第293話 何故か進化しました
「いや、あれ程禍々しい気配を持っていた、あのセイクリッドツリーイーターを倒すどころか消滅させたというのか!?」
「は、はい、そうなりますね」
サリオンさんはあまりの驚きに俺に詰め寄ってきたので、思わずのけ反りながら答えた。
「信じられん……。確かに辺りにあの禍々しさは感じられないが……。まさか、さっきの光の柱は!?」
「えっと、多分俺の攻撃だと思います」
俺の言葉を受けて腕を組んでうんうんと一人で考えていたサリオンさんが、突然バッと顔を上げて信じられないような顔をして俺の方を見つめてきた。
再びタジタジになりながら返事をする俺。
いやまぁ、七海の大魔法に比べれて大したことがない攻撃ではあるけど、俺の全力の攻撃には間違いない。
今回はただ皆の魔力を吸収していたせいで、たまたま俺の気が弱点らしくダメージを与えることが出来て運よく消し飛ばせた。
「た、確かに、あれ程のエネルギーであれば、伝説と謳われるセイクリッドツリーイーターを消し飛ばすことも可能かもしれん……」
再びサリオンさんは腕を組んでブツブツと一人の思考の世界に旅立ってしまった。
「おお、無事じゃったか……」
サリオンさんが思考の海を彷徨っている間に、長が少し息を切らして俺達の所へ駆け寄ってくる。
「あ、長。避難の方はどうなったんですか?」
「ふぅ……。いや、光の柱が見えたと同時に禍々しい気配が消えたからの。中断して戻ってきたのじゃ。どうやら倒してしまったようじゃの、あのセイクリッドツリーイーターを」
避難を頼んでいたはずの長も戻ってきたので、どうなったのか確認すると、敵の気配が消えたのを確認して、もしかしたらという淡い期待を持って、その確認をしに戻って来たと言うことらしい。
それって結構危ない気もするんだけどね。長には確信みたいなものがあったのかもしれないな。
長は俺を見て、真剣な表情でセイクリッドツリーイーターを倒したことの確認をとる。
「ええ、まぁ、はい。そういうことになりますね」
「うむ、本当に感謝する。どうやらワシらは故郷を捨てなくて済みそうじゃ」
「いやいや、頭を上げてください!?俺達も逃げられそうな手段があったからちょっと戦ってみただけですから」
俺が少し狼狽えつつも肯定したら、長が深々と頭を下げられてしまったので、俺は慌てて頭を上げてもらう。
なんの逃亡手段も無かったら、こんな無謀なことはしていない。だからそんな風に畏まられると恐縮してしまう。
「いやいや、それでもじゃ。あんな化け物に立ち迎えるだけで凄い事じゃぞ?それをまさか倒してしまうとはの。たまにはサリオンの直感も役立つものだな」
「ん?どうしたんだ、長?」
思考の海に沈んでいたサリオンさんだけど、長の言葉で浮上してきて、自分の顔を見つめる長の視線に気づいて尋ねる。
「いや、何でもない。それよりも今日はこれから忙しくなるぞ。結界を張り直さんといけんからの」
長は呆れるような顔をした後、真面目な表情になってこれからやらなければならない事を上げる。
あぁ~、俺の攻撃が壊しちゃったのか。
本当に申し訳ない事をした。
多分防御性能はなくて、外界から見えなくする機能の結界なんだろうな。
「あ、その前に良いですか?」
結界を治す前にしておいた方がいいことがあるので声を掛ける。
「なんじゃ?」
「原因も取り除かれたので、また世界樹に力を送ってみたらどうかと思いまして。その方が皆さんの力も回復するでしょうし」
「おお、なるほどな。セイクリッドツリーイーターと戦ったばかりじゃが、大丈夫なのか?」
俺が世界樹の回復をした方がいいと思って提案すると、戦闘後であることを心配されてしまった。
その辺りはエリクサーで回復したからな。
「ええ、問題ありませんよ。薬を飲んで回復しましたから」
「そうか。セイクリッドツリーイーターの事と言い、世界樹の事と言い、本当にありがとうの」
「いえいえ、どうしたしまして」
俺が力こぶを作って見せたら、また感謝されてしまった。俺は照れくさくなったので、すぐに二人の元から離れ、少し離れていた皆の所に集まる。
「よし、もう一度世界樹に魔力を送ることになったけど、皆大丈夫か?」
「うん、問題ないよ!!」
「ん」
「もう全回復したから大丈夫よ」
「私もいつでもいけるわ」
「分かった。早速行こう」
『了解』
俺達はすぐに世界樹の下に近づくと、全員で魔力を送り始めた。
そういえば、魔力だけじゃなくて気も送ってみたらどうだろうか。
気は生命の根源みたいなものだ。
送って悪いことはないだろう。
俺は魔力と共に気を送り込んでみた。
『はっ?』
俺も含む全員から間抜けな声が上がった。なぜなら、世界樹が回復するだけでなく、神々しい光を放ちながら成長し始めたからだ。
『これは!?』
それと同時にサリオンたちにも変化が起こった。
どちらもみるみる若返っていき、二人とも二十台前半くらいに見えるほどになった。
そして、中性的だった性別が、男らしさも兼ね備えたものへと変化し、なんだか神秘的なオーラを放ちだす。
「力が漲るのう……!!」
「こ、これは凄いぞ!!」
気づけば、世界樹は二百メートルほどまで成長し、青々とした葉を隙間なく生やし、所々に白い花を開かせた。
その頃には、身長百八十センチくらいのすらりとした細身のイケメンの優男がすっかり出来上がっていて驚きを隠せない。
「これは全盛期以上の力を感じるのう。これはもしかしたらワシらも伝説の種族になったのかもしれんな」
長は自分の手を握ったり閉じたりして何かを確かめた後でしみじみと呟く。
「それはまさか!?」
「そう。ハイエルフじゃ」
長の言葉に驚きを隠せないサリオンさんが思わず長の顔を見つめると、長は神妙な顔で頷いて答えた。
どうやら魔力だけじゃなくて気も注入したら、エルフがハイエルフに進化してしまったらしい。
何を言ってるか分からないかもしれないけど、俺も何を言っているか分からない。
一体どうしてこうなった!?
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