第253話 ヒーローはきっとくる(第三者視点)

「上手くいったな」

「ああ」

「全く聖女様も無防備が過ぎるぜ」


 覆面を被った男達が互いに顔を突き合わせて雑談をしている。


「……」


 その男たちを醒めた目で見つめる白い神官服に身を包んだ少女が居た。


 聖女と呼ばれるほどに卓越した回復術師ヒーラーであり、すでにBランクの実力を身に着けている探索者であるノエルである。


 彼女は今飛行機の座席に座らされ、探索者でも簡単には破壊できないダンジョン産の手枷を嵌められていた。


 目の前にいるのはたった三人だが、飛行機内に居る敵の総数は不明。


 しかもそれなりに手練れの探索者達であり、ノエルをもってしても逃げるのは厳しかった。そのため彼女は大人しく席に座らされたままとなっていた。


「それで?あなた達の目的はなんですか?」


 動けない以上、目の前の男達から情報を集めるしかないと思ったノエルは、彼らに話しかける。


「聖女様は攫われたっていうのに悲鳴一つ上げないんだな?」

「別にそれほど悲観するような状況でもないですし、慣れてますですよ」

「ははぁ。これは恐れ入った」


 ノエルに尋ねる男。その覆面から露になっている目がニヤニヤと歪んでいるのが分かる。しかし、ノエルは男の挑発にも乗ることはなく、淡々と事実を話した。


 ノエルの反応に覆面を男は額に手を当てて仰々しく驚いたふりをする。


 実際ノエルは逃げることはできないが、彼らにノエルをどうこうする気がないと分かっていた。なぜならノエルの力を必要としているからだ。


 ノエルに死なれて困るのは男達の方であった。


「それで答えは?」

「エジプトで聖女様がやったことをウチの国でもやってもらおうと思ってな?」

「別に報酬を支払ってくれるなら引き受けるですよ?」

「今ウチの国にそんな余裕はないのさ」


 男の答えにノエルは納得した。


 自分はまた少しやり過ぎてしまったのだと。


 派手にやり過ぎたせいでエジプトにいた海外の勢力に目を付けられて隙をついて攫われてしまったわけだ。


「なるほど、理解したですよ。別に逃げはしないからこれを外してほしいですよ」

「それはできない相談だな。何をされるか分かったものじゃない」


 自分が置かれている状況を理解したノエルは従っていれば問題ないと考え、手枷を掲げて頼むが、覆面の男は両手を雨が降っているのを確認するかのように上げ、肩を竦めて答えた。


「何もしないですよ。私にあなた達をどうにかする力はないですよ」

「念には念をってことさ。大人しくしておいてくれ」


 実際相手は手練れの探索者。全員がBランク以上の魔力を持っていることをノエルは感じていて、特に何もする気はなかった。


 ただでさえ敵の戦力は不明。その上空の牢獄である飛行機の中とくれば逃げ出すのも容易ではない。


 だから少しでも居心地を良くしようと思って願い出たが、やはりと言うべきか、その願いが聞き届けられることはなかった。


「わかったですよ。やることやったら解放してくれるですよね?」

「さて、そこは俺達には分からん。上次第と言った所だろうな。聖女様には悪いがな」

「はぁ……それは困ったですね」


 ならばと次の質問を投げかけるノエル。


 返ってきた答えに、目の前の男たちは実行犯ではあるが、指示をした主犯は別の所にいることを理解する。


 ノエルは面倒な事態になったとため息を吐いた。


 それもこれも自分の困った人を放っておけない性格が災いしているのだが、それが自分の性格であると理解しているため、性格のせいにするつもりはない。


 それに困っていることを助けるのは日本のアニメでよくある話だ。できるだけ自分もそのアニメに出てくるヒーローやヒロインのようでありたかった。


 ただ、そのせいで食糧事情の改善や怪我人の治療にずっと縛りつけられて憧れの日本に行けないのでは困る。


「こういう時、ジャパニメーションのようにヒーローが助けてに来て欲しいですよぉ。どこかにいないですかねぇ……」


 ノエルは窓から空の景色を見ながら独り言ちる。


 ノエルは自分が困った人を助けないと気が済まない反面、自分が窮地に陥った時に颯爽と助けに来てくれるヒーローをいつも夢想していた。


 私もあんなふうに助けられたい。


 そんな少女じみた願望を心の中に秘めているのだ。


「ははははっ。あきらめなって聖女様。そんな奴はいねえよ。少なくともあんたの周りには俺たち以上の最高戦力が守りに付く。突破できるやつなんてほとんどいねぇさ」

「むっ、私がどんな状況になっても助けてくれるのがヒーローなんですよ?世界のどこかにいると私は信じてるですよ!!」


 ノエルの独り言を拾った覆面の一人が聖女をバカにするように言い放つと、ノエルはムッとして言い返す。


「それはそれはめでたい願望なこって。まぁせいぜい大人しくしてることだ。命令に従っている限りは悪いようにはされないからな」

「分かってるですよ」


 さらに小ばかにする覆面男の一人に、ノエルはもう話したくないとばかりに窓の外に視線を向けて黙り込んだ。


 絶対に自分を助けに来てくれるヒーローがいると信じながら。

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