第248話 プライスレス
ダンジョンから出てきた俺達。
「ふぉああああああああ!!これはよく見る広大なアメリカ!!」
七海がダンジョンを出た先に広がる景色を見て思わず叫んだ。周りにいる現地の探索者が物珍しい日本人の俺達に好奇の視線を送ってきて、近づこうとする者も何人か居る。
しかし、ジャックとジョージを見るなり、ギョッとした表情になって何処かに行ってしまった。
「お前ら何かヤバいことしてるんじゃないだろうな?」
「いえいえ、何もしてませんよ、兄……佐藤さん」
「そうっすよ。俺らは品行方正で通ってますからね!!兄……佐藤さん」
俺は周りの人の視線を受けて訝し気に二人に尋ねると、彼らはなんだか焦った様子で首をブンブンと横に振る。
こいつら一体何をやらかしたんだ?
それにお前らが品行方正ってないでしょ。
ダンジョン内であんなことしておいて。
まぁ実害がない内はどうでもいいけど。
「はぁ……いいか?次兄貴って呼んだらデコピンするからな?」
「ひっ。分かってます!!」
「うす!!」
また俺を兄貴と呼びそうになった二人にデコピンを構えて凄むと、二人はブルブルと震えて返事をした。
「それから俺達にしたようなことを誰かにしたら、次からはお前たちについてるラックの影魔が容赦しないぞ?」
「「グルルルルルルッ」」
二人の影の中からラックの影魔が唸る。
最近影魔が大分実体に近くなってきている。ラックも日々進化しているらしい。
「ひゃ、ひゃい!!わかりました!!」
「い、以後気を付けます!!」
「分かればよろしい」
なぜこいつらがここまで聞き分けが良いのかと言うと、ダンジョン内でシアが俺にこんなことを言ったからだ。
「ふーくん、あの岩にデコピンして」と。
俺は言われるがままに、デコピンをすると俺の何倍も高さのある大岩が消し飛んだ。
やっぱりダンジョン内の構造物って脆いよな。
俺がそんな風に思っていると、二人にシアと零がなにがしか話し、二人が首を猛烈に縦に振ったかと思えば、さらに俺に従順になった。
あのシアと零が一体何を言ったのか知らないけど、二人が大人しくになったならそれでいい。そういえばこんなことは以前にもあった気がする。誰か忘れたけど。
とりあえず二人の事は置いておいて、今はこの雰囲気を楽しもう。
「確かに荒野のど真ん中にポツンと立つと、世界の広さと自分のちっぽけさを感じるよな」
「うん!!地球ってデッカいんだねぇ!!」
周りをあちこち見て感動している七海に声を掛けると、妹は興奮冷めやらぬといった様子で俺にニッコリと笑う。
この笑顔、プライスレス。
俺はこの笑顔が見れただけで七海を連れてきた甲斐があったなぁと思った。
「さて、まずはどこに行くんだ?」
「まぁやっぱりグランドキャニオンですかね、それとその途中にルート六六がありますからそこから行きましょう」
「移動はどうするんだ?」
「俺達の車を使いましょう」
「分かった」
俺達はハンターズギルドで手続きと魔石を換金した後で二人に尋ねると、ジャックとジョージの車に乗り込んでダンジョンから出発した。
ただ、こいつらが乗っているのはハイエースだった。
この乗り物は良く女性を攫ったりするのに使われることで極一部で有名な車である。
「お前ら、まさかと思うけど、女性を攫ったりしてないだろうな?」
「そ、そんなことしてませんよ、兄……佐藤さん」
「そ、そうっすよ。ちょっとばかりこの中で楽しんだりはあったかもしれませんが……」
「ちょ、変な事言うなお前!!」
俺が念のため確認すると、二人は運転席と助手席から焦ったように返事をする。ただ、ジョージが墓穴を掘っておかしなことを言ったせいで、ジャックがジョージを咎めた。
『
「あっ!?ちょ、ちょっと止めて!!痛い!!痛いから!!」
「痛たたたたたたたた!?勘弁してください兄……佐藤さん!!これからは心を入れ替えますから!!二度としませんから!!」
女性陣からの有罪宣言にラックの影魔達が顔だけ出して二人に噛みつき始めた。
二度としないという言質を取ったし、二人が車が蛇行して対向車線に飛び出しそうになって危ないのでそれくらいにしておいた。
「おお!!これだよ、これ。何にもない場所に一本の道路が通っているこの風景っていいよな」
「そうだね!!これぞアメリカって感じ!!」
「ん!!」
ダンジョン施設を出てしばらく走ると、前も後ろもどこまでも続く一本道。辺りには建物らしい建物も無く、広大な自然ばかりが目に入る。
俺は思わず興奮して叫ぶと、七海とシアもその光景を見ながら興奮気味に返事をした。
そういえば、天音と零はあまり感動した様子がないな。
「天音と零はあんまり驚かないな?もしかして来たことがあるのか?」
気になった俺は二人に尋ねる。
「そうね、私は大学の卒業旅行と仕事で何度か来たことがあるから初めてじゃないのは確かね」
「私は来たことがあると言うか、この前までアメリカに住んでたしね。むしろ懐かしいわ」
「え!?天音ってアメリカに住んでたのかよ」
俺は零はともかくまさかの天音の言葉に驚いて振り返って天音の顔を見た。
「まぁね。そのせいで入学一年が遅れたのよ」
「ああ、なるほど。そういうことだったのか」
肩を竦めて返事をする天音。
通りで二人の反応薄いわけだ。
来たことがあったり、元々住んでいたんじゃ驚くこともないもんな。
俺は二人の反応の理由を知って深く頷いた。
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