第300話 よし、戦争だ!?(第三者視点)
「いったか……」
「うむ、そうじゃの」
ハイエルフの長とサリオンは、彼らの王たりえる人間が転移門を潜ったの見届けた後で呟いた。
「まさか本当に我らが抱えていた問題を解決するとはな。私の直感も捨てたものではないな、長よ」
今でも信じられないといった表情で長に問いかけるサリオン。
だめで元元だと思っていたにも関わらず、まさか本当に解決できるとは思っていなかった。しかし、直感に従って招いた結果、問題は解決されてしまった。それはもうこの上なく、最上の結果で。
「まぁの。お主は昔から勘がいいからの。小さい頃はそれで手を焼かされたわい」
サリオンの問いかけに過去を懐かしむように遠い目をして長が返事をする。
サリオンが子供のころはかなりヤンチャで悪戯ばかりしていたが、長を含む大人たちが捕まえようとすると、なぜかそれらの攻撃を事前に察知していたかのように逃げられていた。
「子供の頃の話は勘弁してくれ。数百年は昔の話だ。それにしても本当にどうして我らは進化したんだ?いくら膨大な魔力があるとはいえ、ただ魔力を与えただけではこうはなるまい」
サリオンがお手上げのポーズで苦笑いを浮かべて首を振った後、再び本題に話を戻す。
「おそらく普人様の力のせいじゃ」
その疑問に長が端的に答えた。
「なんだって!?」
「普人様は質問した時、何処か慌てておった。おそらくワシらが進化した理由も知っていたのじゃろう」
驚いて目を見開くサリオンに、続けて根拠を述べる長。
長は普人達に質問をした時にそれぞれの表情や体の動きなどをよく見ていた。そのため、普人の挙動が不審であったことを見抜いていたのである。
「よく見ているな」
「これでも長じゃからな。観察力はある方じゃ。フォッフォッフォッ」
感心するサリオンに長は鼻高々に笑い声を上げた。
「それにしても、世界樹を回復するどころか、成長させる力を持つとはな」
魂の輝きに特に何かを感じることもなく、何の変哲もないただの少年に見えたが、結果だけ見ればそんなことはなかった。
「あの凄まじい光の柱を見ればおかしなことでもあるまい」
「ああ、あのセイクリッドツリーイーターを消し去ったという攻撃か。確かに凄まじい波動をビリビリと感じた」
長は森全体を明るく照らし、里の者総出で張った力も吸収する結界さえも破壊した光の柱を思い出しながら答えると、確かになとサリオンは頷いた。
二人はあの攻撃にとんでもないエネルギーを感じ取っていた。それこそ里のハイエルフたちが総出で結界を張ったとしても紙の如く破られてしまうであろう程に。
「うむ。あれは魔力ではなかった。おそらくあの力を攻撃ではなく、回復に転用したのではないかのう」
「なるほどな。それなら世界樹が成長を起こすのも分からぬ話ではないか……」
サリオンは振り返り、さらに巨大になって神々しいオーラを放つ世界樹を見つめる。
あれほどのエネルギーを攻撃ではなく、回復に使ったのなら、魔力とは別の作用をして、回復どころか成長まで促すということもあり得る。
彼はそう納得したのであった。
「それはそうと、昨日はまだ進化に体が馴染んでいなかったせいか、分からなかったのじゃが、かなり変化をしているようじゃの」
一通り自分たちの進化のことを推測していた二人だが、長が自分たちの体の変化について言及する。
「ああ、それは俺も感じている。特に……」
『朝起っていたからな(の)』
二人の声が重なる。
そう、見た目や魔力の変化は勿論顕著だったが、さらに顕著だったのは、性欲の復活であった。健全な男性であれば毎朝ギンギンになっていることが多いわけだが、性欲を失っていた昨日までは何をしても全く反応しなかった。
それがまるでまだ若かりし頃のように、いや、それを超える勢いの感覚に戸惑いを隠せない。勿論その変化は二人だけにとどまらず、里のハイエルフ全員に広がっていた。
見た目に頓着しないはずの彼らであるが、露出度の高い民族衣装から溢れんばかりの女性の象徴を見て、思わず前かがみになる男が多くなっていた。さらに、女性のフェロモンのようなものにつられて鼻の下を伸ばすような者もあらわれている。
逆に女性エルフに関しても、男性エルフをチラチラと見ては頬を染めるという、昨日まではなかった反応を見せたり、女性同士でキャッキャとはしゃぐように話すなど、未だかつてない感情の発露を感じさせた。
中にはたった一日だというのに男女で仲睦まじい姿を見せる者まで現れている。
「これは近々我らが新しい命を授かる日も近いかもしれんのう」
「確かにな。それはそうとして、長は誰が好みなんだ?」
里の元たちの様子を見て目を細めてかみしめるように呟く長。しかし、サリオンが唐突に俗な質問をし始める。
「うむ。そうじゃのう。やっぱり歳の近いアルミナ辺りかのう。見た目も魂もワシ同様に若返っておるようじゃし。なによりバインバインなのがええのう。そういうお主はどうなんじゃ、サリオン」
「ふっ。俺は断然幼馴染のサリーナだな。ほとんどの女性がバインバインになる中、以前と変わらずスレンダーなのが溜まらんな」
「ふむ、これはどうやら戦争のようじゃの?」
真っ向から対立する好み。二人の視線の間に火花が散った。
「長よ、やるか?」
「望むところじゃ!!」
こうしてエルフの里では進化によって変化が起こっていく。
数百年ぶりの恋の季節だ。
これから数年後、エルフの里は空前の出産ラッシュになるのだが、それは少し先の話である。
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