第283話 ダンジョンよりもファンタジー

「ふわぁ。良く寝た」


 俺は目を覚ます。


 俺がスマホの時間を確認し、眠ってから一時間程度しか経っていないことを確認する。やはり基本的にいつでもこの時間に目を覚ます。


 勿論この時間に起きたいと思えば、その時間に起きることも出来る。どの時間に起きてもスッキリ快調だし、睡眠時間は自由自在だ。本当に探索者になってからは寝入りも寝ざめも良くなっていい事ばかりだ。


「ウォンッ」


 俺が起きたのを確認したラックも目を覚まして、小さく鳴いた。


「おはよう、ラック」

「クゥーンッ」


 ラックの挨拶にわしゃわしゃと撫でると、ラックは嬉しそうに鼻を鳴らす。


「さて、皆が起きてくるまでは少し時間がかかると思う。ご飯でも作るか」

「ウォンッ」


 一番早く起きてきたのは天音で、おれの食事の支度を手伝い、その後、七海、シアの順番で起きてきた。どうやら匂いに釣られて起きてきたようだ。


 零は疲れていたのか珍しくお寝坊している。


 そうしている間にご飯が出来た。


「おーい、零を起こしてきてくれ」

「はーい!!」


 俺は料理を並べながらお願いすると、七海が元気な返事をして零を連れてきた。まだ寝ぼけていて、服装も色々はだけていて目に毒だ。


「七海、流石にその恰好のまま連れてくるなよ」

「えぇ~、いいじゃん。お兄ちゃんも嬉しいでしょ?にしし」


 俺がジト目で七海を睨むと、いたずらを仕掛けた悪ガキみたいに笑って返事をする。


 小悪魔っぽい七海は可愛いけど、流石にこんなあられもない姿で寝ぼける女性を健全な男子高校生の前に連れてくるのは問題ありだ。


 天音に次ぐ大きさの果実が今にも服の外に飛び出しそうだからな。


「確信犯かよ。後で絶対零が恥ずかしくて悶絶するやつだぞ?流石にクールな零でも怒ると思うぞ?」

「そん時はお兄ちゃんを盾にするから大丈夫!!」


 俺が零に叱られるぞと言っても七海はどこ吹く風。どや顔でそのぺったんこな胸をこれでもかと張ってとんでもないことを言う。


「理不尽すぎる!!それはいいからちゃんと身支度させてこい」

「はぁーい」


 俺は思わず叫んで、すぐに七海に最低限の身だしなみを整えてくるように指示した。


 はぁ……全く強かな妹だ。


 それからしばらくして零もちゃんと目を覚ました状態でやってきて、滅茶苦茶恥ずかしそうにモジモジしていた。


「ごめんなさい。見苦しい物を見せたわ」

「いやいやいや、全然見苦しくなんてないから。むしろ眼福でした。ありがとうございます。それに悪いのは七海だからな。気にしないでくれ。これでも一応男だから、今後気を付けてくれると助かる」

「わ、分かったわ」


 零が恥ずかしさと申し訳なさが同居したような表情で俺に謝罪してきた。俺としてはとんでもなく素晴らしい物を見せてもらっただけでなので、俺の方こそと慌てて頭を下げる。


 その後で、一応注意をしておく。


 これでも健全な男子なので、そういうことが続くと理性が保てる保証ができないからな。可愛い女の子に囲まれての旅行は中々危険だ。


 なんだか勢いでおかしなことを口走った気がするけど、気にしないことにしよう。

 

「見る?」

「話ややこしくなるし、もうすぐご飯だから席に座って待ってるように」

「ん」


 そんな中シアが近くにやってきて、自分の服の胸元を引っ張って俺に中を覗かせようとしてくる。覗きたい気持ちをぐっと押さえて俺はシアにピシりと言い放つとシアは大人しく席に座った。


 俺達はご飯を食べ終えると、早速ダンジョンの外に出る。


 ここでも以前絡んできたパーティを探して会いに行き、英国観光の案内をしてもらった。なかなか有意義な観光が出来たと思う。


「それじゃあ、最後にストーンヘンジ行ってみましょうか!!私が口利きすれば内部にも行けますよ」

「わーい、楽しみ!!」


 俺達は最後にストーンヘンジに行くことになった。


 ピラミッドと同様に人力で作り上げられただろう不思議な巨石記念物。作られた目的は未だに明確には分かっておらず、そのあまりに意味ありげな造りに、多くの人間の好奇心を煽る。


 二時間後、俺達はその間近に立っていた。


 高さが四~五メートルある巨石が立っていることも、その石の上にさらに石が乗っていたりすることも、それが円形に並んでいることも、おおよそ人の力だけでやったにしては余りに不思議で、ダンジョンも不思議だけど、また異質な不思議さを感じさせる。


「ホントに不思議な場所だよねぇ。なんだか魔力みたいなものを感じる気がする」

「そうね。確かに不可思議な力が渦巻いているわ」


 魔力にひと際敏感な二人がストーンヘンジを見ながら呟く。


 かくいうおれもストーンヘンジの真ん中でエネルギーが竜巻のように渦巻いているのが見える。


 これって絶対なんかあるやつじゃん。


「ちょっと真ん中まで行ってみよ!!」

「あ、こら待てよ!!」


 七海は力の集まりが気になるのか、真ん中に駆け出して行ってしまったので、俺は慌てて追いかける。


 シアと天音に零も追いかけてきて、全員で真ん中に集まった。


「ん?これは……」


 俺は真ん中には草が、なんらかの規則性も持った模様を描いている。


「なにこれ、フェアリーサークルってやつ?」

「え?本当だわ。不思議な模様ね。明らかに自然に出来るモノではないわね。いたずらって可能性もあるけど、これには不思議な力が集まっているわ」


 俺がしゃがんでいるのを目ざとく見つけた七海が隣にやってきてしゃがみ込む。そこに零たちもやってきて、零がその目で見えることを教えてくれた。


「うーん、ちょっと魔力注いでみよ!!えぃ!!」


 七海はちょっと腕を考えたそぶりを見せた後、興味本位でフェアリーサークルに魔力を注いだ。その瞬間、辺りが真っ白に見えるほどの閃光に包まれ、俺達は視界を失った。


『きゃー!!』

「大丈夫か!?」


 女の子達の悲鳴が上がる。しかし、この光の中では状況がつかめない。


 俺は光が治まるまで待つと、パーティメンバーが全員近くに居ることに安堵した。


「皆大丈夫か?」

「え、ええ。それもよりもここどこかしら?」


 俺が声を掛けると、いち早く我を取り戻した零が返事をして付近を見回しながら返事をする。


―ギャギャギャギャギャッ

―キーッキーッキーッキーッキーッ

―バサバサバサッ


 多数の獣の鳴き声や動作が木霊した。


 皆の無事を気にするあまり視界に入らなかったけど、辺りは鬱蒼とした草木が生え、日の光も余り届かない程の薄暗い森の中だった。

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