第261話 羞恥のテーマパーク

「さ、流石にこれは恥ずかしいわ」

「ば、罰ゲームとはいえ、布が少なすぎないかしら」


 目の前には二匹のサキュバス、もとい俺のパーティメンバーである天音と零がサキュバス防具に身を包み、自分の体を捻ってあちこち確認して恥ずかしそうに顔を赤らめる。


 二人は本来の種族がサキュバスなんじゃないかと思わせるほどに、その装備が良く似合っていた。


 装備からはみ出しそうなほどに成長した二つの果実と、ニーハイソックスのような履物が食い込むむっちりとした太腿。そして、露出している脇に、なぜか蠱惑的な口紅でも塗っているかのように艶やかな唇。


 どれをとってもあまりに強力が色香が放っている。


 それもそのはず。水着以上にかなりきわどい造りのこの防具は、RPGゲームにあるエッチ装備そのもの。どう見ても普通の羞恥心を持っている人間は着ることが出来ない代物だった。


 一体だれがこんなものをダンジョンの宝箱に仕込んだのか小一時間程問い詰めたい気分である。


 ただまぁ、俺がいるにも関わらず、そうやって確認をする姿はとってもエッティなので許してやるか。


「それじゃあ、合流場所に行くか」


 全員が起床し、朝ご飯を食べ、体をキレイにして着替えを終えた俺達は、そろそろいい時間なのでジャック達との合流のため、出発することにした。


「ホントにこの格好でいくの?」

「あったりまえだよ!!罰ゲームなんだからね!!」

「はぁ……分かったわ」


 俺の言葉に反応して七海の方を悲し気に見つめる天音だけど、七海はそんな天音の懇願する様な表情を諸共せずに、譲ることはなかった。


 天音は諦めたようにため息を吐いた。


「天音ちゃん。大丈夫。一人じゃないわ。二人だからなんとかなるわよきっと」

「零……そうね。一人じゃないものね。ありがとう。このくらいなんてことないわ!!」


 落ち込んでいる天音を慰めるために手を置く零に、しばし目を瞑って何やら考えた後、零に感謝して開き直っていつもの調子を取り戻した。


 それでこそ天音だと思う。


『おはようございます!!え!?』


 天音が元気になったので早速合流地点に向かい、ジャック達は到着するなり、天音と零の格好を見て驚愕に二度見した。


「気にしないでくれ。昨日ゲームで勝負して負けてその罰ゲームをしているだけだ」

「罰ゲームですか……ゴクリッ」

「ゴクリッ」


 二人は俺の言葉に改めて天音と零の格好を上から下まで舐めるように見る。天音と零は思わず俺の背中に隠れた。


 そんだけ凝視されたらそりゃあ隠れもする。


「あ、ただし、あんまりじろじろ見ないでくれよ?同じ男として気持ちは分からなくもないけどな」

「りょ、了解です!!」

「う、うっす!!」

 

 俺の言っていることが中々難しいことは分かっている。女性があんな格好をしていれば否でも眼がいっちゃうのは男の悲しい性。それでも同じパーティメンバーとして言っておかなければならない。


 二人は俺の言葉に兵士のように敬礼して答えた。


「そういえば、エモーショナルスタジオとディスティニーランドってここからだとどっちが近いんだ?」

「えっと、ディスティニーランドは二つあるんですけど、片方はエモーショナルスタジオとほとんど同じ場所にありますよ」


 両者の位置関係が分からなかった俺はジャックに尋ねると、近くに二つまとまっていることを知る。


「そうか、それならそっちに行くか。今回はそっちしかいけなさそうだけど、七海はそれでいいか?」

「うんいいよ!!」

「分かった」


 七海に確認を取ると、問題ないというお言葉を頂いたので、俺はジャックにエモーショナルスタジオの位置を確認して、ラックの影転移で近くの人気のない場所に移動した。


「はぁ~」

「ふぃ~」


 移動するなり挙動不審になるジャックとジョージ。


「どうかしたのか?」

「あ、いや、この転移には中々慣れないなぁと思いまして」

「そうです。気づいたら何百キロも離れた場所にいるんですから」

「確かに言われればそうかもしれないな」


 二人に不思議そうに尋ねたら、転移の凄さに未だに頭がついてこないらしい。


 俺達はラックが便利ってことを知ってるから、ラックなら出来て当然という感じで受け入れていたけど、本当に凄い事なんだよな。


 ラックを従魔にできた俺はやっぱり運がいい。


「移動時間がなくなって便利だろ?」

「そういうレベルの話じゃないと思うんですけど……」


 ニヤリと笑う俺に苦笑いを浮かべるジャック。


「そういうレベルの話にしておけってことだ」

「なるほど。確かにその方が良さそうですね」


 俺は彼の肩をポンポンと叩いて諭すように笑う。その意味を理解したジャックは俺の言葉に同意して首を縦に振った。


「おい、あの日本人の二人ヤバくないか!?」

「ああ、エロ過ぎるな!!」

「コスプレか何かか?」

「相変わらずぶっ飛んでんなジャパン!!」


 俺達がエモーショナルスタジオに辿り着くなり、案の定二人は格好の的となってしまった。


「だ、大丈夫か?」

「こ、これくらいなんでもないわ!!」

「え、ええ。これくらい問題ないわよ」


 完全に衆目を集めて羞恥で顔を真っ赤にしている二人。


「辛いなら七海に言ってやるぞ?」

「ふん。女に二言はないのよ!!」

「その通りよ。約束を破ったら女が廃るわ」

「そ、そうか」


 俺が提案したけど、断られてしまった。やせ我慢なのが見え見えだったけど、彼女たちの意志を汲んでそれ以上は何も言わなかった。


 俺達は一日エモーショナルスタジオを満喫した。


「もう何も怖い物はないわ」

「そうかもね」


 一日罰ゲームをやり切った二人の言葉には凄く実感が籠っていた。

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