第287話 エルフの困りごと
「まずはこの里の長にお前達を紹介しよう。ついてきたまえ。リューナ達は通常任務に戻れ」
『はっ』
サリオンは奥に歩く姿勢で俺達の方を軽く振り返り、俺についてくるように言うと、リューナと呼ばれたエルフ達に指示を出して歩き始めた。
俺たち指示に従って彼の後ろをついていく。
「あれって人間?」
「物凄く久しぶりに見たわね」
「でも大丈夫かしら。またエルフ狩りとかやり始めるんじゃ?」
「リューナが視たらしいから大丈夫でしょ」
辺りから視線を集める俺達。
所々で数人のエルフ達がこちらをチラチラと見つめながら何やらヒソヒソと話をしているらしい。
人間が訪れるのが二百年ぶりとなれば珍しいことだし、仕方がないことだろう。
「悪気はないのだ。許してやってくれ」
周りからの視線をチラチラと気にする俺達に気付いたのかサリオンは、少し振り向いてバツの悪そうな顔で少しだけ頭を下げた。
「いや、珍しいのは仕方ないですから。それに俺達もまさか地球にあなたたちのような種族がいることを知らず、マジマジと見てしまいますから、お互い様ですよ」
俺たちは困ったように笑う。
あっちが気になるように、逆にこっちもジロジロ見ているんだから別に気にするようなことじゃない。
ファンタジーの代名詞みたいな種族ともなれば、見るなって言う方が難しい。
「そう言ってもらえると助かる。四、五百年前は外の森で普通に暮らしていたんだが、欲に目が眩んだ人間が私たちを奴隷にしようとしてな。勿論私たちは地球の人間達よりも強いからそんなことは無理だった訳だが、煩わしいことに間違いはなかったから一部例外を覗き、人間との交流を断ったのだ」
はぇ~、過去にそんなことがあったんだなぁ。
地球でもエルフ狩りなんてものが起こったのか。
そりゃあ引きこもりたくもなるか。
ただ、一部だけは交流を持っていた。
「それが英国の人間ですか……」
それが彼らが俺達を見た時に呟いた言葉に繋がるわけだ。
「ああ。王族から私たちに一人嫁に来たもの好きな人間がいたからな。もう亡くなってしまったが、実質親戚みたいなものなのだ。それでも、もう二百年はあちらから連絡がきたことはないがな」
「え!?そうなんですか?そんな話は聞いたこともありませんが……」
まさかの王族がエルフに嫁いだらしい。
衝撃の事実じゃないか。
でも、今までそんな話を聞いたことがないぞ?
「それはほとんどの人間が知らないからな。英国の王族の中でも当時の国王と、嫁の両親しか知らん。兄弟や子供たちにも伝えてないはずだ。それに偽装で人間に見えるようにしていたからな。気づく者もいなかっただろう」
「表向きは普通の人間に降嫁したってことですか」
それもそうか。そんなとんでもないことは発表できないもんな。
発表してたらもっとエルフたちのことを知られているはずだし。
「人間達の身分制度から見ればそういうことになるだろうな」
「そうですか。ちなみにサリオンさんは当時からご存命なんですか?」
サリオンさんから話を聞いた俺は、ふと気になって尋ねる。
「ああ、私はもうすぐ六百歳だからな。当然生きていた」
「はぁ……やっぱり俺達とは人生のスケールが違いますね」
まさかの数字に俺は一瞬驚愕した後、ため息を吐いて困惑気味に答えた。
やっぱりとんでもなく長生きしていた。
六百年って気が遠くなるような数字だよな。日本で言えば六百年前は千四百年代だ。その頃は足利氏による室町幕府の全盛期。そんな頃から現代まで生きていると考えると途方もない。
「まぁ人と私達ではそう思うのも無理はない。おっと、あの大きな家がこの里の長の家だ」
俺の驚きに肩を竦めるように返事をすると、どうやら目的についたらしく、先を指さして俺達に教えてくれる。
指の先にあるのはひと際大きな木の家。他の家も立派だったけど、この家はいかにも偉い人が住んでいますという威厳を主張している。
「ちょっと待っててくれ」
「はい」
扉の前まで来ると、サリオンは俺達に断りを入れてドアをノックした。
「ふむ。サリオンか、待っておれ」
中から若いにも関わらず、年寄りじみた口調の声が聞こえ、数秒後に扉が開いた。そこには四十台ほどの中世的なイケメンが立っていた。
「長よ。客人を連れてきた」
「ほう、人間か……久しぶりじゃな」
サリオンが長に俺達を紹介すると、長は俺達を足の先から頭のてっぺんまでじろじろと観察しながら呟く。
「どうやら邪な心の持ち主でもないようだし、今この里に来たことに運命のようなもものを感じた。だから我らの問題を相談してみるのも悪くないと思ったのだ」
「なるほどの。中に入るがよい」
俺達を招きいれた理由を述べるサリオン。長は納得した表情で俺たちを家の中に招き入れた。
家の中は幹をくりぬいたような造りになっていて、室内のあるものの多くは木材によって作られたものばかりで、明かりもほんのり赤みがかっているせいか、とても温かみのある空間だった。
「そこに掛けなさい」
「はい」
俺達は十人は座れそうなテーブルの席に座るように促されたので、素直に腰を下ろした。
「早速じゃが、端的に言うと、この里は緩やかに滅びに向かっておる。このままではそう遠くない未来にこの里は滅ぶであろう」
俺達が腰を下ろすなり、衝撃的な事実を述べるのであった。
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