第258話 負けられない戦い再び

 少々ハプニングはあったものの、俺達はバナナボートは封印し、海で泳いだり、砂で芸術を作ってみたり、砂に埋まってみたりして海を満喫した。


 いつもと大して変わらないけど、海で食べるバーベキューや焼きそばはまた格別だった。


「つっかれたぁ!!」


 七海はにっこにことした笑みを浮かべまま砂浜に豪快に横になる。その笑みは今日一日海を堪能して満足したであろうことがありありと分かる程に清々しいものだった。


「海楽しい」


 シアも初めて海でちゃんと遊んだらしく、満足げに頬を染め、アホ毛もサムズアップしている。


「ひっさしぶりかも。こんなに海楽しかったの」


 天音も砂浜に腰を下ろし、後ろに手をついて少し上体を逸らして空を眺めながら呟く。


「私もそうかもしれないわね。視線とか苦手だから」

「あぁ~分かる。じろじろと嫌な視線が纏わりついてくるのよね。その点ここには他に誰もいないし。普人君はたま~にエッチな視線で見てくるくらいでじろじろ見てこないから不快じゃないし。それは大きいね」


 零もその隣に腰を下ろして天音に同意するように呟き、楽しめない理由を述べ、天音も零の言った理由に同意しながらうんざりしたような顔で返事をする。


 天音はバインバインで容姿もいいし、零も今は勿論昔も美少女で同じくバインバインだっただろうから、沢山の男達の邪な視線に晒されてたんだろうなぁ。


 仮にそれが自分だったと思ったら、それは確かにおちおち楽しむことに集中することは難しいかもしれない。


「ほら、こんな風にね」


 天音が胸の下に手を入れて意図的に胸を持ち上げて俺の目の前で強調すると、思わず目が吸い寄せられる。


「ふふふっ。分かりやすいわね」

「し、仕方ないだろ。これは男が抗えない本能なんだよ」


 俺の反応を微笑ましそうに笑う零に、俺は慌てて言い訳をする。


 そんな凶悪なメロンが目の前にやってきたら、そりゃあ俺も男なので無意識に目を奪われてしまうのは勘弁してほしい。


「ふふふっ。男の人はホントオッパイ好きよねぇ。こんなの重くて肩が凝るだけなのに。無くせるなら無くしたわ」

「ホントよね。無くなって欲しいとまでは思わないけど、もう少し小さくてもよかったのにとは思うわ」


 からかうような視線を俺に向けながら、自分の胸をつんつんと指の先で突っついて見せ、零も苦笑いを浮かべながら同意した。


 天音の指が突っつくたびに柔らかそうに沈み込むのを見て「これがOPPAIか、凄い!!」と思った。


「ぶぅうううううっ!!今二人が私に喧嘩を売った!!」

「ん!!」


 しかし、今の二人の言葉はちっぱい組には看過できなかったらしく、二人は立ち上がってプンプンと怒り出した。シアのアホ毛も怒りマークを大きくしたり、小さくしたりしたりしている。


「ここはあそこの岩まで行ってタッチしてどっちのチームが早く帰って来れるか勝負だよ!!」

「勝負!!」 


 そして入り江の先にある大きな岩を指さして二人に勝負を挑んだ。


「ふふん。私達に勝負を挑むとはいい度胸じゃない。返り討ちにしてあげるわ」

「楽しそうね。私も受けて立つわ」


 天音と零も楽しそうにその勝負を受ける。


 一体どうしてそうなったのか分からないけど、そこには女として譲れない何かがあるんだろう。


 俺はそのまま見守ることにした。


「負けたチームは勝ったチームの言うことを一つ聞く。これでどう?」

「分かったわ」

「お互い妨害は無しね。お兄ちゃん審判よろしくね」

「了解」


 七海が条件を出し、天音がそれを飲む。他の二人も問題ないようだ。


「それじゃあ、スタートはここからな」


 俺は立ち上がって砂浜もちょうどいい場所にスタートラインを引き、四人に指示をすると全員が頷く。


「お姉ちゃん、私から行くね」

「ん」


 七海が一番手に名乗りを上げ、シアが頷いて了承する。


「それじゃあこっちは私が先に行くわね?」

「ええ任せたわ」


 天音と零チームは、天音が一番手らしい。


「それじゃあ、位置について」


 準備が整ったところで、俺が指示を出し、二人がスタートラインの所で構えを取る。


「よーい」


 俺の言葉で辺りを沈黙と緊迫した雰囲気が包み込んだ。


「どん!!」


 俺の合図と同時に二人は走り出す。


 しかし、やはり身体能力の高い物理系探索者の天音が七海を引き離していく。


「ふふふっ。私にスポーツで挑んだのが間違いだったわね!!」


 天音は七海の方を振り返ってニヤリと笑って挑発する。


「あはははっ。それはどうかな」


 七海は不敵な笑みで返事をした。


「ふふん、何を考えているか知らないけど、せいぜいあがくことね!!」


 天音は負け惜しみだと思ったのか、ぐんぐんと差を開いて海に飛び込んで、クロールで七海を引き離す。


 遅れること数秒。七海は波打ち際まで辿り着いた。


「アイスピラー!!」


 七海は杖を使わずに魔法を唱えると、空中に氷の柱が現れて海に落ち、足場となった。


 七海は次回からは無詠唱でアイスピラー唱え、次々足場としてぴょんぴょんと飛び跳ねていく。


「あぁああああ!!ズルい!!審判反則じゃないの!?」

「ルールに魔法禁止はないからな。問題なしだ!!」


 天音は隣を追い越していく七海を見て、大声で俺に抗議してきたけど、俺は問題ないと首を振る。


「このシスコン!!」


 そしたら何故か天音に罵倒された。


 泳いで岩まで行くということは一切言ってなかったし、魔法を禁止もされていないので、ルール上何も問題ない。


 だからこれは贔屓しているわけじゃない。

 つまり俺はシスコンではない。


 勿論七海の事は可愛いけど、普通の兄妹のはずだ。


「こうなったらやけくそよ!!やぁあああああああ!!」


 ルール違反を認められなかった天音は先ほどまでとはくらべものにならないくらいのスピードで泳ぎだす。


 徐々に七海に迫っていく。


 その間に、七海は岩にタッチをして折り返して俺の方に戻ってきていた。


 七海の背に迫る天音。逃げる七海。


 徐々にその差は詰まっていき、交代する頃にはほとんどその差が無い状態となった。


「お姉ちゃん、後は任せたよ!!」

「ん!!」

「零。後は頼んだわ」

「任せて!!」


 ほとんど同時にタッチをして交代した二チームは海にも同時に入り込む。


 誰もそう思っていた。


「ん!!」


―ドンッ


 海に入って足がつかない程深くなる前に、シアが少し力入れて海底を蹴り、かなり本気で走り出した。


 その時には零は泳ぎだしていたのでそれを見るだけだったんだけど、そこにはありえない光景が広がっていた。


『えぇえええええええええええ!?』


 その光景に全員が驚きの声を上げる。


―ザザザザザザザザザザッ


 そのあり得ない光景とはシアが海の上を走っていたからだ。


 確かに探索者の身体能力を考えればできなくはないのかもしれないけど、その発想はなかった。


 皆が驚いている間にシアは岩へとたどり着いた。


「流石に無理だわ……」


 そのスピードに既に海を泳いでいた零は諦めてしまった。


「やったぁ!!お姉ちゃん凄い!!」

「ふふん。お姉ちゃんは凄い」


 勝負はそのまま七海たち、ちっぱい組―シアは別に小さくはない―が見事勝利することになった。

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