第252話 グラキャン△
「ほわぁ……良い眺めぇ!!」
七海は額に手を当てて庇を作り、きょろきょろと下を眺めて感嘆の声を上げる。
俺達は今ジャックの案内の元、グランドキャニオンの威容を一望できる展望台へとやってきていた。辺りには世界中から観光にやってきた人達が数多く訪れていて、日本人もちらほらと目に入る。
「なんだか、世界ってマジでデカいよな」
「ん」
俺と一緒になって初めてここを訪れるシアは、少し目を細めて風景を眺め、俺の言葉に同意する。
目の前には自然の力で形成された世界最大規模の大峡谷が広がり、大自然の力をまざまざと見せつけられ、自分のちっぽけさを思い知らされた。人間には到底作る事の出来ない景観だった。
「久しぶりだけど、やっぱりこの光景には圧倒されるわね」
「本当にそうね」
一度訪れたことのあるらしい零と天音は、それでも目の前に広がる光景に見入っていた。
「どうですか、ここは地元でもここから見渡すグランドキャニオンが一番綺麗だと言われてるんですよ」
「ああ。お前たちに連れてきてもらって良かったよ。ありがとう」
暫く眺めていると、ジャックが俺に話しかけてくる。最初こそ出会いは最悪だったけど、今ではこいつらに出会ったことを感謝した。
「ははははっ。喜んでももらえてよかった。でもグランドキャニオンは実際に渓谷を歩かないとその本当の魅力は味わえません。どうしますか?」
「うーん。どうする?」
どうやらグランドキャニオン内を歩いた方が沢山の魅力を体験できるらしい。ただ時間もあるのでどうするか決めかねる。
そこで皆の意見を尋ねた。
「私は行ってみたいなぁ」
「行ってみたい」
「私は任せるわ」
「そうねぇ。佐藤君が転移で日本に戻ってくるまで何回くらいかかったのかしら?」
七海とシアは興味津々で行きたがり、天音はどっちでもオッケーと言う答えだけど、零だけは調査があるので俺に質問する。
「確か二十三回だったと思う」
「なるほどね。国土が広いところは二、三日滞在して、それ以外は一日だけという感じなら問題ないかしら。ここに長く滞在したいなら他の大きな国で調整すればいいと思うし」
おお……。思ったよりもハードなスケジュールになりそうだ。
「大きな国以外はほんのちょっと観光できればいいなくらいだな。休みが倍くらい欲しい」
「ふふふっ。それは言っても仕方ない事よ。学校卒業したら思う存分色んな所に行ったらいいわ」
「そうだな」
休みがもっと欲しいとぼやく俺に零は可笑しそうに笑って答えた。俺は釣られるように口端を吊り上げて頷いた。
「零が言うにはここに滞在する分、他の国が短くなるということだけど、それでいいか?」
「問題なーし!!」
「ん!!」
「私も良いわよ」
全員の了承が得られたことで俺達はグランドキャニオンに足を踏み入れることになった。
「ふぅ。皆さん流石ですね」
「ほんとっす」
ジャックとジョージは汗一つかかず、息が乱れることもなく自分達ついてくる俺達を見て、じっとりと汗を滲ませ、少しだけ息を上げて感心するように呟く。
俺達はジャックとジョージの先導を受けてグランドキャニオンをハイキングしている。一般人なら山登りも苦労するところだけど、俺達探索者なら何の問題もない。
七海だけは一番レベルが低いし、魔法系の探索者なのでラックに乗せている。ロデオにでも乗っているみたいな感覚なのか七海ははしゃいでいた。
「俺たちなんて低ランク探索者だから大したことないだろ。いやぁそれにしてもグランドキャニオンを実際に歩いてみると、さっき展望台からみた絶景とはまた違った風に見えるな」
「そうですね、来た人は皆そう言います。日の出と日の入りはとんでもなく綺麗なので楽しみしていてください」
「おお!!それは楽しみだ」
俺達はその絶景を拝めるベストスポットに向けてさらにグランドキャニオン内を駆けるのであった。
「そろそろ頃合いですね」
「うわぁ!!これテレビで見たことある!!」
暫くの間ハイキング楽しんだ俺達は日の入りの三十分ほど前から景色を一望できる場所でその光景を眺めていた。
元々赤褐色の岩壁にさらに夕暮れの太陽の光が反射して一面オレンジ色に染まり、まるで黄金のように輝く景色はまさに圧巻。
七海はテレビで見たことがある光景にはしゃぎ、しかしテレビでは伝わってこない臨場感と直接見る迫力はまさにここにやってきた人間だけが見ることが出来る特権といった所だ。
「それじゃあ、キャンプ場に向かいますか」
『了解』
日が沈むまで無言でその光景を見続けた俺達は、ジャックに動かされてようやく動き出した。
『はぁああああああああああああああ!?』
キャンプ場でジャックとジョージにいつもの反応を貰った後、グラキャン飯を堪能した俺は、ふと星空を見上げた。
そこには俺の地元よりもハッキリと見える満点の星空が広がっていた。
「皆星空が凄いぞ」
「あぁ~ホントだぁ!!」
「綺麗」
「うわぁ、ホントね。私も見たことがなかったわ」
「これは凄いわね」
俺は感動を分かち合うために皆にも教えてやると、全員が空を見上げて感嘆の声を漏らす。
俺達の間には、再び沈黙の帳が下りた。しかし、それは嫌なものではなく、とても暖かなものだった。
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