第301話 平和な旅とハンターズギルド

 エルフの里から出た俺達はそそくさとダンジョンへと戻り、次のダンジョンへと転移して、精神的に疲れている皆を寝かせた。


 やはり連日観光したり、エルフの様な不思議な事態に出会ったりすると、調査を兼ねた旅行とはいえ精神的に疲れる。


 勿論それは嫌な拾うじゃなくて、気持ちが昂ぶったことによる反動のような物だけど、たまにはゆっくりと何もせずにのんびりする時間も必要だ。


「ラック、後は頼むな?」

「ウォンッ」


 俺もしばらく調査を行い、ある程度の情報が集まった後、ラックに見張りを任せて眠りについた。


 それから俺達は幾度となく、調査と転移を繰り返して色んな国を観光していく。


 気付けばいくつかの国を経て独国に辿り着いていた。


 そこまでは米国や英国のようなイベントに巻き込まれることはなく、穏やかな旅行を楽しむことが出来た。


 回った国の主要な観光地はラックの影魔によってほぼ制覇できたと言ってもいいと思う。


 それに今後のことを考えて、ラックには随時散策させる影魔の数を増やさせている。今や全世界に最低でも数百万匹は影魔が放たれているんじゃないかなぁ。随時増えているから、そのうち、世界中に行けない場所は無くなるはずだ。


 ラックはBランクモンスターこそ倒せなかったけど、その気になったら人間くらいなら滅ぼせるんじゃないだろうか。


 Bランク以上のほんの一握りの人間だけでは、ラックを押さえることは難しいと思う。無尽蔵に湧いてくる影魔なんて俺だって相手にしたくないし。


 俺は体をブルリと震わせた。


「ウォン?」


 俺の震えを感じ取ったのか、ラックが隣で俺の顔色を窺うように首を傾げる。


「なんでもない」

「クゥーン」


 すぐにそれを感じ取った俺は微笑ましくなってラックの頭を撫でると、鼻で鳴いた後、俺の隣に伏せて目を瞑った。


「ちょっと、ハンターズギルドに行ってもいいかしら?」


 独国での調査が終わり、ダンジョンの外に出ると、零がそんなことを言いだした。


 現状組合に行くような曜日は無いと思うんだけど。


「ん?どうかしたのか?」


 俺は何かあったのかと思い、尋ねる。


「いえ。そろそろデータがある程度揃ってきたから一度報告しておこうかと思って。あそこには私の顔なじみもいるから丁度いいから」

「なるほどな。俺は別に構わないぞ?なぁ?」


 零の答えを聞いて、特に問題があったわけじゃなかったことに安堵した俺は、他のメンバーにも確認するように問いかけた。


「うん!!勿論オッケーだよ」

「ん」

「全然いいわよ?元々そっちがメインで観光がサブなんだから」


 三人は各々頷いて了承する。


「な?それでそれは別行動の方が良いのか?」

「いえ、すでに世界各地のハンターズギルドには話は通しているから一緒で構わないわ。それぞれが思ったことを話してくれて構わないし」

「分かった。それじゃあ、今日の観光の前にハンターズギルドに寄ろう」

『了解』


 独国では絡んでくる輩は居なかったので、今回は零に案内を任せてハンターズギルドまで移動した。


 ハンターズギルドに足を踏み入れると、ここでも日本のように甲斐甲斐しく世話を焼くような職員はおらず、俺達は零を先頭にしてズンズンとカウンターに座って何やら仕事をしている女性職員の元に歩いていく。


「すいません、ちょっといいですか?」

「はい、どうされましたか?」


 カウンターの前に辿り着いて零が職員に話しかけると、職員が顔を上げて用件を尋ねてきた。


「アグネスに会いたいんですが、可能ですか?」

「アポイントはおありですか?」


 アグネスという名前を出した途端、受付の表情が怪訝なものに変わり、約束の有無の確認をとる。


 職員の態度を見る限り偉い人なのかもしれない。

 零もSランク探索者だ。

 そういうつながりがあってもおかしくはない。

 でも職員は零の事を知らなさそうだからそういう反応になるのは当たり前か。


「ないのですが、ちょっと報告したい案件がありまして」

「アポイントがないとお通ししかねます」


 約束はしていないという零に毅然とした態度で返事をする職員。


 しかし、そんなことで零は諦めたりはしなかった。


「日本の零が会いに来たと言えば、話は通じるはずです。一度確認していただけませんか?」

「え、Sランク!?す、すみません、失礼しました。すぐに確認いたします!!」


 零がニッコリと笑ってギルドカードを提示しながら再度確認を取ると、職員は顔色を真っ青にして急いで内線電話で連絡を取った。


「あ、すみません。ボスに会いたいという方が来ておりまして。はい、はい。アポイントはないとのことなんですが、え、いえ、そうしよう思ったのですが、日本のSランク探索者である黒崎零と言う方で、え!?あ、はい、わ、分かりました、すぐにご案内いたします!!」


 内線で連絡を取った相手も目の前の職員と同じような対応をしようとして、同じように零の名前を聞いた途端、対応を変えたという所だろうか。


「すみません!!ボスがお会いになるそうです。ご案内いたします」

「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」


 こうして俺達はボスの元へと案内されることなった。

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