第249話 ジ・アメリカン
「ほわぁああああ、これがあの有名なルート六六なんだね」
俺達は車で揺られること数時間。
言い方は悪いけど、少し古い時代の街並みが残っていて、どこか寂れた感じの哀愁漂う如何にも過去のアメリカといった雰囲気を感じさせる。
七海はその街並みを見て目を輝かせ、窓に張り付くようにして見入っていた。
「兄……佐藤さん。どうです?ちょっと腹が減ってないですか?そろそろお昼時ですし、この辺りでご飯を食べるのはどうですかね?」
ジャックが運転しながらチラリと俺達の方に視線を向けて提案する。
「それはいいな。ぜひそうしてくれ」
「了解しました」
俺は確かに腹が減ったので、その提案に乗ることにした。
「わぁい!!どんな物が食べられるんだろう?」
「ん!!」
七海とシアはアメリカで食べる初めての料理に思いを馳せる。
シアのアホ毛がピコピコと動いて嬉しそうにしているのが分かった。
「あんまり期待しないほうがいいわよ?」
「でも案外いいんじゃないかしら。日本とは全然違って楽しめるには違いないでしょうから」
「そうね。確かにそうかもしれないわ」
元々アメリカに住んでいた天音は俺達が嬉しそうにしているのを見て釘を刺そうとしたみたいだけど、零の言葉に納得の表情を見せる。
「それじゃあ、知ってる店に案内しますね」
「了解。頼んだ」
ジャックが俺達の会話を聞きながら問題ないと思ったのか自分の中で行き先を決めたらしい。
俺に異論はないのでそのまま案内してもらうことにした。
「ここです」
それから数分後、案内された店は一昔前を彷彿とさせる色彩と形の建物で、入り口に掲げられたどデカい看板にはデカデカとこう書いてあった。
「KING」
と。
「なんか名前からしてヤバそう!!」
「ん!!」
車から降りた七海とシアは目の前に聳え立つ店に目を輝かせまくって興奮している。
俺もこの若干レトロ感漂う佇まいの店にアメリカらしさみたいなものを感じてワクワクしていた。
「それじゃあ、行きましょう」
「うぃ~」
俺達はジャック先導の元、店の中に踏み入れた。
店内も外観と同じように、海外なのになぜか懐かしさというか郷愁というか、そういうものを感じさせる雰囲気が漂っている。
中に入った瞬間、店内の視線が俺達に集まる。やはり日本人はいないようで、注目を集めてしまうらしい。
「七人だ」
「あのテーブルに座ってください」
ジャックが近くに居た店員に人数を伝えると、一つのテーブルを指し示されたので全員でそこに移動する。店員にも滅茶苦茶じろじろと観察された。
少し居心地が悪いけど、物珍しい対象をついつい見てしまうのは人間の性みたいなものだろうから諦めよう。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん。海外ではいらっしゃいませって言わないんだね」
「そうだな。俺も初めて知った」
七海が面白そうに俺の顔を見ながら呟き、俺も同意するように頷いた。
日本では当たり前のことが他の国ではそうではないということがよく分かる。
「ここの店は、ホットドック、アメリカンドック、ステーキ、ハンバーグ、チキン、ポテトフライ、ハンバーガー、それにアイスが有名なんですよ」
「おお、いかにもアメリカって感じの料理が揃ってるな」
席に着いた俺達。ジャックがこの店の名物を教えてくれる。
「よし、やっぱりアメリカに来たらホットドックとポテトフライだろ!!」
「私ハンバーグ!!」
「ステーキ」
「ハンバーガーにするわ」
「私はチキンにしようかしら」
置いてあったメニューを見て、各々食べたいものを選び、ジャックが店員を呼んで全員の注文を伝えた。
そしてしばらくすると、料理が運ばれてくる。
「え!?」
「はぁ!?」
「ん!!」
その料理の数々を見て俺と七海とシアは驚愕する。シアは表情は変わらないけど、アホ毛が驚愕の顔文字を描いている。シアのアホ毛が器用すぎる。一体どうなっているんだ。
それはさておき、驚いたのはその量だ。
まずホットドックの大きさが尋常じゃない。成人男性の二の腕くらいの太さで、長さが四十センチはありそうだ。それにポテトフライは直径四十センチはありそうな大皿に富士山みたいに文字通り山盛りになっている。
ハンバーグとステーキは顔三つ分くらいはありそう。ハンバーガーはなんていうかバスケットボールみたいな大きさ、もう訳分からん。チキンも二羽分くらいはありそうなフライドチキンの山だった。
まさにジ・アメリカン!!って感じの量をまざまざと見せつけられた。
「あはははっ。兄……佐藤さんでも驚くことがあるんですね」
「ホントっす。兄……佐藤さんには驚くことなんて無さそうなのに」
驚く俺をみて微笑まし気に笑う現地の二人。
「いや、俺は普通の日本人だからな?」
『それはないっす』
俺は少しムッとして言い返すと、二人は少し食い気味に、しかも声を揃えて顔の前で手を横に振った。
解せぬ。
「はい、これ」
「ありがとうございます!!」
そんな俺達を尻目に、料理を提供し終えてもその場に残っていた店員に天音が何かを手渡し、店員は嬉しそうに顔を歪めてその場から立ち去っていった。
「天音、何を渡したんだ?」
「チップよ」
「チップ!?」
天音に尋ねると、店員に渡したのはチップだと言う。
これがあの伝説のチップ文化!!
くぅ~!!どうせなら俺が渡したかった。
「えぇ~!!そういうの本当にあるんだ!!」
「ん」
海外初体験の七海とシアが興味深そうに天音を見る。
「べ、別にこっちじゃ普通の事よ」
好奇心に満ちた表情で見る二人に、恥ずかしそうにそっぽを向く天音。
「あーちゃん、かっこいい!!」
「ん。出来る女」
「や、止めてよ……!!ホントに大したことじゃないんだから」
天音のとしては普通のことをしたつもりなのに二人に滅茶苦茶褒められてアタフタと手を振って狼狽える。
「うん、俺も天音みたいにカッコよく渡したいな」
「バ、バカ!!変なこと言ってないで、さっさと食べましょ。冷めるわ」
その様子を見て俺も本心を言ってみたら、顔を真っ赤にした天音に怒鳴られてしまった。
でも、確かに天音の言う通りだった。
「そうだな」
俺は天音の言葉に頷いて「いただきます」と挨拶をして食べ始めた。日本勢は俺に倣って挨拶をしてから食べ始める。
料理の味もジ・アメリカン!!って感じだった。
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