第263話 いつの間に犬(ペット)に負けていた件
「嫌だけど?」
「嫌」
「私も」
「私も遠慮しておきます」
カイザーの誘いを七海たち全員が断った。
それは一瞬の考える間もなく。
おいおい大丈夫か、相手はアメリカ最強の探索者なんだろ?
武力で来られたら俺なんて一瞬で倒されちゃうぞ。
勿論逃げたりなんかしないで最後まで立ち向かうけどさ。
それで守れなかったらそれはそれできついんだけど?
「そんな!?カイザー様のお誘いを断るなんて何様なの!?」
「そうよ!!カイザー様とお話できるだけでも光栄なことだというのに、お誘いを受けて断るなんてありえない!!」
「きぃいいいいいいいい!!羨ましい!!それなのに断るなんて信じられない!!」
「カイザー様のお誘いを断るなんて許せないわ!!」
その瞬間、辺りの女性達が阿鼻叫喚。断った七海たちに対して非難轟々の嵐。
こいつの性格云々は置いといて、アメリカではとても人気があるらしいな。流石アメリカ最強と言われる探索者の一人だ。
「えっと、僕の耳がおかしくなったのかな?もう一度返事を聞かせてくれるかい?」
誘いを断られるとは思っていなかったのか、まさかそんなことありえないとでも言わんばかりの表情をして、カッコつけるように一度前髪を書き上げてから再度四人に尋ねた。
「だから嫌だよ。キモいし」
「嫌。気持ち悪い」
「私もパス。興味ないし」
「私も遠慮させてもらいます」
四人は素気無く断る。七海とシアは嫌悪感を隠すことなく、天音は言葉の通り興味なさげに、零は申し訳なさそうな表情で。
「ぐはぁ!?」
再度断られて精神にダメージを受けたらしく、胸を押さえて後ずさり、カイザー苦しげな表情では片膝をついた。
「お兄ちゃんいこ。時間が勿体ないよ。あ、サンダーネット!!」
「ん。無駄」
「そうねぇ。グループに声かけるのが間違ってると思うわ」
「予定が崩れると困るからね」
四人ともカイザーが膝をついているのなんてどうでもいいとばかりに、カイザーの横を通り過ぎて先へと進む。俺もその背を追って駆け寄った。
周囲のギャラリーはカイザーが誘いを断られて膝をついた所も、誘いを断った挙句、カイザーを放置していく俺達の行動にも衝撃をうけたようで、誰もその場を動くことが出来なかった。
七海は携帯を構えている人間がいることに気付き、俺達以外に向かってごく小規模な雷を走らせ形態を破壊することを忘れない。
出来た妹だ。
全員呆然としていたため、そのことに言及する人もいない。
「次は何に乗ろっか?」
「エブリデイマウンテン」
「面白そうね」
「楽しみだわ」
追いついた四人はカイザーの事などなかったかのように、記憶の中から消し去り、次に乗るアトラクションの話をしていた。
カイザー……哀れな奴だ。
しかし、こんなことをして本当に大丈夫なんだろうか。
仮にもアメリカ最強なんだし。
まぁ考えても仕方がないか。
俺は考えるのを止めて四人の話に混ざる。
「それはどんなアトラクションなんだ?」
「えっとねぇ……」
俺がこれから乗るアトラクションについて尋ねると、七海が嬉しそうに語りだす。
「待ちたまえ!!」
しかし、数メートル程離れた時、後ろから呼び止める声が聞こえた。
カイザーの声だ。
ただ、誰一人として七海たちはその言葉に止まらなかった。
「待ちたまえと言っている」
バサァっと王子然としたマントを閃かせて俺達の前にカイザーが降り立つ。
「はぁ……一体何なの?邪魔なんだけど?」
七海はせっかくのディスティニーランドでの時間がカイザーのせいで無駄に消費されていくのが我慢できないらしく、かなり怒り心頭だ。
「全く口が減らない女の子だね?僕がその気なら君なんてどうとでも出来るんだよ?」
七海の物言いが気に入らないのか、オーラを放出させ、武力で脅そうとするカイザー。
あ゛ぁ゛?こいつ今七海になんて言ったんだ?
しかし俺にはカイザーのオーラなんて七海への暴言の前にどうでもいいことだった。
「あ~あ、知らないよ?お兄ちゃんって私の事大好きだからあんた終わったよ」
「はははっ。あんな冴えない男に何がで……き……ると……」
七海は頭の後ろで手を組んで、呆れるようにカイザーに吐き捨てると、笑いながら俺の方を向いたカイザーの表情が嘲笑から驚愕へと変わる。
「おい」
「な、なにかな?」
俺が七海とカイザーの間に入り込み、カイザーを下から睨みつけると、大汗をかいて顔を引きつらせて俺の声に返事をする。
「七海を脅して唯で済むと思ってんじゃないだろうな?」
「このアメリカ最強の僕に喧嘩を売るのかい?」
俺の質問に質問で返すカイザー。その顔には緊張なのか汗が浮かんでいる。
こいつは何を言ってるんだ?
自分が最強だからと言えば俺が引くとでも思ってるのか?
バカな?妹を怖い目にあわされて兄貴がたかだか最強ごときで引くわけないだろうが。
「当然だろ?妹を脅されて黙ってる兄がどこにいるんだ?」
「はははっ。いいよ、軽く相手をしてあげるよ」
「後悔するなよ?」
唐突に俺とカイザーは戦うことになった。
「ウォンッ」
しかしその時、いつぞやのようにラックが声と共に俺達の前に現れて、俺の方を振り返る。
「おい、ラック!?いったいどうしたんだ?」
「ウォンッ」
俺が突然姿を現したラックに驚きながら問い帰ると、ラックは説明を始めた。
「何!?カイザーごときの相手は自分に任せろだって?おいおい、相手はアメリカ最強なんだぞ?お前じゃ勝てないだろう?」
「ウォンッ」
「何?レベルが上がったから大丈夫だ?はいはい、分かった分かった。まずはお前に任せるよ」
相手はアメリカ最強の探索者だ。ラックじゃ勝てないと諭したんだけど、ラックがどうしてもいうので一番手は任せることにした。
「僕の相手が犬だって?ふざけるのも大概しろ!!」
「お前こそラックを舐めるなよ?ラックは凄い能力を持っているんだからな」
カイザーが俺達の対応にキレた。
しかし、流石にラックを舐めすぎだろ。
「ラック任せたぞ!!」
「ははははっ。犬の攻撃が当たる訳がぶへぇええええええええ!!」
―ズザザザザザザザーッ。
いつでもかかって来いと言わんばかりの表情のカイザー。しかし大した事が無いと思っていたカイザーは、あまりに早いラックの攻撃に当たり、後方へと。
『えぇえええええええええええええええええええ!?』
周りからは信じられないという響きの叫びが辺りに散らばった。俺も一緒になって声を上げている。
いつしかウチのペットは俺よりも遥かに強くなってしまったらしい。
俺は遠い目で空を見上げ、悲しみに地面を濡らした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます