第243話 もう訳分からないEランク探索者達(第三者視点)

「もうほんとに大丈夫なんですか?六条さん」

「は、はい、大丈夫です。ただ現実を受け入れられないだけですから」


 大学生の新垣茂と少し年上の六条小春は仕事を終え、報告書を支部に届けるため、最寄駅から支部までを歩いていた。


「ああ~、そういうことでしたか。分かりますよ、その気持ち」

「え?」


 茂は具合の悪そうな小春を見て心配していたのだが、小春の言葉を聞いてようやくなぜ彼女の様子がおかしいのか理解できた。しかし、当の小春はそんなことを言われるとは思っておらず、声を漏らす。


「彼とは二度目なんですが、前回自分もその異常さを受け入れるのに時間がかかりましたから」

「そ、そうなんですか。あれってやっぱり現実なんですよね?」

「そうですね、夢だったらどれだけ良かったか。今回は前回以上だったので間違いなく現実ですね」

「ですよねぇ……」


 極力普人とアレクシアの情報は出さないように気を付けながら、二人して現実逃避気味にどこか遠くを眺める。


 どちらもまだまだ若い探索者であり、周りから優秀だと言われている探索者だ。実際茂はBランクに昇格していたし、小春も同じくBランクの探索者だった。


 その二人をもってしても普人とアレクシアはEランク、いや今はDランクになっている訳だが、明らかに逸脱した力を持っていた。


「正直SランクとかSSランクとかでもいいくらいだと思います」

「そうですね、あれが自分より下のランクだなんて信じたくないですから」


 小春にとってはとんでもない衝撃だった。


「自分も初めて見た時はビックリしましたよ。なにせモンスターを指定するだけでどこにいるか分かるらしく、最短距離で移動し、一発殴ればどんなモンスターも破裂。一撃で倒せないモンスターはいませんでしたから。そっちはどうでしたか?」

「葛城さんも異常でしたね。彼女は……」


 自身よりはるかに若く、経験も浅そうで、鍛えてるふうでもなさそうな女の子がとんでもない品質の武器を軽々と振り、無感情に作業のように敵を一刀の下、次々と屠っていく姿には戦慄した。


 野営の時は普人と同じように贅沢なキャンプセットのような物を出そうとしたので、慌てて止めて自分のシートを貸してやったら、そのまま横になって寝息を立ててしまった。


 しかし、敵が近づいてくると前触れなく目を覚まして敵を切り裂き、終わればまたすぐに横になってスヤスヤと寝息を立てるという器用なことをしていた。


「なるほど。流石彼のパーティメンバーですね。しかし、思ったよりも普通ですかね。いやこれは比較対象が彼のせいかもしれないですが。あはははっ……」

「あ、あれよりも凄いんですか?」


 新垣はアレクシアの凄さを聞いていたが、普人に比べると普通だなと思ってしまったのは、すでに感覚がおかしくなってしまっているからだろう。


 小春はアレクシアよりヤバいと聞いて思わず声が上擦った。


「はい、今回はさらにヤバくなってましたね。まずモンスターが見えた瞬間、モンスターがはじけ飛びました。それに時々変わるダンジョン内部構造をあたかも熟知しているかのように最短距離で階段を発見し、一日で半分以上の階を踏破しました。ずっとランニングさせられましたよ。おかげで疲労困憊です。あはははっ……」

「それはヤバいですね……彼女はそこまで行けなかった」


 茂の話を聞いて、さらに顔を青くする小春。


 いくら強いと言ってもダンジョンは広い。その中でも自然系のダンジョンは物凄く広い傾向がある。今回試験を行った森林ダンジョンもその部類に含まれており、一階一階が異常に広かった。


「そうなんです。しかし、もっとヤバいのが野営の時でした」

「いったい何が……ゴクリッ」


 さらに話を続ける茂に、小春は先を先を聞きたいような聞きたくないような気持になりながら喉を鳴らす。


「はい、彼も彼女と同じように贅沢なキャンプセットを出したので、代わりに自分のと交換して野営させたのですが、彼はモンスターがやってきても一度も起きませんでした」

「え?」


 一度も起きなかった。そう聞いた小春は耳を疑った。


「そうですよね、何言ってるか分かりませんよね」


 小春の反応を見て茂は苦笑いを浮かべる。


「い、一体どういうことなんですか?」

「はい。彼に近づいたモンスターは、彼が何もしていないのにその悉くが破裂して魔石となって消えていくんですよ」


 小春が恐る恐る尋ねると、答え合わせするように自分が見ていた光景を遠くを見ながら話す茂。


 彼も現実を受け入れることが出来なくなっていたが、あまり考えないことにしていたのだった。


「はぁ!?」

「ホントわけわかりませんよね、普通何もしないで寝ていたら減点確実なんですが、彼の場合は寝たまま迎撃できるので、減点できないんですよ」


 アレクシア以上に訳の分からない普人に思わず声を荒げる小春。そんな小春を茂はようやく得た同類を見るような眼で見ながらさらに説明を続けた。


「どっちにしろ、どちらも訳が分からないですね、ホント。お酒でも飲んで忘れたいです」

「いいですね。報告書を提出したら、飲みに行きませんか?パァッとやって忘れましょう」

「そ、そうですね、それもいいかもしれません」

「そうと決まればちゃっちゃと提出しちゃいましょう」


 現実を忘れたい二人は酒を飲んで現実逃避をすることにした。


 実は茂は小春を良いなと思っていた。彼女はスポーティで気の強そうな大きな目を持つ美人だ。そのため、願ったり叶ったりだった。


 茂にはどこかの職員とは違い、嬉しい結末が待っていたのだった。


 しかして、普人とアレクシアは恋のキューピッドとして、二人の結婚式に呼ばれることになるのだが、それはまだ先の話。

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