第254話 世にも珍しいダンジョン
「ふぁぁあああああ!!夕方も凄かったけど朝も凄いねぇ!!」
「眩しい」
「ホントこれは目が覚めるわね」
「前に来た時これは見てなかったから、衝撃的ね」
俺達は次の日、日の出前におき、青味を帯びた赤褐色の風景がゆっくりと真っ白に染まっていく光景を眺め、地平線の彼方から太陽が顔を出して、グランドキャニオンを真っ白に染め上げた時は思わず言葉を失った。
人生に一度は見ておいて損はない光景だと思った。
「さて、見る物は見たし、次はどこに行く?」
「エモーショナル・スタジオかディスティニーランド!!」
「ダンジョン」
グランドキャニオンをこれでもかと堪能した俺達は、次に行先を考える。
七海が行ったテーマパークはどちらも一日がかりどころか全て楽しもうと思ったら数日はかかるような場所だ。
ダンジョンに関しても同様でランクによっては階層が深く過ぎて、戻ってくるのに一日以上かかってしまう。
全部回るにしてもそれぞれに一日ずつが限界だろうなぁ。
そして全部回ればそれだけでアメリカに四日。他の所での日程調整は確実にやらないといけない。
「ジャック、今挙がった中でここから一番近いのはどこだ?」
「それならダンジョンですね。しかも世にも珍しいナチュラルダンジョンです」
ひとまず近い順回っていくの良いと思い、ジャックに尋ねると聞き覚えの無い単語が返ってきた。
「ナチュラルダンジョン?」
「日本にも三カ所だけしかないけど、その土地そのものがダンジョンになった場所のことをナチュラルダンジョンって呼ぶわ」
首を傾げる俺に零が間髪入れずに説明してくれる。
流石だ。
「イメージがつかないと言った様子ね。日本だと鳥取砂丘と青ヶ島、屋久島の白谷雲水峡の三つね。あそこが景観がそのままダンジョン化したと思えばいいわ。土地が破壊されても時間経過で元に戻る場所で、しかもモンスターが一定の範囲から外に出ようとしない不思議な場所になっているわ」
「へぇ~。なるほどな」
キョトンとした顔でもしていたのか、俺が分かっていないことを見抜いて詳しい説明をしてくれる零。
やっぱり頼りになるなぁ。
話を聞く限り景観が美しい場所がダンジョン化している気がするけど、アメリカだとどこになるんだろうか。
「ジャック、近くのダンジョンってどこになるんだ?」
「アンテロープダンジョンですね。以前はアンテロープキャニオンと呼ばれていましたが、ダンジョン化に伴い、その辺り一帯を管理していた部族が壊滅してしまい、今となっては国が管理しています」
へぇ、そんな場所があるのか。そこも日本のナチュラルダンジョンの例を鑑みるに、とても美しい景観のダンジョンなんだろうなぁ。
シアみたいにレベル上げ目的じゃないけど、是非とも行ってみたい。
「それじゃあ、次はそこに案内してくれ」
「え!?あそこですか?」
俺も行ってみたくなったのでジャックに頼んでみると、彼は目を見開いて驚いた。
「なんだ?何か問題あるのか?」
「いえ、あると言えばある、無いと言えばないと言いますか……」
気になった俺が尋ね返すと、なんとも煮え切らない様子のジャック。
「一体どっちなんだよ。入場禁止だとか、何か入るのに条件があったりするのか?」
「そういうのはないんですが……」
しかし、別に入場制限がある訳でもないという。
一体どういうことなんだ?
まぁ入れるなら問題ない。
「兎に角いいから、そこを案内してくれ」
「はい、分かりました……」
俺が案内を頼むと、ジャックはガックリと項垂れるように首を縦に振った。
ジャックがそんな様子になるなんて逆に気になるな。
俺はアンテロープダンジョンが楽しみになった。
「よし、アンテロープダンジョンはどこだ?」
「こ、この辺りです」
俺は再びジャックに地図を見せてアンテロープダンジョンの場所を確認すると、ジャックは地図を拡大させて場所を示した。
「ラック、次の場所はここらへんだ。大丈夫か?」
「ウォンッ」
「そうかそうか」
ラックも問題ないというのでさっさと移動してしまおう。
「それじゃあ、また転移するから俺の近くに集まれよ」
『了解』
『は、はい……』
俺の言葉に七海たちはなんの疑いもなく集まり、ジャック達はトボトボと近づいてきた。
「ラック」
「ウォンッ」
前日同様に俺達は一瞬の浮遊感の後、別の景色が広がる場所に居た。
周りは砂漠のような土地で、周りには人が済んでいるような気配も形跡もない。
「この辺りって人が住んでいないのか?」
「そうですね、住んでいないと言うか住めないと言いますか……。この辺りくらいまでモンスターがやってきますからね」
「なるほどな。ダンジョン内ではなくとも、モンスターの行動範囲内ということか」
確かにモンスターがやってくるんじゃ、探索者でもない限り撃退が難しいし、おちおち寝てもいられないもんな。
それなら仮にこの辺りに住んでいたとしても放棄するしかないか。
「それじゃあ、早速中に行こうぜ」
「はぁ……本当に行くんですね?」
納得した俺が先を促すと、物凄く嫌そうな顔をして再度俺に尋ねる。
よっぽど行きたくないらしいな。
「ああ。どうしても行きたくないって言うなら別に残っていても構わないぞ?」
「ホントですか!?」
別にダンジョンの中は案内してもらわなくてもいいだろうし、そこまで行きたくないなら待っていてもらえばいい。
そう提案したらジャック達は物凄い勢いで食いついた。
「勿論。別に無理強いするつもりはないさ」
「すみません。それじゃあ、申し訳ありませんが、入り口まで案内しますんで、それ以降は兄……佐藤さん達だけで楽しんできてください」
俺が肩を竦めるように言うと、申し訳なさそうに返事をするジャック達。
「了解。何もないところで待ってるのもアレだろうし、車出しておくから」
「ありがとうございます」
「それとこれ」
「これは案内してくれた礼と宿泊にでも使ってくれ」
「ありがとうございます!!あに……佐藤さん!!」
「あざーっす!!あに……佐藤さん」
何もないところで待っているのも大変だし、影に仕舞っておいた車を出してやり、ついでに魔石を換金して得たお金をいくらか二人に渡した。
二人は感激して頭を下げた。
それから俺達は次の日の朝に九時頃に待ち合わせをしてダンジョンの入り口まで案内してもらった後、二人と別れた。
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