第294話 男の夢が詰まってる

「一体どうしてこんなことに?」

「そんなことはまずはいいじゃろ。すぐに結界を張るぞ。今のワシらなら二人で前よりも強固な結界を張ることが出来るはずじゃ。世界樹があんなに大きくなっては早急に結界を張り、入って来れないようにする必要がある」


 呆けるように自分の体を見ているサリオンさんに、長が急かすように告げる。


「お、長……。そうだったな」


 サリオンさんは長の言葉で我に返った。


「それじゃあ、すぐに始めるぞ?」

「分かった」


 二人は示し合わせると、呪文を唱え始める。


 地面に複雑な円形の文様が広がり、淡い光を放ち始めた。


『あったかーい!!』

『なにこれ?』

『すっごーい!!』

『二人は何してるのかな?』


 すると、光につられてやってきたのか妖精たちが二人の元に群がってきて楽しそうに踊り始める。それだけではなく、人型や動物型、自然現象型など、様々な形をした人ならざる者らしき者達が文様が放つ光の惹かれてやってきたようだ。


「ゆ、幽霊?」


 七海が少し怯えながら呟く。


 しかし、彼らは実体を伴っていなさそうに見えるけど、幽霊というにはあまり神聖さを持っているように感じた。


「どちらかというと精霊という類のものじゃないかしら。実体がないという意味では幽霊と変わりはないのかもしれないけど」


 七海のつぶやきに零が自分の考えを話した。俺は零の考えが的を得ている気がする。


「精霊なんだ。確かに嫌な気配はしないかも」


 七海は零の言葉に改めて実体を持たない半透明な彼らを見つめると、怯えは消えたようだ。


『~~~』


 数分程して呪文が唱え終わると、二人の足元にあった複雑な文様がブワーッと凄い勢いで広がっていった。そして半透明のドームのようなモノが森を覆っていくのが見える。


 どうやら森全体に文様が広がって全体を覆い隠しているようだ。こんなに広範囲に結界を張ることが出来るなんて凄いな。


「ふぅ。終わりじゃ。感覚的にやれるとは思ったが、まさかこんなに簡単に結界を張れるとは思わなんだ」

「確かにな。どうやらかなり力が上がっているらしいな」


 長は自分達の力が予想以上だったことに驚き、サリオンさんも同意するように自分の体を見下ろしていた。


『長~!!』


 結界が張り終わると、どこからともなく、沢山の声が響いてきて、俺達の居る場所に近づいてくるのを感じた。


「おお、あやつら戻ってきおったか。すっかり放っておいてしまったからの。さもありなん」


 近づいてくるエルフ達を見て目を細めて眺める長。やってくるエルフ達の様子が明らかに変化していた。


「長!!一体どうなってるんですか!?こんなになっちゃいましたよ!!」

「そうそう!!いきなり大きくなって物凄く動きづらいんですけど!!」

「ホントですよ!!物凄く大きくなったせいで、ちょっと走っただけで痛いです!!」


 彼ら、というより彼女たちと言うのが近いのかなぁ。


 エルフの女性たちが困惑するように長に詰め寄る。しかも全員が全く実っておらず、ぺったんこだった二つの果実が例外なく栄養を全て吸い込んだかのように膨らんでいた。


 全員がその果実を見せつけるように持ち上げてこれ見よがしに見せつけるので長もたじたじになっている。


「というか皆よく長だって分かるよな。見た目滅茶苦茶変わっているのに」

「私たちは見た目ではなく、もっている魂の色で判断していますので、見た目が変わった程度では分からなくなったりしませんよ」


 長を眺めながら俺は呟いたけど、その言葉を拾う人がいた。


「えっと……警備隊の人ですか?」

「ええ、そうです。そんなに変わっていますか?」

「それはとんでもなく」

「そうなんですね。先程も言いましたが、私たちは見た目よりも魂で物を見るので、見た目の変化に無頓着なんですよ。ただ、これに関してはあまりに動きに支障が出るので看過できないのですが」


 そう言って彼女は他のエルフ達と同じように俺の目の前で二つの対男性兵器を持ち上げてみせる。


 視界に迫ってくる存在感は思わず目を奪われてしまった。


「お兄ちゃん!!」

「あ、いや、これは……ははははっ!!」

「笑って誤魔化してもダメなんだからね!!」


 目を奪われたことが七海にバレてしまい、頰を膨らませて怒られてしまった。俺は慌てて目を逸らして、苦笑いを浮かべた。それでも、七海はプリプリと怒っていた。


「私は人間にあったことはありませんが、これは人間にとって良いものなんでしょうか?」

「え、あ、うーん。人間というよりは男にとっての夢が詰まってるようなものかな」


 警備隊の女隊員からのなんと答えたらいい分からない質問に、俺は適当な事を答えた。


「なんだか分かりませんが、そうなんですね。触りますか?」

「遠慮します!!」


 その言葉を真に受けた女隊員が不思議そうな表情で首を傾げて、俺の前にこれ見よがしにフカフカそうなマシュマロを差し出して来たけど、七海達の視線が突き刺さっているので遠慮する。


 別に七海達が居なくても断るんだからね!!ホントだぞ?


「なんなのあれ!!羨ましい!!ぐぎぎっ」

「ん」


 突然大きくなった二つの母性をぶら下げたエルフ達を悔しそうに歯噛みする七海と、シアは少しだけ羨ましそうな表情をした。

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