第257話 怪盗ポロリ

 

「あんなのは放っておいて海に入りましょ」

「はーい!!」

「ん」

「流石にサキュバスはね……」


 女性人は砂に埋もれた俺をその場に放置して海に遊びに行ってしまった。


「ふぅ……えらい目にあった。皆、ひどいよな?ラック」

「ウォンッ」


 砂から這い出して体の砂を払うと、俺に寄り添うようにやってきたラックが俺に頭をこすり付けて慰めてくれた。


「ははははっ。やっぱ俺の味方はラックだけだぁ」


 俺はラックを抱きしめてモフモフに癒された。


 ラックと一緒に黄昏ながら、七海達が遊んでいるのを体育座りをして眺める。水際で足をちょんちょんとつけて冷たそうにしてはしゃぐ女の子達。七海が率先して海に入っていって、皆に水を掛ける。皆も負けじと入っていって水を掛け合いに発展していく。


 照り付ける太陽に水しぶきがキラキラと光で反射して、可愛らしい女の子達がキャッキャウフフと楽しんでいる光景。


 尊い。


 まるで男子禁制の聖域。あそこに男の俺が入る余地はないのではないだろうか。


「お兄ちゃーん!!早くおいでよ!!」


 そんなどうしようもないことを考えていると、俺にお許しが出たのか、手を振る七海に呼ばれたので俺とラックも海辺に駆け寄った。


「それ!!」

「うわっ。冷て!?」


 俺が近づくなり、天音が水しぶきを俺に飛ばす。海水は結構冷たくてびっくりした。


「ふふふ、人をサキュバスとか言った罰よ」

「悪かったって。天音も凄く可愛いよ」

「そ、そう。それなら許してあげる」


 冷たがる俺をバカにしたように笑う天音に、謝罪しながら俺はもう一度褒め言葉を言うと、天音は少し照れたように目線を逸らして髪の毛をいじりながら俺を許してくれた。


『イチャイチャ禁止!!』

「きゃ!?」

「のわぁ!?」


 天音と話していると、他の三人の声と共に物凄い量の水が俺と天祢に襲い掛かった。結果、俺と天音はずぶ濡れになった。


「ふふふふっ」

「あはははっ」


 俺達はお互いにびっしょりと濡れた姿を見合って大声で笑う。


 それだけでお互いにこれからやりたいことが分かった。


「やったなぁ!!」

「よくもやったわね!!」


 俺と天音は結託して水を皆に掛ける。


「キャー!!」

「逃げましょ!!」

「ん!!」


 皆はそれぞれ走って逃げ回る。それからしばらく俺達は三人を追いかけまわしながら水を掛け合ってはしゃいだ。


「はぁ……はぁ……次なにしよっか」


 満足するまで水を掛け合った俺達は次に何をするか考える。


 海って水浴び、砂いじり、ビーチボール、浮き輪で漂う、日焼け。その程度しか遊ぶことってない気がするんだよな。


 あ、でも、ダンジョン用品を買いに行った時に進められて買ったものがあったな。


「そういえば、こんなものを買ってみたんだけど、乗ってみるか?」

「あ、バナナボートだ!!」


 そう、俺が出したのはバナナボートと呼ばれる乗り物だ。


 バナナの様な形をしていて、複数の人数が跨って乗れるようになっているボート型の浮き輪のような物だ。


 よく水上オートバイやモーターボートで引いてもらい、バナナボートにしがみついて海に落ちないように海の上を走ることで有名な乗り物だ。


「よくそんなのもってたわね」

「こんなこともあろうかと買っておいたんだ」

「中々そんなことなんてないだろうけど……まぁ悪くはないかもね」


 呆れるように俺を見る天音に、店員に勧められて断り切れずに買ったなどと言えない俺は適当に言い訳したら、全く仕方ないなとでも言いたげな表情で彼女は俺を見た。


「それで、バナナボートはいいんだけど、それって水上オートバイとかモータボートで引くものだと思うだけどどうするの?」

『……』


 零の至極当然の指摘に全員が沈黙する。


 いや、何か解決策があるはずだ…………あ、そうだ!!


「俺に紐を巻き付けて引いてみるよ」


 俺が妙案を述べる。


 多分探索者としての力を使って泳げは問題なく引けると思うんだよな。


「え?」

「はっ?」

「へっ?」

「ん」


 自身満々に言った俺だったが、皆は驚いて間抜けな顔を俺に晒した、シア以外は。


「いやいや、探索者だし、モーターボートくらい早く泳げるかもしれないだろ?」

「確かに可能かもしれないけど……佐藤君はそれでいいの?」


 皆がそれは無理みたいな感じの顔をしているのでちゃんと説明すると、零が俺の仮説を肯定しながら俺の意志を確認する。


「ああ、俺は全然かまわない。皆が楽しんでくれるならそれいいさ」

「わ、分かったわ。それでやってみましょ」

「了解」


 零が許可してくれたのでバナナボートを浮かべて俺に紐で巻き付け、俺は海に入っていく。


「準備は良いかぁ?」

「いいよぉ!!」


 俺がバナナボートよりも十メートル程先から声をかけたら、一番先頭に乗っている七海が手を振って答えた。


「一丁やりますか」


 俺は寮頬を叩いて気合を入れて泳ぎ始めた。


「うぉおおおおおおお!!」


 俺はクロールでボートを引っ張る。


「あははははっ。はやいはやーい!!」

「面白い」

「ホントに引いてるし!!」

「凄いわ!!」


 俺は泳ぎながら後ろをちらりと振り返って見るとちゃんと水しぶきを上げてボートがバシャバシャと海を掻き分けて進んでいるのが見えた。


 七海達もそのスピードに概ね満足そうだ。


「もう少しスピード上げてみるか」


 俺はさらにスピード上げて泳ぎ出し、円を描くように泳いで最終的に入り江に戻ってきた。


『あはははははっ』


 後ろでは皆がその速さに笑っている。


「どうやって止めたらいいんだろ?」


 俺が入り江で足の着くところまで帰ってきたらうっかり止め方を忘れていた。


『きゃー!!』


 引っ張る力がなくなったボートはバランスを失い、横転してしまった。


『おおーい。大丈夫か!!』


 俺はすぐに横転した場所に駆け寄る。


―ザバァアアアンッ


 勢いよく立ち上がる四つの影。どうやら全員無事らしい。


「お兄ちゃんひどいよ!!」

「ん!!」

「最後考えておきなさいよ!!」

「ちゃんと最後まで責任もちなさい!!」


 全員から俺は抗議を受けた。


 しかし、その姿を見た瞬間を俺は視線を逸らした。


「目を逸らさないでお兄ちゃん!!」

「ん!!」

「そうよそうよ!!」

「こっちを向きなさい!!」


 しかし、目を逸らしたのが責任逃れだと思われたのか全員に叱責される始末。


「い、いや、三人ともそれ……」


 俺は目を逸らしたまま目元に手を当てて海に浮かぶ三つの布を指さした。


『~~!?きゃぁああああああああ!?』


 俺の指摘によって自分の置かれている状況が分かった天音と零は、露わになってバルンバルンと揺れる二つのビーチボールを両手で隠して海に体を沈めた。


「シアも隠そうな?」

「ん」


 なぜか堂々と俺の前に立っているシア。


 俺が目のやり場に困るのでお願いすると、シアも両手で隠して水に沈んだ。


「七海、全員に水着を拾って渡してやってくれ」

「なんで私はポロリしないのぉおおおおおお!?」


 唯一セパレート水着の七海に皆の水着を拾ってやるように言ったら、なぜか自分だけハプニングに見舞われなかったことを嘆いて叫んだ。


 兄として甚だ心配になった。

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