第308話 棺の中身
「あれ、絶対怪しいわよね」
「本当にね」
零と天音がお互いに頷きあう。
二人が言うように確かに何かあるのは間違いない。なぜなら俺の探知に微かな反応があるからだ。
「どうする?ここまで来たけど、近づくのは止めておくか?」
敢えて危険に飛び込む必要もないし、ブラン城自体は堪能できたからここで帰る事を選んでも俺は一向に構わない。
「いやいや、あそこまで怪しいのに中も見ずに帰るとかできないでしょ!!」
しかしやはりと言うべきか、天音には中を見ずに帰るという選択肢はなかったようだ。
「分かった分かった。注意して見に行こう」
俺達はゆっくりと棺に近づいた。
「見た目は普通の棺っぽいわね」
天音が棺の傍にやってくると呟く。俺達は棺の周囲に集まり、七海は俺の後ろにくっついて恐る恐る顔を少しだけ出して様子を窺っている。
幽霊系が苦手な七海。ダンジョンで出てきた吸血鬼は怖くなかったようだけど、現実の話はまた別問題のようだ、
「いえ、この棺おかしいわ。全く劣化していないし、汚れてさえもいないもの」
「確かにな」
零が棺に顔を近づけて、嫁をいびる姑のように棺を指でなぞると、その指にはホコリひとつついていなかった。俺もそのおかしさに気付き、同意する。
「誰が開ける?」
シアが首を傾げて俺達全員に問いかける。
「私が開けるわ!!」
「いえいえ、ここは私が!!」
「ん、私」
なぜか七海以外の三人がこぞって挙手して立候補した。
そんなに自分で開けたいのか!?
俺は三人の行動に困惑する。
しかし、エルフ同様、この棺にもなんらかの魔法的な何かがかかっていることは間違いない。
「いやいや、危ないから俺が開けるよ」
『どうぞどうぞ』
何があるか分からないから俺も挙手したら、まるでお約束とでも言いたげな表情で皆で譲られてしまった。
一体何がしたかったんだ?
「はぁ……よく分からないけど分かった。七海は離れてろ」
「うん」
俺は用心のために七海を後ろに下げる。
―ギギギィイイイイイッ
俺が蓋を持ち上げると、油がさされていない扉のような音を響かせてゆっくりと開いた。
蓋は完全に外れるタイプではなく、扉のように蝶番で止められているタイプで、一定位置まで開けると、そのまま開けたままに出来るようになっているようだ。
「え!?」
「これって……」
「まさか……」
「女の子?」
全て開けて中身を見ると周りから驚きの声が上がる。
「す~……す~……zzz」
そこに入っていたのはどう見ても女の子でしかなかったからだ。しかも七海よりも小さいので小学生くらいだろうか。
心地よさそうに寝息を立ててスヤスヤと眠っていた。
「これって迷子か?」
「こんな隠し部屋に迷子は無いでしょ」
現実逃避気味に呟いたら天音に即否定されて悲しい。
「それじゃあ何だってんだ?」
「まず間違いなく、普通の女の子ってことはないでしょうね」
俺の疑問に零が答えた。
まぁこんな所で魔法的な何かが掛かった棺に入った女の子が普通であるはずはないか。
「それで、どうする?このまま放置するって訳にもいかないよな」
「そうね。見つけてしまった以上、保護してどこかに預けるとかした方がいいと思うわ」
この子の処遇を相談すると、零が連れて行くべきだと主張する。
零の言う通り、こんな小さな女の子をこのまま放置する訳にもいかないよなぁ。
ただし、届け出るにしても問題がある。
「しっかしなぁ。俺達は侵入している身だから上手く説明できないんだよなぁ」
「そこはダンジョンで見つけたとでもすればいいわ」
「それもそっか」
しかし、俺が思いついた問題はあっという間に解決されてしまった。
ダンジョン内は何が起こるか分からない場所。こんな幼女が保護されてもおかしくはない。適当なダンジョンに影に潜って忍び込み、女の子を連れて出てくれば、あら簡単。ダンジョン内で女の子を保護したという状況が出来上がりましたとさ。
ということに出来るということだ。
「それにしてもこの子全く起きないな」
「ちょっとゆすって見てよ、お兄ちゃん」
幽霊じゃなさそうだと感じた七海が俺の影から覗き見しながら俺に頼む。
「分かったよ。おーい、起きろ。朝だぞ」
俺は女の子を軽く揺さぶりながら声をかける。
「す~……す~……zzz」
しかし、全く反応示す様子がない。
「ご飯だぞ!!起きろ!!」
「す~……す~……zzz」
少し強めに揺さぶってみたけど、それも効果がなかった。
一体どうなっているんだ?
何か特別な条件を満たさないと起きないとか?
「あら?ここに文章が書いてあるわ。『口に血を捧げよ』って書いてあるようね」
俺の考えるように零が棺の裏に書いてあった文章を読み上げる。
「これ絶対捧げたらなんらかの契約が成立するやつでしょ」
天音が俺の気持ちを代弁するように呟く。
絶対そうなる気がする。
「誰がこのフラグに挑むんだ?」
『……』
俺の質問に誰もが沈黙した。
「私の妹にする」
しかし、その空気を破ったのは以外にもシアだった。
「妹?」
「ん。ななみんみたいな妹欲しかった。髪の色も一緒。丁度いい」
七海がシアの言葉に首を傾げると、シアがいつもより長い言葉で話した。
確かに棺に寝ている女の子はシアと似たような髪の色を持ち、面立ちも多少シアに似ていると言えなくもない。姉妹と言われれば信じる人も多いかもしれない。
「なるほどな。シアが納得しているなら俺は問題ないぞ。ただ起きるだけかもしれないしな」
「私も!!」
「私もオッケーよ」
「私も何も言うことはないわ」
シアが本気でそう思っていることはアホ毛を見れば一目瞭然なので、俺達は全く反対することはなかった。
顔も少しだけ嬉しそうにしているしな。
「ん。じゃあ起こす」
「ああ」
シアは少しだけ指の先を切って、仰向けに寝ている女の子の口元に血を一滴垂らした。
「ん……んん……」
女の子はゆっくりと瞼を開いて、上半身を起こす。
そして一言。
「お主が我の新しい契約主か?」
なぜかその顔は俺の方を向いていた。
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