第245話 負けられない闘い

「このダンジョン初めてきたけど、この洞窟って実家の近くにあったダンジョン思い出すね」


 七海がダンジョンをキョロキョロと見渡して感想を述べた。


 確かに言われてみればあのダンジョンと似ているかもしれない。


「ん」

「そうかもな」


 一緒に行ったシアと俺が同意する。


「そういえば私も調査に行ったんだったわ。確かに似ているかもしれないわね」


 遅れて俺達の報告を受けてあのダンジョンを見に行ったらしい零も首を縦に振った。


 まさか零が直接見に行ってくれていたとは……。

 やっぱり零は頼りがいがあるよな。


「えぇ!?もしかして私だけそのダンジョン知らないの!?」


 四人で懐かしい思い出を共有していると、一人だけ野良ダンジョンに行った事がない少し悲し気な表情で驚く天音。


「そういえばそうか。天音以外は全員行った事あったな」

「えぇええええ!?ズルくない?私も行きたいんだけど?」


 天音の言葉を受けてようやく彼女以外全員があのダンジョン行った事があることを認識して漫然としながら呟いた。


 俺の言葉で自分だけ行った事が無いと知った天音は騒ぎ始める。


「だから前にも説明したけど、調査中になったって言っただろ?」

「そうね、今はあそこは封鎖中になっているわ」

「そこはほら、ラックの力でちょろっと。お願い!!」


 俺と零が封鎖になっていると言って諦めさせようとしたんだけど、よっぽど仲間はずれが嫌なのか、片目瞑って俺に拝むように手を合わせた。


 はぁ……。俺も朱島ダンジョンが封鎖されたにも関わらずに潜っていた口だから人の事言えないしなぁ。


 俺は申し訳なさげに零の顔を見る。


「はぁ……まぁ封鎖は結構危険だからしているだけだし、私達なら万が一もないと思うからいいんじゃない?完全封鎖された朱島ダンジョンで狩りをしていた時点で今更だしね」

 

 俺の言いたいことが分かった零は、少し呆れたようにため息を吐いた。


 どうやら俺達の行動を黙認してくれるらしい。

 結構融通もきくところが零の素晴らしいところだよな。

 普通なら絶対ダメだと禁止されてもおかしくない。


「やった!!」

「でも、別に面白いことはないと思うぞ?」


 嬉しそうに飛び跳ねる天音に水を差すようで悪いけど、一応釘を刺しておく。


 別に今まで探索したダンジョンと変わりがないので、特別な面白さがある訳じゃないからな。


「いいの!!一人だけ仲間外れって嫌だもの」

「そっか。それなら今度皆で行こう」

「ありがと!!」


 やはり一人だけ思い出を共有できないことが悲しいらしい。


 天音はダンジョンに行けることを喜び、頬を緩ませながら今までよりも嬉しそうに感謝したかと思えば、俺の左腕を取り胸を押し付けてきた。


 天音の防具はチャイナドレスっぽい武闘服なので彼女のひと際大きな果実が俺の腕に合せて形を変えて包み込み、その感触を俺の腕にダイレクトに伝える。


 これは零と天音だけが出来る技で、パーティの中、というよりは女性としてはかなり大きな部類に入る天音のそれは、凄まじい破壊力を持っていた。


「お、おいおい、引っ付くな。ダンジョンの中だぞ?」

「そんなこと言ってぇ。嬉しいくせに!!」


 慌てふためく俺に、ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべてさらに胸を押し付ける天音。


「あっ!!あーちゃん、ずっるぅーい!!私もやるぅ!!」


 そんな天音を見た七海がもう片方の腕をとった。


 妹に欲情することはないんだけど、七海の胸は悲しい程にぺったんこだった。


「わぁーん!!あーちゃんみたいにできないよぉ!!」


 スカスカの俺と七海と間の隙間。その絶望的な戦力差に七海は悲しそうに叫んだ。


「ん、ななみん。次私」


 懲りることなくクイーン天音に挑むチャレンジャーシア。七海は大人しくシアに場所を譲る。


 七海よりは断然柔らかな曲線を描いているシア。俺の腕を取って腕を組むと、確かに彼女の持つ柔らかさを感じる。


 それはそれとして良い物だと思うけど、天音との圧倒的質量差の前には視覚的にも感覚的にもなす術がなかった。 


「ん……」


 シアは自分と俺の間の状態と、天音と俺の間の状態を見比べた後、悲し気な声出すと、アホ毛がしょんぼりしてしまった。


 どうやら心が敗北してしまったようだ。

 そこは勝ち負けではないんだけど、女のとしては負けられない部分なのかもしれない。


「ふっふっふ。私のおっぱいに勝とうなんて十年早いのよ!!」


 天音はしょんぼりする二人を見て胸を張ってドヤ顔で得意げに勝ち誇った。


「はいはい、あなた達。そろそろいい加減にしなさい。佐藤君が困っているし、ここがダンジョンだと言うことを忘れないで」


 はしゃぐ俺達を見て、大分入り口からダンジョンの奥に入ってきた俺達に年長者である零が注意する。


 おお、流石年長者。しっかりしているな。


「いいじゃない。零もやりましょうよ」

「いや、私はそういことは……」

「減るもんじゃないし、別にいいでしょ?」

「ま、まぁしょうがないわね。私で最後ですからね?」


 しかし、俺の関心も束の間、注意を無視して天音が零を戦いに誘うと、一度断ったものの、強く誘われて満更も無さそうなすまし顔でほんのりと顔を染めて、零はシアと場所を変わろうとした。


「結局やるんかい!!俺の気持ちを返せ!!」

「え!?」


 俺は思わず突っ込んでしまった。零は驚いて動かなくなった。

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