第284話 妖精

「さっきまで確かにストーンヘンジに居たはずなのに、これは一体どういうことなんだ?」

「もしかしたらストーンヘンジって転移装置とかゲートとか、そういう風に呼ばれるものなんじゃない?」


 俺の呟きに七海が思案気に腕を組みながら推論を述べた。


 確かに全く別の場所に移動してきた理由が、ストーンヘンジの転移機能によるものだとすると筋が通る。だけど、そうなると別の問題が出てくる。


「え?それってダンジョンが出来る前からそういうファンタジーなものは存在してたってこと?」


 そう、天音の言葉の通り、それはそんな超常的な装置がダンジョンが出来る前から存在していたのか、ということ。


 元々オカルト的な話は昔から色々な場所で伝えられてきた。ダンジョン以外に、オカルト的な存在がある、または居ることの証明は出来ていないが、いないこともまた証明できていない。


 つまり、そういう存在が元々あったとしても可笑しくはないと言うことだ。突然ダンジョンがこの世界の現れたという超常現象を考えば十分にありうる。


「そういうこともあり得るんじゃないかしら?ダンジョンなんて不可思議な構造物も現れたわけだし」

「言われてみればそれもそうね」


 俺が考えていたことを零が代わりに伝えてくれて、天音がその言葉を受けて思い直す。


 そういえば、ここから他の所に脱出できるんだろうか。


「ラック、影転移はできそうか?」

「ウォウォンッ」


 ラックに影転移が出来るか確認すると、少しキョロキョロと近場を見回した後、ラックは力なく首を振った。


「そうか、出来なさそうか」

「え!?転移できないの!?」


 俺の呟きに七海は驚愕して俺に尋ねる。


「ああ、どうやらここはダンジョンと同じように外とは隔絶された空間とか、転移系の能力を阻害するような結界が張られているとか、そんな場所なんだと思う」

「そっかぁ、それじゃあすぐには帰れないかもね……。ごめんなさい、私のせいで……」


 俺が答えると、七海は申し訳なさそうに返事をした。どうやら勢い余って魔力注いでしまったことを反省しているようだ。


 反省してるならこれ以上何を言うことはない。


「そんなに気にするな。次から気を付ければいいさ」

「ん。ふーくんにおまかせ」

「そうそう。どうせ普人君がどうにかするわ」

「そうよ。気にせず行きましょ。これも得難い経験だわ」

「うん、気をつけるね」


 しゅんと落ち込む七海を励ます俺達。


 でも、確かに七海の言う通りだ。


 ここが何処かも分からない。どうすれば出られるのかも分からない。そもそも帰る事できるかさえ不明だ。


 しかし、このまま何もせずに手をこまねいているわけにもいかない。


「来てしまったものはしょうがないから、とりあえず何が在るか分からないから気を引き締めて出口を探そう。隊列はいつも通りで。とりあえずあっちに何かある気がするから、あっちに進んでいこう」

『了解』


 俺達は出口を探すため、直感に従って森の中を探索し始めた。


 俺達はまず最初に居た地点に分かりやすい目印を置いてから移動を開始した。最初の地点さえ分かるようにしておけば迷ったとしても分かるしな。


『ふふふふっ……』

『あら、人間だわ……』

『ホントだ……』

『久しぶりね……』


 何かありそうな方に向かって進んでいると、モンスターのような敵意のある生物は出てこないけど、囁き声が聞こえてきた。


 周囲に気配がどんどん集まってきている。


 その数は最初は数匹だったのが、どんどん増えていき、今では三十匹くらいの気配が感じられた。


「妖精?」

「そうみたいね」

「え?え?何かいるの?」

「ん。見えない」


 七海と零はその姿を見ることができるけど、天音とシアは見えないらしい。魔力とか気功が見える目をもっているかどうかかな。


 ちなみに俺にも見えている。


「ズルい」

「ホントよね。私も見たかったわ」


 シアと天音は羨ましそうに俺達を見つめた。


 俺が見えているのは背中にトンボのような透明な羽を生やした小さな美少女達。いわゆるファンタジーに出てきそうな容姿の妖精そのものがくすくすと俺達見て笑っていた。

 

「なんか用か?」


 俺は集まってきている妖精たちに話しかける。


『見えてる?』

『そうかも……』

『惑わせよ?』

『そうだね!!』


 妖精たちが焦ったように顔見合わせた後、俺達からわぁーっと逃げ出し、森の中に霧が立ち込め始めた。


「周りが全然見えないわね」

「そうね、数メートル先も見えないわ」


 最初は薄い霧だったけど、どんどん濃くなっていき、ほんのちょっと離れただけで人を見失いそうなほどだ。


「一旦止まって全員を確認してから動きましょ」

『了解』


 零の冷静な判断によって俺たちはすぐに立ち止まって互いが見える位置に近づいた。


 ほんの一メートルくらいまで近づいてようやく全員の顔がハッキリ見える。


「全員いるみたいね」

「そうだな」

「佐藤君、進んでた方角はわかる?」

「あっちだ」

「それじゃあ進みましょう」


 間違いなく五人揃っていることを確認した俺達は、先程まで進んでいた方角へと迷わず進み始めた。


 

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