第302話 報告と極秘依頼
―コンコンコンコンッ
「お先に失礼します」
案内してくれた女性職員が扉を開け、応接室に俺達を招き入れた。
「そちらのソファーにお掛けになってお待ちください。ボスはすぐにやってきますので少々をお待ちください」
俺達に奥の方の席を勧めると、職員は入り口の付近に立っている。
―コンコンコンコンッ
「はい」
「私だ」
「どうぞ」
ものの数分もしない内に扉がノックされて女性職員が対応し、扉を開けた。
中に入ってきたのはタイトなスーツに身を包んだブロンドヘア―の女性。如何にも仕事が出来そうな雰囲気と自信にあふれた身のこなしをしている。
その女性はツカツカとこちらにやってきて、自分の席に腰を下ろすことなく、俺達の前にやってきた。
かなり近づいてきた頃にその意図を理解した零が立ち上がり、彼女の前に立つ。
「久しぶりだな、レイ。会えてうれしいよ」
「ええ、久しぶりね。私も嬉しいわ」
二人はお互いにハグをして再会を喜び合った。
どうやら二人は結構仲がいい間柄らしい。
「こっちへは仕事で?」
「仕事半分プライベート半分と言ったところかしら。ダンジョンの失踪事件についてはすでに情報は来ていると思うけど、あの転移罠について調べながら旅行も兼ねているのよ」
ハグし終えると、二人はそのまま少し話し出す。
「ああ。日本から連絡が回ってきていたな。あれが転移罠の仕業だったなんて驚いたよ。それでそっちの子達が……」
「ええ。今回の協力者達ね。歳は若いけど、実力は私以上の子もいるし、転移罠が今回の事件の原因だった見つけたのも彼らだからね。甘く見ない方が良いわ」
俺たち品定めするように見下ろすアグネス。その様子を見ていた零は牽制するように言葉を紡ぐ。
「ふーん、そうなのか。私はアグネスだ。このハンターズギルドの支部長を務めている。よろしくな」
「佐藤普人です。よろしくお願いします」
「佐藤七海です。よろしくお願いします!!」
「葛城アレクシア。よろしく」
「霜月天音です。よろしくお願いしますね」
彼女はこちらに向き直って挨拶をするので、俺達も立ち上がって自己紹介をして握手を交わした。
「そういえば、失礼ですが、零とはどのような関係なんですか?」
「ん?まだ聞いてなかったのか。友達だ。私は学生時代日本に留学していた。その頃に零と出会ったって訳だ」
「なるほど。通りで仲が良さそうなわけです」
俺が気になったことを尋ねると、アグネスは微笑みながら答えた。
「ふふふっ。零とは学生時代に母国語で会話が出来る数少ない人物だったから仲良くなったんだ」
「ふふふっ。そうね、ドイツ語が分かったのは当時私だけで、お世話係をお願いされて一緒にいることが多かったから、自然と仲良くなったのよね」
アグネスが零を見つめながら当時のころを思い出しているのか少し遠い目をしながら返事をして、零もつられるように呟いて、お互いに笑いった。
零は学生時代から優秀だったんだなぁ。流石だ。
「それじゃあ、座ってくれ」
アグネスの言葉で全員が席に腰を下ろす。アグネスは対面のソファに着席した。
「それで、今日はどうしたんだ?」
改めて今日の用件を尋ねるアグネス。
「それほど大した用件じゃないわ。あなたの顔を見ようと思ったのと、転移罠の兆候を調べているのは聞いているとは思うけど、そのデータが少し集まってきたから報告と日本にも送っておいてもらおうと思ってね」
「なるほど。そういうことか。てっきり零が嗅ぎつけたとばかり……」
零の返事に頷きつつも、別の話かと思っているかのような口ぶりでアグネスが口ごもる。
「何かあったの?」
「そっちの件は、また後で話すことにする。ひとまず転移罠の件を教えてくれ」
「分かったわ」
その様子を目ざとく目を留めて尋ねる零だったけど、後で話をするというアグネスの言葉に頷いて、これまでに分かっていることを伝えて、その内容をまとめたレポートを彼女に渡した。
「なるほど。これは有益な情報だ。ありがとう。活用させてもらうよ」
「ええ、私たちが少ない調べられるダンジョンは限りがあるからね。お願いするわ」
「分かった。任せておけ」
報告とデータを受けとったアグネスはとても満足そうだ。
「それで、さっきの話なんだけど、一体何があったの?」
「ああ。それなんだが、お前たちは英国のハンターズギルドにはいかなかったのか?」
ダンジョン失踪事件の方の調査報告が一段落すると、先程話すのを止めたことに話題を移す。
「ええ。色々バタバタとしていたからね」
「そうか。それがな、どうやら攫われたらしい」
「誰が?」
「聖女が、だ」
「え!?そんなことありえるの!?」
その話題の内容に衝撃を覚えたらしい零が驚く。
その驚きぶりを見るに、聖女、なんてファンタジー世界では超重要人物だけど、こっちもそうらしいな。
「ああ、実際彼女の手がかりを捜索するように極秘で頼まれているんだ」
「そうだったのね」
アグネスの返事に府に落ちたといった表情の零。
「それで、これはここだけの話にしてほしいんだが、零には情報収集と捜索、そして可能であれば救出してもらいたいんだが、引き受けてもらえないだろうか?」
「うーん、どうしようかしら」
アグネスが真剣な表情で零に頼むと、零は即答せずに悩む様子を見せた。
今は調査とはいえ旅行中だから引き受けるか悩んでいるのかもしれないな。
「俺達に気を遣ってるなら、依頼を受けてくれ。俺達で協力できるなら協力する」
「はぁ……分かったわ。その依頼引き受けたわ」
俺は零が引き受けやすいように助け舟を出すと、零はため息を吐いた後で、アグネスに向かって頷いた。
「中々いい男じゃないか。いいのを捕まえたな?」
「そんなんじゃないわよ!!」
アグネスが零に向かってニヤリと口端を吊り上げると、零は顔を真っ赤にして叫んだ。
一体何のことだ?
それはさておき、俺達は聖女と呼ばれる探索者に関する情報収集と救出の極秘依頼を受けることになった。
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