の医学で治せないような病気を治したりできるらしいわ。欠損するほどの大けがもまるで怪我なんてなかったように治せるそうよ。普通なら手足が生えたりしないんだけどね。だから世界共通の探索者ランクはBランクだけど、その回復能力から国内ではSランク、SSランクと言っても過言でもない待遇を受けているの。他国でも似たような待遇で招くところもあるわ。その能力ゆえに世界中で彼女の力を借りたいと願っている人物はかなり沢山いるはずよ」


 俺が恥ずかしさを抑えて再度尋ねたら、零が思いきりため息を吐いて説明してくれた。


 その話を聞くと確かに聖女と呼ばれるにふさわしい力を持っているらしい。それほどの力を持っているなら日常的に狙われたり、護衛なんかが居てもおかしくはなさそうだけど、何か不測の事態があったのかもしれないな。


「それは凄い人なんですね。それでその人の顔とか分かったりしますか?それから彼女が身につけていた物とか彼女ゆかりの品とかあったら見せてもらいたいんですけど」

「ん?そうだな、聖女の写真に関しては、あまり出回っていないが、ギルドでは誰しも証明写真をとるからな。少し待て。それと、今回聖女は日本に行く予定だったらしいんだが、その際の荷物は日本の空港に届いていて、そこで預かっているからそこにいけば見せてもらえるかもしれない。おっとこれだこれ」


 アグネスは写真と荷物についての話をしながらスマホを操作して、お目当てのページを開くことが出来たらしく、俺にスマホの画面を見せてきた。


 そこには確かに聖女と謂われてもおかしくないような美少女が映し出されている。


「この写真をカメラで撮らせてもらっても?」

「本当はダメなんだが、零の専用携帯ならいいだろう」


 出来ればこの顔写真はぜひとも持っておきたいのでアグネスに確認をとると、零ならいいと言う。


 探索者としてお仕事用のスマホを持っているのか。

 そっちなら情報が漏れないように対策などがされているのかもしれない。

 それなら安心だ。


「分かりました。零お願いできるか?」

「分かったわ」


 俺は零にお願いしてスマホで写真を撮ってもらった。


 これであとは荷物だけだな。


 俺は考えていることを実行するための材料がそろって内心ほくそ笑む。


「それじゃあ、あまり期待しないで待っててね」

「分かっている。ただ、藁にも縋る思いでな。何か分かったら教えてくれ」

「了解」


 それから数十分程雑談をした俺達は、時間のこともあるのでハンターズギルドを後にした。

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