第285話 相変わらずの幸運
俺達は霧の中を直感を頼りに進んでいく。
先ほど逃げていった妖精たちだけど、一定の距離を保って俺達の様子を窺っているようだ。幸い先程感知した通りモンスターなどの敵性生物の気配はないので、霧と妖精、それからもう一つの気配に気を配っていれば問題ないはず。
『えぇーい!!』
『とりゃあ!!』
『むむむむ!!』
遠くから妖精たちの掛け声が聞こえているけど、何かしているんだろうか。
あ、もしかしたら、俺達の周りで踊っているのかもしれない。
それも一度でいいから見てみたいな。
「天音、左にズレてる。もう少し右だ」
「こっち?」
「ああ、そのくらいだ」
「七海、こっちだ」
「あ、うん、お兄ちゃんありがと」
「シア……は問題ない」
「ん。ふー君にくっつけば問題なし」
「零、そっちじゃない。こっちに戻ってきてくれ」
「え、ああ、ごめんなさい」
暫く歩いていると視界が悪いせいか、皆の進行方向がズレていくので、俺が都度修正する。
天音や零は直感や五感はすでにカンストしているはずだから多分俺をからかっているか、俺を試して遊んでいるな、これ。
全くそんなことしなくてもちゃんとやるってのに。それに演技がまるで演技じゃないみたいに上手い。こんなに上手いなら皆芸能界でやっていけるんじゃないかな。
『あれぇ?』
『どうなってるのぉ?』
『なんで迷わないの?』
『おかしいなぁ?』
ふざけたことを考えながら目的に向かって真っすぐ進んでいると、何を言っているかまでは分からないけど、妖精たちがグループを作って集まり、ヒソヒソ声での会話をしているのが聞こえる。
何かあったのかな?
『今度は幻みせるよぉ!!』
『そっか、その手があった』
『やろやろ』
『オッケー!!』
何やら話がまとまったのか妖精たちが再び散開した。
「え?パパ?」
妖精たちが動き始めて数分後、七海がそんな言葉を呟く。
七海がパパと呼ぶのはたった一人。
俺と七海の父親のことだ。
「え?」
俺は思わず辺りを見回したけど、親父の姿はどこにも見当たらない。死んでいる人間が居るわけがないから、幻覚か何かと考えるのが一番妥当だと思う。
「ん。ふー君待って」
次はシアが俺を呼びながら、俺が居る方とは別の方に歩き出す。
「あ、おじさんどうしたの?」
「あ、あ、あ、お兄ちゃん、お姉ちゃん!!」
天音も別の方向に向かって歩き出し、零もなぜか涙を流しながら全く正反対の方へと進み始めた。
「なんだか、ヤバそうだな。吹き飛ばしてみるか」
俺は霧がなんらかの幻覚作用を皆に与えているのではないかと思い、全方位かつ皆に当ててしまわないように本当に軽くパンチを連打した。
風圧によってあたりの霧がブワリと舞い上がって視界が開ける。
「え?あれ?」
「ふーくん?」
「私どうしちゃったのかな?」
「何してたのかしら私?」
周りに霧がなくなった途端、全員が正気に戻ったようだ。どうやら霧には幻覚効果まで付与されているらしい。
なぜか俺以外全員が掛かっていたみたいだ。レベルとか関係なくかかる類の幻覚だったらしい。もしかしたらダンジョンとは関係のない、元々この地球に在ったオカルト的な存在だったせいで、レベルやステータスでは防げないのかもしれない。
なぜか俺にはかからなくて運が良かった。
いつもながら俺はツイてる。
俺達は数十分なのか数時間なのか時間が曖昧だけど、霧を吹き飛ばしながら歩き続けた。
『うわーん』
『あの人間可笑しいよぉ』
『なんで迷わないのぉ?』
『このままじゃ里についちゃう』
その頃になると妖精たちがなんだか諦めたような表情になりながら、あちこち飛び回った後、俺達が向かっている方向に飛んで行ってしまった。
飛んでいる姿は幻想的だから全然いいんだけどさ。
妖精たちが飛んでいった方角に進んでいくと、前方に複数の気配が現れた。
「止まれ!!」
何者かが俺達に叫ぶ。
もしかしたら何者かの縄張りに入ってしまったのかもしれないな。ここがどこかも分かっていないから、その可能性は十分ある。
指示に従っておいた方がいいと思う。
「止まろう」
俺の指示に全員がその場に立ち止まった。
「お前たちは何者だ!!どこから来た!!」
「ストーンヘンジから来ました!!」
「バカな!!あそこは通れないはず!!お前たちそこを動くなよ!!」
「分かりました!!」
立ち止まった俺達に男らしき人物が尋ねるので、隠すことでもないので素直に答えると、相手から驚愕を含んだ声色が響き渡り、俺達はそのまま指示に従う。
俺達が暫く待っていると、目指していた先の方から複数の二足歩行の影が徐々に俺達の方に近づいてくるのが分かった。
俺はいつでも動けるように身構える。
―ザッザッザッザッザッ
足音が徐々に大きくなってきた。
「あれはまさか!?」
そして、影がどんどん濃くなり、薄くなった霧の向こう側から現れたのは、異世界物語で定番の、耳が尖っていて、美しい容姿の者しかいないというファンタジー種族にそっくりの人型生物たちだった。
俺達は目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。
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