第244話 調査(旅行)の始まり

 見事Dランクに昇格し、家に帰ってお祝いされた俺達。


「黒崎さん、お手伝いありがとね」

「いえいえ、これくらいしないと」

「天音ちゃんもお風呂ありがと」

「どういたしまして!!」


 その日は全員新佐藤家に泊まり、次の日に備えることになった。


 シアと七海はソファーに座って一緒にテレビを見て、零は母さんと一緒に台所に立って洗い物をしている。天音はお風呂を洗って沸かしてくれた。


 三人ともすっかりウチに馴染んでしまっている。


 母さんも母さんで、皆を気に入って娘みたいに扱っている節がある。皆見た目も性格も悪くないから可愛いんだろうな。


「じゃあ、今日は私から入るね!!」

「ん」

「いいわよ」

「問題ないわ」


 今日は七海から入るらしく、他の面々もそれに異論はないようで手慣れたものだ。


 勿論俺は一番最後である。


「俺もDランクか……」


 皆がお風呂から上がり、最後の俺の番になった。


 体を洗って風呂に浸かると、これまでのことが頭に思い浮かんでくる。


 思えば最初はステータスがなくて全く強くなれないと思っていたけど、幸い熟練度と言う探索者の裏試験に相当する能力だけは残っていてくれたおかげで、今となってはBランクのモンスターも倒すことが出来るようになった。


 探索者のランクがDになれただけでも御の字だ。


 だけど、Bランクモンスターが倒せるならBランクまでは上がれるはずだ。少なくともそこまでは上がりたいなぁと思う。


「明日からの海外旅行兼調査兼ダンジョン探索でもっと頑張らないとな!!」


―ザバーンッ


 俺は気合を入れながら勢いよく立ち上がり、風呂から上がった。


「えへへ~。お兄ちゃんの匂い~。す~は~。す~は~」


 その日は皆を泊めるので七海は俺と一緒に寝る。七海は俺にしがみついて俺に匂いを思いきり吸い込み、他の男には見せてはいけないようなだらしのない顔になっていた。


 七海が徐々に変態じみてきたような気がするんだけど、気のせいだろうか。

 とりあえず俺にやる分には害はないので放っておくことにしよう。


 俺は明日に備えて意識を落とした。


「皆準備はいいか?」

「ん」

「問題なーし!!」

「バッチリよ!!」

「私も大丈夫よ」


 翌朝、全員に尋ねる俺に、皆がやる気満々といった表情で答える。


 夏休みまでの間に買い物や準備は済ませているし、零と葛城夫妻の働きかけによって俺達は他国に居ても問題ないという許可証もらっているので、心置きなく転移し、その先の国をわが物顔で歩くことが出来る。


「どんな風に調査を進めるか決まってるのか?」

「ええ。どうやら失踪報告があるダンジョンはある程度絞られているみたいだわ。だから現状失踪報告のないダンジョンに関しては除外して、失踪の報告があったダンジョンのみ回っていくつもりよ」

「なるほどな。確かに失踪報告もないダンジョンを調べてもあんまり意味ないもんな」

「罠にハマってないだけという可能性もあるから意味がないとは言えないけど、優先順位が低いのは確かね」


 詳しい話を聞いていなかったので零に調査の方針を確認すると、どうやらある程度決まっているらしい。


「そっか、今回は零が指揮を執ってくれ。俺達はそれに従う」

「分かったわ」


 いつもは俺が指揮役をやっていたんだけど、今回は零の調査の手伝いという側面が強いし、何よりプロに任せた方が良さそうなので、今回は零に任せることにした。


「それじゃあ、まず今日は浪岡ダンジョンにいきましょう」

『了解』


 俺達は零の指示に従い、浪岡ダンジョンを目指して移動を開始した。


 それから一時間程移動に費やした俺達は、浪岡ダンジョンの前までやってきた。


 この前のような騒ぎは起こっておらず、それどころか封鎖の情報が行き渡ったのか閑散としている。ダンジョンの近くにはバリケードが置いてあり、封鎖しているのというのが視覚的にも分かりやすくなっていた。


「ここは今立ち入り禁止ですよ」


 俺達がダンジョンに近づくと、監視員が俺達に話しかけてきた。


「私はこういう者です。許可を貰っているので通らせていただきますね」

「Sランク!?し、失礼しました」


 零が監視員を納得させるために、ギルドカードと許可を得たという書類を見せると、監視員はギョッとして佇まいを正し、頭を下げる。


「いえ、職務お疲れ様です」

「えっと、そちらの方々は?」


 気にするなと手を振る零に、監視員は視線で俺達を示して尋ねた。


 どうやら俺達が全員探索者になって日の浅い若い人間しかいないので、ここにいることに疑問に思っているらしい。


 俺でも疑問に思うので仕方ないと思う。


「私の調査に同行してもらうパーティです」

「随分とお若く見えますが……」


 零が返事をするが、未だに納得していない様子の監視員。


「あんまり見た目で判断しないことです。痛い目を見ますよ。それに全員許可を貰っているので問題ありません」

「そ、そうですか。分かりました」


 監視員の様子をみた零が凄んで全員の名前が入った書類を突きつけると、青ざめた顔になりながらようやく彼は首を縦に振った。


 俺達は怯える監視員に見送られながら浪岡ダンジョンの中に足を踏み入れた。

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