第288話 エルフの生態

「え!?一体どういうことですか!?」

「うむ。それについては我らの在り方について話さなければなるまい」


 俺ががたりと立ち上がって尋ねるが、長とサリオンは全く動じることなく、話を進める。


「まず、お主がこの里に訪れてから何か気づいたことはなかったか?」


 気づいたことだって……。

 うーん、そう言われてもなぁ……。

 あ、いや待てよ。もしかしたら……。


 俺はこの里を歩いてきて一つ気になったことがあったのを思い出した。


 ダメだったとしても死ぬわけじゃないし、言ってみるか。


「子供がいない?」

「うむ。その通りじゃ。もうこの里ではかれこれ四百年子供が生まれておらぬ」

「よ、四百年!?」


 俺が自信なさげに答えると、長は俺の答えを肯定するために首を縦に振り、その後で衝撃の事実を述べた。


 先程も驚いたが、そのスケールの違いにどうしても驚いてしまうのも無理はない。


 この里に入った時妙だと思ったんだよな。二十台程度のエルフは見かけたけど、十台や一桁くらいのエルフの姿は一人たりとも見かけなかった。


 これは何かあるなと思ってはいたけど、そういうことだったのか。


「他に、ワシら、女子も含めて見た目で何か気づくことはないか?」

「見た目……ですか……。うーん、ちょっと分からないですね」


 サリオンも長も非常に中性的な顔立ちをしており、女性らしい服装を着たら女と言われても分からないくらいに線が細くて、しなやかな体つきをしているのは分かるけど、それ以上の事は全く分からないかったので降参した。

 

「そうか。まぁいいじゃろ。それはな、女と男の性差がかなり小さく感じなかったかの」

「言われてみれば確かに……」


 さっきも言ったけどエルフは髪型や服装で辛うじて男だと分かるような見た目をしている。女性も七海のようにぺったんこな胸のため、見分けるのが難しそうだ。


「お兄ちゃん?」

「い、いや、なんでもないぞ?」


 俺が七海を見ていたのがバレたのか、ハイライトのない目で俺を見つめてきた七海。俺は慌てて首を横に振った。


「でも、それが一体なんだというんですか?」

「男は五百年ほど前から性欲が減少し始め、それと同時に容姿もこのように線の細い女子おなごの様な体に変化していったのじゃ。逆に女の方はメリハリのあった体つきが徐々に失われて生き、今のような体型となった。今では性欲というものは失われたと言ってもいい程じゃ」


 俺は慌てて話を戻すと、性差が小さくなったことによる弊害を説明する長。


 性差が小さくなったからなんだって感じだったけど、確かに性欲の消滅しているとなると、それどこじゃなくなるな。


「なるほど。それでは滅ぶというのは……」

「そうじゃ、所謂少子化じゃな」


 そういうことか。


 男は女に近づき、女は男に近づいて性欲を失い、子孫が生まれないことによるゆるやかな滅亡。それがこの里の抱える問題だった。


「でもそれなら滅ぶのは随分先では?」

「ふむ。それはそうなんじゃがの。やはり不安なのじゃ。ワシらの寿命は五百年ほど前から徐々に短くなっている。以前であれば、千年は生きると謳われたはずの我らも、今の世代では五百年程度の寿命になってきておる。最近ではわし達の世代が後に生まれた子らを看取らないばならないことも増えてきている。これからどんどん我らの数は減っていくじゃろう」


 なるほど。寿命まで半分になっているというのはただ事じゃない。それに若いものから亡くなっていくというのも未来がないという感じがして気が気じゃなくなりそうだ。


 ただ、その原因を探ってどうにかするというのは、流石に俺達には難しいのではないだろうか。


「俺たちにその原因を探って、どうにかして欲しいってことですか?」

「いや、ここからが本題なのじゃが、我らがこうなっている原因は分かっておる」


 俺の質問に長は一度首を振ってから答える。


「え、それならどうにかなるのでは?」

「いや、それがそうもいかんのじゃ」


 原因が分かっているのに解決できない。

 一体どういうことなんだろうか。


「どういうことなんですか?」

「うむ。ワシらがこうなった原因は世界樹と呼ばれる大樹が枯れかけているからじゃ」

「世界樹!?」


 またしてもファンタジー世界に良く現れる単語に俺は驚く。


 まさかこんな所で世界樹と言う名前まで聞けるとは……。


「そうじゃ。我らは世界樹を守り、世界樹と共にある種族。かの樹が枯れる時、我らも滅びるということじゃ」

「それこそ、俺達ではどうにもできないと思いますが……」


 彼らは世界樹と深く結びついている種族なんだなぁ。ただ、世界樹がもう寿命を迎えそうということなら俺達が力になれそうにないけど。


「いや、世界樹の枯死の原因は魔力の枯渇じゃ。その幼子程の膨大な魔力があれば、もしかしたら状態が改善するかもしれん。他の面々も我ら以上の魔力を感じる。それらの魔力があれば、少なくとも今よりも状態は良くなるはずじゃ」

「なるほど。俺達にやってほしいことは、世界樹の魔力の回復ですか」


 うーん、別に魔力を分け与えるだけなら協力してもいいと思う。


「うむ。どうじゃろうか?頼めるか。もし回復した暁には、世界樹の実や葉や枝、それに樹液などをそなたらに分けてやろう」


 おお、それはとんでもない報酬なのでは?


「世界樹の魔力に分け与えるだけで上手くいけば世界樹の貴重な素材を貰えるみたいだけど、どうする?」


 俺一人では決められないのでメンバーに尋ねる。


「面白そう!!やってみたい!!」

「ん。任せる」

「別にいいわよ」

「特に危険がないのなら引き受けてもいいわ」


 メンバーたちは特に問題なさそうだ。


「その依頼、引き受けさせていただきます」


 メンバーの快諾も得られた俺は長に向かってそう言った。

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